朝が来るまでキスをして。

月湖

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76 変化 side hikaru

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怠い身体を動かして寝返りをうち、本気なのかと視線を上げると、いつもはキレイにセットされている髪が洗いざらしのまま下ろされていた。


ホントに、本当に本気で泊まっていく気なんだろうか。


じっと見つめたまま何も言えないでいると、彼は少し困ったような表情で俺を見た。



「ダメなら帰るけど」



そして踵を返そうとする。

そんな彼の様子に俺は慌てて口を開いた。



「ダメじゃなくて・・・っ!」



思ったより大きかった俺の声にナガレくんの足が止まる。



「そうじゃなくて・・・初めて、だから。本気なのかなって・・・思って」



「・・・いっつもすぐ帰るもんな、俺(笑)」



最後はモゴモゴ小さくなってしまった俺の言葉に、彼は自嘲的な笑みを見せた。

ねえ・・・なんで俺にそんなカオすんの?



「あの・・・ホントに?」



「ヒカルちゃんがいいなら」



「・・・いいよ」



ダメなわけない。

いつからか諦めていたけれど、最初の頃は望んでた事。

彼にとっては感情を伴わない情事だとしても、俺には違っていたから。


前髪を掻き上げる男っぽい仕草に目を奪われながら、スペースを空け毛布を捲ると



「さんきゅ」



そう言いながら、上着だけを脱いだ彼が俺のすぐ横に滑り込んでくる。

ギシ・・・ッと鳴るベッドの音は聞き慣れている筈なのに、シチュエーションが違うだけでなぜこんなに胸がドキドキするのか。



「・・・・・」



「俺が帰る時・・・ちょっとは、寂しかった?」



目を逸らすタイミングが分からないまま見つめていると、横向きになり肘を立てた彼が俺の顔を覗き込んでくる。

その、表情が。

いつもなら嘲笑を含みながら言われそうな事なのに。



「ヒカルちゃん?」



まるで無表情に近い、でも微かに眉を顰めた・・・切なげ、な・・・?



「・・・何か、あった?」



そう、訊かずにいられないくらいの変化。

さっきまで俺を激しく抱いていた人とはまるで別人のような。



「・・・なんもねえよ」



それがすぐに嘘だと分かるけれど、それ以上突っ込むのは怖くて。



「そ・・・?」



そう言うしかなかった。



こんな関係になる前はもっとずけずけ突っ込んでいたと思う。

後悔しているわけではないけど、それが寂しい。

自分が臆病になっただけなのだと分かってはいるけれど。


感情を読まれたくなくて、俺はナガレくんに背を向け枕に顔を埋めた。



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