朝が来るまでキスをして。

月湖

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113 ダメ押し

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ふふ。

カイの台詞がものすごく悔しそうで、それが笑いを誘う。

さすがヒカルちゃん。あっという間の勝負だったな(笑)



『結局なんだったんだよー』


『なー』



空気が変わったのか、黙っていたヒロキと朔也の声も戻ってきた。

もういいか。

近くにある販売機でヒカルちゃんの好きなコーヒーを買って楽屋に戻ると、そこはいつものような雰囲気になりつつあった。



「ただいま」



そう声を掛けて入ると、ほっとしたようなヒカルちゃんと目が合う。



「ヒカルちゃんさっきはサンキューな(笑)」



言いながら缶コーヒーを渡すと、ヒカルちゃんは一瞬だけコーヒーに視線を落とし、直後には仕事用の『七瀬ヒカル』の笑顔を作った。



「まったくだよ。勘弁してよね(笑)」



ホント。さすがだよ(笑)

その笑顔で完全にここは元通り。



「えー。何があったのさー!」



「言ったってどうせ教えてくれませんよこの二人は」



「なんか秘密主義だよな」



ほら(笑)

でもま、ダメ押ししとくか?



「ふふ? なに。聞きたいワケ?(笑)」



ニヤッと笑って見せれば、途端に食いついてくる3人。



「聞きたーい!」



そんな中、ヒカルちゃんだけが「え?」と俺を見ていた。



「ふふ。じゃあ、特別に教えちゃる(笑)」



ソファに座った俺の向かいに3人が陣取り、ヒカルちゃんは3人の後ろに静かに立った。

『大丈夫なの?』そんな表情を浮かべて。

それにふっと笑顔を返し3人に向き直ると、3人はキラキラ、好奇心満載な顔で俺を見ていた。



「あの女、付き合ってくんなきゃ俺との事週刊誌に売るとか脅してきてさあ。
 可愛い顔してとんでもねえよ。お前らも気ィつけろよ?」



「そんな女に引っ掛かるアナタが悪いんでしょうが」



「だって、顔とカラダはヨかったんだもん」



「うわ、サイテー(笑)」



「えー?カッコいいじゃん。タラシみたい(笑)」



「みたいじゃなくてそうだろ(笑)」



俺の台詞に好き勝手返す3人に、そろそろかな?と爆弾を投下してやる。



「そこにヒカルちゃんが『落ち目の女が近寄るな』って追っ払ってくれてさ。
思わず抱きついてキスしてやろうかと思ったわ(笑) 拒否られたけど(笑)」



ニヤッと笑ってヒカルちゃんを見ると、一瞬で俺の意図を汲んだのか、すかさず返す。



「当たり前だわ!」



そんな俺達のやり取りに『なーんだ』とつまらなそうに言う3人を見て、ヒカルちゃんが心底ホッとしたような表情をしていた。



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