【第一章完結】その女官、天帝秘書官につき 〜中華後宮謎解き妖綺譚〜

鳴猫ツミキ

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―― 幕間① ――

【*】天界:天帝と混沌氏①

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「天帝、天帝、どこですか?」

 周囲が右往左往、御簾の前も、そして中もまた探している。

「またあのお方は、気まぐれに……」

 はぁと眉間に刻んだ皺を指で解すようにして、秘書官長の黄成輝がため息をつく。初老の外見だ。仙力で神仙の老化速度は変わる。彼はかなり強い力を持っているが、この見た目になるほど長く、此処におわす。

 困ってしまうのは、天帝だ。いつも気まぐれに、ふらりと姿を消しては戻る。
 だが最高権力者たる彼を責めるのは難しい。

「なんだ」

 その時、天帝の声がした。天帝は欠伸をしながら成輝を見る。そして白い仮面を受け取り身につけた。

「……どちらへ?」
「ちょっとな」
「混沌氏がお待ちです」
「待たせておけばよい」

 不遜な天帝は、天子が纏うものによくにた白装束を身につけると、ゆったりと歩き、己の執務室へと向かう。その横が、謁見の間だが、混沌氏がいたのは、執務室の別の隣に在る居室だった。そこは――西域の造りに似た調度品が置かれている。中華大陸らしさ、という意味では、珍しい。

「混沌氏、何用だ?」
「三年半前に、きみが僕を呼び出したんだと思うけれどね」

 無表情の混沌氏の顔は白く、人形のように端正だ。黒い髪に黒い目をしている。服もまた黒い。

 この大陸の端緒の話をしよう。
 まだ、全ては混沌としていて、何もなく、無であった。それが無――いいや、混沌としている状態だと、初めて気付いた者が、天帝である。その時、自分と他者という概念が生じ、混沌氏という一つの神と、観測した天帝という神が生まれた。これが、創世神話のはじまりだ。

「ああ、そうだったな」
「どんなよう?」
「たまには問答もいいとおもったのだが」
「だが?」
「少しばかり、やることが出来た」
「ふぅん」
「どうせ、暇だろう?」
「まぁ」
「一年ほどの滞在を希望する」

 天帝はそう言うと、長椅子に混沌氏を促した。己は対面する席へと座る。そこに秘書官が、お茶を二つ運んできた。杏の香りがする。他には、饅頭が置かれた。その秘書官の気配が完全に去ってから、天帝は面を外す。

「俺を置いて、またちょくちょく何処かへ行くという宣言だと受け取るけど」
「察しが良いな」
「馬鹿でも分かるさ」

 混沌氏が茶器に手を伸ばす。ちょうど良い温度だ。香りと味を楽しみながら、混沌氏は述べた。

「あれ。そういえば今日は、あの子がお茶を持ってきたんじゃないんだね」
「あの子?」
「天帝のお気に入りの」
「っげほ」

 派手に天帝がお茶で咽せた。

「べ、別に俺は張雪玲を気にしていたりしない!」
「ああ、その子だ。そうそう、張雪玲」
「だから違うと言っているだろう」
「大方、その子と近づきたくてなにかするんでしょう? やめればいいのに。素直に好きだと告げた方が、こんがらがらないよ」
「だから違うといっているだろうが!」

 声を上げた天帝は真っ赤だ。だがそれは怒りからではなく、照れているからに、少なくとも混沌氏には見えた。

「頑張ってね」
「混沌氏。お前のその薄っぺらい声援は、俺の気を削いだ」
「知ったことじゃないよ」

 こうしてこの日、二人は茶を楽しんだ。
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