1 / 23
―― 本編 ――
【一】シナゴの話
しおりを挟むそれは、世界規模のパンデミックとして始まった。
――なんとなく、肩が重い。
――なんとなく、頭が重い。
――なんとなく、腰が痛い。
その後、共通項として、痔のような症状を呈した。そして急激な発熱を経る。
当初は、最初の症状が軽微なので……いいや人により重篤ではあるのだが、いわゆる気圧の変化が原因では無いのかとして見逃されかけた。だが、痔類似症状と発熱という特有の経過をするため、その病いは、病いとして認定された。しかしながら原因となるウイルスなどが見つからないまま、早二年。ある日、地球文明人類は、人工衛星で、その存在を捕そくした。
木星の衛星付近から、月などを経由して、地球上に何がが降ってくる。
降ってくる黒い物体からは、何かがまき散らされている。
最初に採取された、その『粉』を解析し、実験動物に摂取させた結果、まさしく、その当時『rhume chronique de type anal』こと日本語名称『肛門型慢性風邪』の原因が判明した。黒いウニョウニョした巨体には、眼球型の部位と触手が何本もついている。そこからまき散らされる粉が病いの原因だと判明した。
人類は対応に追われた。特にそれらを発見した欧州が主導し、対策のための様々な医薬品――そして、降ってくる謎のいかにも知的生命体風の物体に対しての兵器開発もなされた。そうして生み出されたのが、バトルスーツである。
しかしながらこのバトルスーツ、操作するには、人間の創造性に関わるある脳の分野が一定以上活性している者でなければ、動かすことができなかった。理由は、想像力を駆使し、想像した通りの攻撃を行うからである。たとえば、『砕けろ』と念じて、それを上手く想像し、現実にそれが行われているイメージを構築できる者でなければ、使用できなかったのである。これは元を正せば、連綿と連なる魔術の視覚化の技法なのだが、詳しいことは割愛する。
そこで適性がある者を調査するためのテストが開発された。
そして全世界で一斉テストが行われた。
ここまでは、ニュースでも繰り返し報道されている、一般常識である。
かくいう私も、そのテストを受けた一人だ。
まず梨野春花と、試験用紙に名前を書いた。年齢欄には、四十歳と記入。今では若人にとっては珍しくなりつつある昭和生まれだ。それも、第二氷河期に襲われ就職活動に失敗し、ド底辺ザ底辺を地で行く喪女である。これまでの間は、若くして交通事故で逝ってしまった両親の遺産を食い潰しながら、ジャージを纏って、引きこもり生活を送ってきた。だが、役所の人は、私のことすら逃してはくれず、怯えながらネット通販で私服を購入し、ボサボサの髪を結いゴムで整えて、私は試験会場へと来た次第である。
ちょっとだけ、ちょっと我慢すれば、テストは終わりだ。
何度も念じた私は、会話の仕方は――限界オタクなので、SNSの音声関連アプリで鍛えていたので問題は無かったので、無理にテンションを上げて周囲と雑談をしながら乗り越えた。
それから、一ヶ月後。
戻ってきた引きこもりによる平穏な生活の中、私はその日もSNSで世界を見ていた。
どのようなジャンルのアカウントでも、落下してくる物質についてや病気の話ばかりだ。物質というか、眼球付きのその存在は、全身に、『シナゴ』と日本語のカタカナで読み取れる文字らしきものが書かれているので、今では公的に『シナゴ』と呼ばれている。
あと三日もすれば、最初の一体目が、よりにもよって日本海に落下するらしい。
私の家は北関東なので、近いようで遠い。世界規模で見れば近いかもしれないが、東京湾なんて見たこともない。そう考えながら、冷房をガンガンにした室内で、私はもう六月も半ばだというのに長袖のパーカー姿でSNSに勤しんでいた。
ピンポーンと音がしたのはその時で、そういえば昨日ネットでズワイガニを頼んだんだったなと思い出す。立ち上がって、私は玄関へと向かった。
「はーい」
宅配業者以外来ないので、インターフォンを見ずに、私は扉を開けた。
「梨野春花さんですね?」
すると眼前に、黒いスーツ姿の青年が立っていた。
私より若く見える。多分、三十代前半だ。焦る。しかもイケメンだ。黒い髪に黒い切れ長の目をしている。繰り返すがイケメンだ。私は顔を背けた。眉毛はボサボサ、お肌はガサガサ。手入れをしていない。私は、自分の顔が嫌いである。手入れをしてお化粧をしたらもうちょっとはマシになるかもしれないが、やる気も起きない怠惰な人間なのである。
「内閣直轄特別シナゴ対策班より参りました、遠藤と申します。先日の試験の結果、国内唯一の、日本人として初のバトルスーツ適合者に貴女を認定致しました。これより、三日後に迫る防衛戦に備え、スーツの試着を行って頂きます。ご同行願います」
淡々とした声で言われた。
私は咽せそうになった。ただでさえ世界は嘘くさくておかしいというのに、まさかの私が選ばれた?
「え、あのっ……」
「残念ですが、貴女に拒否権はない。五分待ちます。必要最低限の荷物をまとめて下さい」
これが契機だった。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
YESか、はいか。〜守護者と少女の記録〜
MisakiNonagase
恋愛
返事は『YES』か『はい』。
あの日、少女がかけた魔法...
「君を一人前の大人にする。それが、あの日僕が兄夫婦と交わした、唯一の約束だった」
北関東の静かな街で、22歳の青年・輝也は、事故で両親を亡くした7歳の姪・玲奈を引き取ることになった。
独身の身で突如始まった「父親代わり」の生活。
不器用ながらも実直に玲奈を守り続ける輝也と、彼の背中を見つめて育つ玲奈。
二人の間には、血の繋がりを超えた、けれど名前のつかない絆が育まれていく。
しかし、玲奈が成長するにつれ、その絆は静かに形を変え始める。
叔父を「一人の男」として愛し始めた少女。
一線を越えぬよう、自らに「保護者」という呪縛をかけ続ける男。
「大学に合格したら、私のお願い、一つだけ聞いてくれる? 返事は『YES』か『はい』しか言っちゃダメだよ」
少女が仕掛けた無邪気な約束が、二人の関係を大きく揺らし始める。
進学による別れ、都会での生活、そして忍び寄る「お見合い」の影——。
共同生活を経て、玲奈が選んだ「自立」の答えとは。
そして、輝也が頑なに守り続けた「プライド」の先に待っていた結末とは。
これは、不器用な守護者と、真っ直ぐな少女が、長い歳月をかけて「本当の家族」を定義し直す、切なくも温かい愛の物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる