自分の顔が嫌いなので、頭をレンジにしてもらった。

鳴猫ツミキ

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―― 本編 ――

【八】高崎博士の激怒

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「――おかえり、梨野さん。それと、改めましてNo.0000002」

 基地へと戻ると、高崎博士が待ち受けていた。白衣のポケットに両手を突っ込んでいる博士は、本日は銀縁の眼鏡をかけている。その眼鏡の奥の瞳が、非常に険しい。

「龍景と申します」
高崎葉純たかさきはずみと申します。うちの梨野がお世話になったようですね」
「いえ? 私達は夫婦のようなものですので、お気になさらないで下さい」

 景くんはにこやかであるが、高崎博士は、完全に冷ややかな空気を放っている。

「卵子を中国に提供した際、提供者に接触はしないようにと約束したのですが」
「私は存じませんが?」
「……とにかく梨野は貴方の奥方ではなく、この日本国の要です。以後、二度と勝手に連れ出さないで下さい」

 高崎博士は、おそらく私を心配してくれていたのだろう。激怒しているのが伝わってくる。冷ややかな怒りは恐ろしいというのもあるが、私は昨夜の己を迂闊だったと呪った。

「梨野さん、急で悪いんだけど、この後は打ち合わせがあるから」
「は、はい!」
「行くよ」

 歩き出した高崎博士を私は慌てて追いかけようとした。
 すると――ギュッと手を握られた。振り返れば景くんが笑っていた。

「また今夜改めてお食事でも」
「打ち合わせが何時に終わるか分からないからなぁ」
「では、日程を調整しておきますので、空き次第」
「う、うん」

 そんなやりとりをして、私は曖昧に笑ったが、現在はレンジの頭部なので表情は見えないだろう。そのまま高崎博士を追いかけていくと、小会議室に入っていった。中に続いて入ると、高崎博士が振り返った。本当に怖い顔をしている。

「梨野さん」
「は、はい……」
「移動の車に乗るまでの間のバトルスーツの位置のデータに間違いが無ければ、君は昨夜一晩中某高級ホテルのベッドの上で、龍景氏と重なっていたけど、率直に言ってヤったの? そうなの?」

 率直すぎる言葉に、私は泣きたくなった。
 そうだった、バトルスーツには位置を基地に送る機能があったのだった……。

「とりあえず座って」
「……はい」

 いつになく乱暴な仕草で、高崎博士が椅子をひいて、どかりと座った。
 その隣に私もおずおずと座る。

「国産のバトルスーツの情報は機密中の機密だし、君本人も唯一の着用可能者である点をまず伝えておきたいけど、分かってるよね?」
「……はい」
「ああ……チ」

 私が泣きそうな声で頷くと、珍しく高崎博士が舌打ちした。私は乱暴な高崎博士の姿は初めて見た。そこまで激高しているのかと、思わず両腕で体を抱く。

「確かに僕には、君の私生活に口を出す権利はない。無いさ。ただね、言わせて貰ってもいいかな? むかつく」
「はい?」
「なにがよかったの? あんな若造の。顔はいいかもしれないし、確かに君の次には強いかもしれないけど、君を100としたら12くらいしか実力が無いからね?」
「え、ええと?」
「誰でも良かったの?」
「は、はぁ……?」
「せめて遠藤だったらまだ諦めたよ。だけどね、まさかの……まさかの……はぁぁぁあ」
「高崎博士?」
「僕だって君の事が好きなのに、なんなんだよ本当に……!」
「えっ」
「もう一度聞くけど、僕の何がダメなの? 僕じゃダメだったの?」

 段々高崎博士の語調が荒くなってきた。腕を組み、私のことを激しく睨んでいる。
 しかしそんなことを言われても、青天の霹靂としか言いようがない。

「ま、まさか……高崎博士は、私の事が好きなんですか?」
「悪いですか? ええ、ええ、大好きですよ!」
「初めて聞いたんですけど……」
「言わないと伝わらないって、君はどれだけお子様なんだ!」
「待って? だとしたら片想いの相手が朝帰りしたからといって、打ち合わせとして呼び出して、嫉妬心ぶつけてるって、高崎博士も大概じゃありませんか?」
「なんとでも言ってくれ。別に俺はユニコーンではないし、君は僕よりも三歳年上だし、誰と肉体関係を持とうが……イラっとはするけど、今後次第だ。二度と景氏と朝帰りなんかしないで下さい。ああああ、遠藤のむっつり役立たずと二人で行かせたのが間違いだった」

 高崎博士が机の上で、指をダンダンダンと鳴らし始めた。

「梨野さん。まさか、景氏と結婚するの? そうなの?」
「いや、そういう予定はないですけど……」
「だったら僕にしておきなよ」
「いきなりそんなこと言われましても? だ、だって、今までそんな気配微塵もありませんでしたよね!?」

 私が声を上げると、高崎博士が遠い目をした。それから脱力したように、椅子に座り直した。

「――僕は、これでも好きだとアピールしてきたつもりだった。本当に伝わってなかったと知って衝撃を受けてる」
「たとえばどんな?」
「君が少しでも戦わなくてよくなるように、僕はずっと必死に兵器を開発してきたんだ」
「それ、地球や日本のためでは?」
「梨野さんのためだったんだよ、僕にとっては」
「は、はぁ……」
「毎日、君のことしか考えてなかった」
「バトルスーツのことでは……?」
「それを身につける君のことしか考えてなかったんだよ!」
「いつから……?」
「世界のために必死で戦う君を見ていたら、心惹かれない方が無理だ。僕だったらやれないよ……ねぇ、僕を見てはもらえないかな?」
「そ、そう言われましても……驚きすぎて……」
「じゃあこれからは、僕の気持ちをきちんと覚えておいて。これからは、僕もわかりやすく行かせてもらうよ」

 断言した高崎博士は、疲れたように吐息してから眼鏡を外した。
 そしてきつく目を伏せてから、また大きく溜息をついた。

「次の日曜日」
「はい」
「シナゴ関連の緊急出動がなかったら、僕のために空けてもらえるかな?」
「は、はい!」
「――ごめん。冷静になってきたよ。正直嫉妬して八つ当たりした。ごめんね」
「い、いえ……もしも高崎博士と結ばれたら喧嘩が絶えない家庭になりそうで、DVの恐怖を味わいそうだとか思ったのは内緒です」
「口に出てるよ」
「あ」
「……僕も、自分にこんな風に激情があるとは思ってなかったよ……」

 疲れた様子の高崎博士は、それから腕時計をチラリと見た。

「――打ち合わせというのは本当だよ。これから、ここに昨日の夜着任式があった、新総司令が来るから、ご挨拶を。まさか君がすっぽかすとはなぁ」
「本当に、すみませんでした……!」

 このようにして、気まずい空間が続いたのではあったが、幸い数分後にノックの音がして、それは解決されたのだった。



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