忌み子王子とワガママ姫

朝比奈

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ワガママ姫の言い残し

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   私はシリウス様と共に、色とりどりの花々が咲き誇る庭園に来ていた。

「綺麗ですわね」

    想像よりも遥かに大きく、そして、美しい庭園を、私はうっとりとした気持ちで見つめた。

「気に入って貰えてよかった」

    シリウス様が安心した声でそう言った。

「ここもだが、この庭園は一部解放して、誰でも入れるようにしてある。だが、あまり人が近寄らない場所だ」

「え··········」

    意外な一言に私はシリウス様を見上げた。今も、奇妙な仮面を付けているシリウス様を見て、少しだけ笑いが込み上げそうになった。
    しかし、シリウス様はそんな私の様子には気づかずに、話を続けた。

「今はまだ季節では無いが、限られたものしか入れない、解放されてない庭園もあるんだ」

「まあ」

「後、半年もすれば、解放されてない方の庭園で、可愛らしい花がいくつか花開く」

「それは楽しみですね」

「ああ、アナベル姫にも、是非見てもらいたい」

「ええ、是非見てみたいですわ」

   一体、どんな花だろうと私は想像した。

   この庭園に咲く花も素敵だけれど、と考えてシリウス様の様子を伺う。

    なんだろう·····少し、空気が重くなった気がした

「あの、シリウス様·····?」

「·····なんだ?」

「いえ、少し·····元気が無さそうに見えたので·····」

   仮面で顔は見えないから、表情は分からない。けれど、声を聞く限りは先程と変わった様子は無かった。

   勘違いかな·····、そう思った時。

「すまない、少し、考え事をしていた·····」

    シリウス様が申し訳なさそうに言った。

「考え事ですか?」

「ああ。気にしないでくれ」

「·····ええ、分かりました」

    言いたくないことは誰にでもある。私はシリウス様の考え事を追求せずに、笑顔で頷いた。それからは、他愛のない会話がポツリ、ポツリと続いた。

    ゆっくりと二人で庭園を歩いて回る。

    すると、そんな和やかな雰囲気を壊す出来事が起きた。


「シリウス様、あちらの花は?」

    それは、丁度わたくしがシリウス様にお花の説明をしてもらっていた時。後ろから小さな悲鳴が聞こえわたくしとシリウス様はほぼ同時に振り向いた。

    すると、ハッとして口元を抑える令嬢がそこにいた。シリウス様が何かを言おうとして一歩踏み出す。


「──ヒィッ!  シ、シシシシリウス様ッ!!」

    すると、ご令嬢はたったそれだけで、顔を真っ青にして小刻みにブルブルと震える。

   一方で私は一気に不愉快な気持ちになった。

    全く、いきなり現れたかと思えば、誰ですの?  この女は。

    私は礼儀のなっていない令嬢をキッと睨みつけてみた。けれど、彼女の視線は依然として、シリウス様にのみ注がれている。

    私は眼中に無いってことですわね。

「メアリ嬢·····」

   シリウス様が呟く。
   すると、その声が聞こえたのか、目の前の令嬢はまた小さく悲鳴をあげた。

「シリウス様」

    いつの間にか、騎士の方々が近くに来ていたみたい。シリウス様に少し離れたところから話しかけていた。

「後は頼んだ」

   シリウス様は何かを指示した後、わたくしになにも言わず、一人で颯爽とどこかへ歩き出した。


   追いかけようとしたわたくしを赤髪の騎士のが呼び止める。

「アナベル・ラ・リレット姫」

「何かしら?」

「部屋まで案内致します」

「·····部屋の場所は覚えてるもの、必要ないわ」

「ですが·····」

   私は鋭い眼差しで騎士を牽制し、シリウス様の後を追うことにした。けれど、言い忘れていた事があったので、一度足を止め振り返った。

「ねえ、貴方」

   私は適当に赤髪の騎士を指さし、へなへなと座り込んだご令嬢に聞こえる声で言った。

「この国には、王族に対しての礼儀は無いのかしら?」

    視線を令嬢に移すと令嬢はサッと視線を逸らした。私は最後に、にっこりと笑って、その場を後にした。










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