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―― 本編 ――
【十八】帰国
しおりを挟むこうして私は日本に帰国した。
「結果の報告を」
総司令室において、高崎博士と遠藤さんが立ち会いの下、私は報告を求められた。正直、一瞬見学した以外は遊んでいただけなので、言葉に窮した。すると私の隣に立った景くんが、にこやかな笑顔を浮かべた。
「まず――」
そうして景くんが、兵器の説明を始めた。嘘では無い。それは見学した際に私も翻訳機で聞いた内容とほぼ同じであるから、正確な事実だ。景くんは約三十分かけて、見学について語った。ここだけ切り取るならば、私達は完全に働いてきた防衛隊の人間としか言えないだろう。
「――という結果です。以上、ご報告までに」
景くんはそういうと、最後に私を見て笑みを深めた。頼りになりすぎると思ってしまった。安堵でいっぱいになりながら、私はこくこくと頷く。
「なるほど。お疲れ様、二人とも」
真波司令が頷いた。遠藤さんはいつも通りの仏頂面で無感情に見え、特に何も言わない。ただ、高崎博士のみ、いつもより冷ややかな空気を放っている。私がそれを察知できるのも、付き合いの長さ故なのだろうか。
「梨野さん、バトルスーツの調整があるから少しいいかな」
「は、はい!」
その高崎博士に呼ばれたので、私は二人で退出した。
そして廊下を歩いて数分後、ぽつりと高崎博士が言った。
「あのさ」
「は、はい?」
「――二度目の約束って、まだ有効?」
「えっ?」
「……僕だって、伊達に君を好きでいたわけじゃ無いから、君が景氏を見る目が優しくなってる事に気がつかないほど愚かでは無いけど?」
「っ」
「どうなの?」
「……そ、その……」
私は言葉を探した。俯いてしばし歩いてから、顔を上げて、隣をゆっくりと歩いている高崎博士を見る。
「私は、人としては高崎博士が好きです。でも、お付き合いはできません。だ、だから……博士がまだ私の事を恋愛的な趣旨で好きだとおっしゃって下さるのなら、お食事には行けません」
私は断言した。ちょっと言いよどんでしまったが、やはり自分の気持ちにも相手にも、誠実でありたかった。すると嘆息した高崎博士が頷いた。
「そう」
そのまま、高崎博士は何をいうでもなく歩く。私も無言で隣を進んでいく。
バトルスーツの調整をする間、高崎博士は無表情のままだったが、かといって冷たい対応をするだとかそういうことはなかった。私がお土産に買ってきたクッキーを手渡すと、苦笑していた。
「ありがとう。僕のことを覚えていてくれたのは嬉しい」
そう言って受け取ってくれた。
翌日からも、高崎博士はごくごくいつも通りだった。不機嫌そうな素振りを見せることもないし、私に好意を押しつけることも無い。これが大人の恋愛なのかなと私は考えつつ、五日ほど過ごした。そしてその日の午後、次の週末にまた買い物に出かけようかと思い、遠藤さんに日程について聞いてみようと決めて、話しかけた。
「――ということで、またでかけたいんです。そ、それと、遅くなりましたがお土産です!」
遠藤さんにもクッキーの箱を渡した。
受け取ってくれた遠藤さんは、私に対してお礼を言い頷いてから、不意にじっと私を見た。
「梨野さん」
「はい?」
「――高崎……落ち込んでましたが」
「えっ?」
寝耳に水だった。私には、いつも通りに見えたからだ。
「その……ただそれでも、あいつは晴れ晴れとした顔をしていました」
「そ、そうですか……」
とすると、遠藤さんは、私と高崎博士の間にあった恋愛話を知っているのかと、急に気恥ずかしくなった。困惑しつつも、私は遠藤さんの次の言葉を待つ。
「だから……俺も、気持ちだけでも伝えようと決めました」
「――へ?」
「伝えたいと思った。貴女が他の誰かを選んだと分かっていても、やはり抑えられないと理解したんだ。俺は、貴女が好きだ」
「なっ」
私は驚愕した。唖然として、口を半分ほど開き、遠藤さんを凝視してしまった。
高崎博士も大概そんな素振りは無かったが、遠藤さんにはもっと無かった。
「え、え?」
「貴女が好きなんだ。ずっと愛していた。いいや、今もだ。ただ、迷惑をかけたいわけでは無い。けれど――忘れてくれとは言えない。覚えていて欲しい。俺のこの気持ちを」
「遠藤さん……ご、ごめんなさい。私好きな人がいて……」
「景氏だろう? 聞いているし、見ていればすぐに分かった」
「……そんなに私、分かりやすいですか?」
「いいや。貴女は基本的に感情が見えにくい。ただ、そんな貴女の事が好きだし、観察眼には自信がある。それは、高崎も同じだろうが」
「……」
「気にしないでくれ。気持ちを伝えたかっただけなんだ。すっきりした顔をしている高崎が少しだけ羨ましくなってな――仕事に私情は持ち込みません。だから、いつか終了するまで、叶うなら、貴女の護衛でいさせてくれ」
「それはこちらこそお願いしたいですけど……」
「ありがとう、梨野さん」
そう言うと遠藤さんが、私の前では多分初めて笑顔を浮かべた。その小さな微笑は、どこか晴れ晴れして見えた。しかし心臓に悪すぎる、急な告白であった。
「――と、まぁ、そんな事があったんです」
私は、先週のそんな記憶を、飲みに誘われたので真波司令に喋ってしまった。リアルな友達が絶滅して久しいため、他に語れる相手が居なかったのである。SNSの友達とは、私がレンジ頭になってから、連絡を取っていない。
「ふぅん。まぁなんとなく察しはついていたが」
「そこまで私って分かりやすいですか?」
「お前がというより、高崎と遠藤の凹みかたが露骨だった。あと昨日中国に一時帰国した景の機嫌が良すぎた」
「……」
「景とはどんな風にして付き合うことになったんだ?」
「そ、それは……まだ付き合ってません」
「まだ、な。なるほど、あちらの告白にまだ答えてねぇのか」
「……はい」
「あーあー、でも次に会ったら答えるんだろ?」
「そのつもりです」
「これで俺も失恋だな」
「本当からかうのやめて下さい」
私が抗議すると、真波総司令が吹き出して笑った。
「ま、幸せを祈る。レンジ頭殿」
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