婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

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エドワード:俺には必要ない

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 エドワードはアリシエラのことが心底嫌いだった。その美貌と艶やかな肢体は王太子たるエドワードに釣り合っていたが、その性格が最悪だった。

「全く、あいつはもう少し可愛げを持てばいいものを」

 エドワードはこの国の賢王になるために努力していた。しかし、アリシエラはそんなエドワードの努力を軽々と越えていく。アリシエラはエドワードを馬鹿にするように、エドワードが苦労することを軽々とやってのけ、周りからの称賛も気に止めない。

 幼少の頃は、家族に放っておかれているようだったので、憐れに思って優しくしてやったのに、アリシエラは涼やかな澄ました表情で礼を言い、エドワードの優しさに感激することもなかった。王子が気遣ってやったのだから、もっと誠心誠意礼を言うべきだろうに。

 いつからか、王はアリシエラを重視しだした。エドワードにアリシエラを懐柔するよう指示をだし、アリシエラさえ婚約者であれば、エドワードが王位につけると告げた。
 馬鹿馬鹿しいと思った。アリシエラがいなくとも、エドワードが王位につくのは当然だった。何故そこにアリシエラが婚約者であることが関わるのか分からなかった。
 それからすぐ、エドワードの立太子が決まった。普通より早く、エドワードは王太子になった。これが自分の実力なのだと威張った。しかし、心の隅に引っ掛かるものがあるのも事実だった。

「兄上、立太子おめでとうございます」
「ああ」

 同い年の異母弟ザウスの祝福に鷹揚に頷いた。ザウスはエドワードの数ヶ月違いの異母弟である。エドワードの母である王妃は伯爵家出身であり、ザウスの母である側妃は公爵家出身だ。
 側妃のせいで、王妃はいつも肩身の狭い思いをしていた。王族の生活は王の私費により賄われており、それほど贅沢に使えるわけではない。しかし、側妃は実家からの支援により、当て付けのように贅沢な暮らしをしていた。
 だから、エドワードは側妃もこの異母弟も嫌っていた。

「アリシエラ様と仲良くできているのですか?1度ご挨拶をお許し願いたいのですが」
「ああ?」

 優秀で目障りなザウスがここまで下手に出た願いをしてくるのは珍しく、エドワードは首を傾げた。

「会いたければ会えばいいんじゃないか。この時間は茶室にいるだろ」
「……兄上は、アリシエラ様とのお茶会の約束を果たしていないのですか」
「ふん。あいつに使う時間なんて無駄なものはないのさ」

 エドワードは婚約の際にされた週一回のお茶会の約束を守ることはほとんどなかった。アリシエラの顔を見ながら茶を飲んだところで、何も話すことなどないし、茶が不味くなるだけだからだ。

「無駄……。そうですか」

 ザウスがその時浮かべた表情にエドワードは不快に思った。まるで愚か者を見るような、憐れむようなそんな表情は、エドワードが最も嫌いなものだった。

「さっさと行けばいいだろ!俺は忙しいんだ」

 犬を追い払うようにザウスに手を振ると、ザウスがにこやかに微笑んだ。

「最後にお伝えしておきたいことがあるのです。兄上が立太子されるお陰で、私は婚約者ができました」
「……婚約者?」
「はい。フーリエ辺境伯令嬢リリアンナです」
「フーリエ……あそこは1人娘だった筈だが」
「ええ。私が婿入りします。王家には兄上がいるので可能になりました」
「……そうか」

 辺境に婿入りなんてことを喜ぶザウスの神経が分からない。だが、気にくわないザウスがエドワードの視界から消えてくれるのなら有り難かった。

「それでは失礼します。王太子のお務め、陰ながら応援しております」

 これが、エドワードとザウスが2人きりで話す最後の日になった。


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