自分の顔が嫌いなので、頭をレンジにしてもらった。

鳴猫ツミキ

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―― 本編 ――

【二十】終わっていた誕生日

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「んっ……」

 私は目を覚ますと、酸素マスクをつけていた。白い天井とその状態から、医療機関にいるのだと理解する。手を握ってみれば動くので、上半身をゆっくりと動かし、その後近くにあったスタッフコールを発見した。押すとすぐに、看護師さんと医師、及び高崎博士が駆けつけてきた。

 そのまま問診されて、検査の結果を聞く。
 なんでも私は五日ほど意識不明だったそうで、原因は想像力の使いすぎにより、バトルスーツや傘型武器の放出している波動の衝撃に、私の体が耐えられなかったかららしい。みんな耐えられないから不適応なわけだが、基本適応状態の私でも限界まで性能を引き出して、倒した結果だったのだと聞いた。

「でも……倒せたんですね」

 医療スタッフが席を外してから、私は高崎博士に聞いた。すると無表情の中に、険しい目をして、高崎博士は頷いた。

「うん。君のおかげで、世界は救われてるよ、今のところ」
「よかった」
「なにもよくないよ。君を失うところだった」
「……けど、私はまだ生きてますし」
「戦うことを強制した僕が言うべきでは無いけれど、君はお人好しが過ぎるよ」

 はぁ、と、高崎博士が溜息をついた。それから、珍しく苦笑した。

「そういうところが本当好きだよ」
「っ」
「――ああ、人としてという意味だ。それくらいは自由だよね?」
「は、はぁ……」
「早く、良くなって。ただ、しばらくは有事の際、それも今回みたいな例外的状況以外では、バトルスーツの着用は禁止だからね。外させて貰ったよ」

 高崎博士はそう言うと病室を出て行った。
 私は手首にも腕時計型のバトルスーツが無い事に、そこで初めて気がついた。これでは、レンジ頭にはなれない。ふぅと改めて天井を見上げて横になる。

「……禁止、かぁ」

 即ち、今の私は、もう世界最強では無い。唯一と言っていい価値が無くなった。
 壁に紙のカレンダーがあったので眺めてみる。話によると、既に私の誕生日は通り過ぎている。もう、景くんは帰ってきただろうか。帰ってきているだろうが、もう私には隣に並ぶ権利は無いかもしれない。

「……世界一じゃなくなったら、フラれちゃうのかなぁ?」

 呟いてみる。
 景くんは以前、私の強さに惹かれたというような話をしていた。果たしてただの入院患者となった私は、彼の目にどう映るのだろうか。片手を持ち上げてみるが、色白のまんまで弱々しい右手だ。筋トレをすればいいのかもしれないが、そういう話ではない気がする。トレーニングをするならば、もうちょっとおなか周りを鍛えた方がいいという自覚もある。

 その時、スッと病室のドアが開いた。自動ドアだ。視線を向けると、そこには景くんがいた。あっ、って思ったが、声にならなかった。

「梨野さん、目が覚めたと聞いて、ああ……本当に良かった」

 早足で歩み寄ってきた景くんは、泣きそうな顔をしていた。私は無理に笑って見せた。実は今もまだ、呼吸をすると胸が痛いのだが。

「全然平気だよ。みんなが大げさなんだよ」
「……いいえ、貴女の全身は、控えめに言ってズタボロです」
「そ、そんなに? ハハ……それじゃあ、虫食いのカボチャになっちゃうね」
「冗談を話しているのではありません。本当に無事で良かった」

 景くんはそう言うと、私の手を持ち上げて、手の甲にキスをした。ビクリとしてしまう。

「ああ、本当に良かった……」
「ありがとう」
「報告があるんです」
「何?」
「――曾祖父が、私と貴女の第二子を人工授精していた事が判明しました。生まれました。私も知らなかったのですが、幸い代理母の方も生まれた女児も健康です」
「えっ」
ユエと名付けました」
「そ、そう」
「とても可愛い人間の顔をしていましたよ」
「そうなんだ? 景くんに似てるんだ?」
「いいえ。私から見ると貴女にそっくりです。黒い髪と目をしていて」
「ほ、ほう……その子の人生的には、君に似た方が良かっただろうに……」
「いいえ。私の最愛の人に似ているのですから、月は幸運でしょう。ねぇ、梨野さん? これを機に、籍を入れませんか?」
「う……」
「私は貴女が好きです。しばらくはバトルスーツを着用しない予定だとも聞いています。なにか問題が?」
「で、も……つまりもう私は最強じゃないよ?」
「私が貴女を守ればよいということですね。誓います」

 嬉しくて泣くかと思った。最強じゃなくてもいいらしい。

「え、えっと……あ、あのさ! 私も話そうと思っていたことがあって」
「なんですか?」
「……私も、景くんが好きです」

 言えた。私は勇気を出した。想定通りに近い流れがあったからというのもある。
 私の言葉を聞くと、景くんは虚を突かれた顔をした。
 そしてそれから破顔した。

「最高に嬉しいです。ただ、私の方が愛が深いこと、それだけは忘れないで下さいね?」

 景くんは、そういうとチュッと私の唇にキスをした。
 私が真っ赤になっていると、そのまま横から私の体を軽く抱き寄せる。

「早く元気になって下さいね」
「う、うん!」
「地球防衛軍日本支部には、結婚すると報告し、引っ越しの交渉をしても宜しいですよね?」
「あ、うん。任せるけど……でも――私は、この国を守りたいよ」
「地球を、という意味ならば、私とて同じ防衛軍の一員です。そして私には、貴女のそばに居られるのなら、どこに行く準備も整っています。貴女が望むのならば、日本で暮らしましょう」
「いいの?」
「ええ。私の居る場所は、貴女の隣ですので。ただ――以後は私が先頭に出ますので、貴女は体を治すのを最優先として下さいね? これだけは、約束です」

 景くんは、優しい。私は胸が満ちあふれた気分になりながら、大きく頷いた。


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