8 / 23
―― 本編 ――
【八】高崎博士の激怒
しおりを挟む「――おかえり、梨野さん。それと、改めましてNo.0000002」
基地へと戻ると、高崎博士が待ち受けていた。白衣のポケットに両手を突っ込んでいる博士は、本日は銀縁の眼鏡をかけている。その眼鏡の奥の瞳が、非常に険しい。
「龍景と申します」
「高崎葉純と申します。うちの梨野がお世話になったようですね」
「いえ? 私達は夫婦のようなものですので、お気になさらないで下さい」
景くんはにこやかであるが、高崎博士は、完全に冷ややかな空気を放っている。
「卵子を中国に提供した際、提供者に接触はしないようにと約束したのですが」
「私は存じませんが?」
「……とにかく梨野は貴方の奥方ではなく、この日本国の要です。以後、二度と勝手に連れ出さないで下さい」
高崎博士は、おそらく私を心配してくれていたのだろう。激怒しているのが伝わってくる。冷ややかな怒りは恐ろしいというのもあるが、私は昨夜の己を迂闊だったと呪った。
「梨野さん、急で悪いんだけど、この後は打ち合わせがあるから」
「は、はい!」
「行くよ」
歩き出した高崎博士を私は慌てて追いかけようとした。
すると――ギュッと手を握られた。振り返れば景くんが笑っていた。
「また今夜改めてお食事でも」
「打ち合わせが何時に終わるか分からないからなぁ」
「では、日程を調整しておきますので、空き次第」
「う、うん」
そんなやりとりをして、私は曖昧に笑ったが、現在はレンジの頭部なので表情は見えないだろう。そのまま高崎博士を追いかけていくと、小会議室に入っていった。中に続いて入ると、高崎博士が振り返った。本当に怖い顔をしている。
「梨野さん」
「は、はい……」
「移動の車に乗るまでの間のバトルスーツの位置のデータに間違いが無ければ、君は昨夜一晩中某高級ホテルのベッドの上で、龍景氏と重なっていたけど、率直に言ってヤったの? そうなの?」
率直すぎる言葉に、私は泣きたくなった。
そうだった、バトルスーツには位置を基地に送る機能があったのだった……。
「とりあえず座って」
「……はい」
いつになく乱暴な仕草で、高崎博士が椅子をひいて、どかりと座った。
その隣に私もおずおずと座る。
「国産のバトルスーツの情報は機密中の機密だし、君本人も唯一の着用可能者である点をまず伝えておきたいけど、分かってるよね?」
「……はい」
「ああ……チ」
私が泣きそうな声で頷くと、珍しく高崎博士が舌打ちした。私は乱暴な高崎博士の姿は初めて見た。そこまで激高しているのかと、思わず両腕で体を抱く。
「確かに僕には、君の私生活に口を出す権利はない。無いさ。ただね、言わせて貰ってもいいかな? むかつく」
「はい?」
「なにがよかったの? あんな若造の。顔はいいかもしれないし、確かに君の次には強いかもしれないけど、君を100としたら12くらいしか実力が無いからね?」
「え、ええと?」
「誰でも良かったの?」
「は、はぁ……?」
「せめて遠藤だったらまだ諦めたよ。だけどね、まさかの……まさかの……はぁぁぁあ」
「高崎博士?」
「僕だって君の事が好きなのに、なんなんだよ本当に……!」
「えっ」
「もう一度聞くけど、僕の何がダメなの? 僕じゃダメだったの?」
段々高崎博士の語調が荒くなってきた。腕を組み、私のことを激しく睨んでいる。
しかしそんなことを言われても、青天の霹靂としか言いようがない。
「ま、まさか……高崎博士は、私の事が好きなんですか?」
「悪いですか? ええ、ええ、大好きですよ!」
「初めて聞いたんですけど……」
「言わないと伝わらないって、君はどれだけお子様なんだ!」
「待って? だとしたら片想いの相手が朝帰りしたからといって、打ち合わせとして呼び出して、嫉妬心ぶつけてるって、高崎博士も大概じゃありませんか?」
「なんとでも言ってくれ。別に俺はユニコーンではないし、君は僕よりも三歳年上だし、誰と肉体関係を持とうが……イラっとはするけど、今後次第だ。二度と景氏と朝帰りなんかしないで下さい。ああああ、遠藤のむっつり役立たずと二人で行かせたのが間違いだった」
高崎博士が机の上で、指をダンダンダンと鳴らし始めた。
「梨野さん。まさか、景氏と結婚するの? そうなの?」
「いや、そういう予定はないですけど……」
「だったら僕にしておきなよ」
「いきなりそんなこと言われましても? だ、だって、今までそんな気配微塵もありませんでしたよね!?」
私が声を上げると、高崎博士が遠い目をした。それから脱力したように、椅子に座り直した。
「――僕は、これでも好きだとアピールしてきたつもりだった。本当に伝わってなかったと知って衝撃を受けてる」
「たとえばどんな?」
「君が少しでも戦わなくてよくなるように、僕はずっと必死に兵器を開発してきたんだ」
「それ、地球や日本のためでは?」
「梨野さんのためだったんだよ、僕にとっては」
「は、はぁ……」
「毎日、君のことしか考えてなかった」
「バトルスーツのことでは……?」
「それを身につける君のことしか考えてなかったんだよ!」
「いつから……?」
「世界のために必死で戦う君を見ていたら、心惹かれない方が無理だ。僕だったらやれないよ……ねぇ、僕を見てはもらえないかな?」
「そ、そう言われましても……驚きすぎて……」
「じゃあこれからは、僕の気持ちをきちんと覚えておいて。これからは、僕もわかりやすく行かせてもらうよ」
断言した高崎博士は、疲れたように吐息してから眼鏡を外した。
そしてきつく目を伏せてから、また大きく溜息をついた。
「次の日曜日」
「はい」
「シナゴ関連の緊急出動がなかったら、僕のために空けてもらえるかな?」
「は、はい!」
「――ごめん。冷静になってきたよ。正直嫉妬して八つ当たりした。ごめんね」
「い、いえ……もしも高崎博士と結ばれたら喧嘩が絶えない家庭になりそうで、DVの恐怖を味わいそうだとか思ったのは内緒です」
「口に出てるよ」
「あ」
「……僕も、自分にこんな風に激情があるとは思ってなかったよ……」
疲れた様子の高崎博士は、それから腕時計をチラリと見た。
「――打ち合わせというのは本当だよ。これから、ここに昨日の夜着任式があった、新総司令が来るから、ご挨拶を。まさか君がすっぽかすとはなぁ」
「本当に、すみませんでした……!」
このようにして、気まずい空間が続いたのではあったが、幸い数分後にノックの音がして、それは解決されたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる