婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり

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似ていても違う

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 フーリエ公爵令嬢スカーレットは、物心ついた頃からこの世界に違和感を感じていた。会う人、起こる出来事に既視感を感じていたのである。
 そして、その違和感の正体に気づく日がやってきた。


「お前がスカーレットか。……まあ、普通の顔だな」
「……フーリエ公爵令嬢スカーレットでございます。どうぞお見知りおきを、スミソニアン殿下」

 ふんっとそっぽを向く美しい少年はこの国の王太子であるスミソニアンである。この日、スカーレットはスミソニアンの婚約者として紹介されたのだった。
 スミソニアンのスカーレットに対する態度は褒められたものではなく、王は顔を引き攣らせているし、王の又従兄弟であるフーリエ公爵は蟀谷に血管を浮かせ怒りを隠せない様子だった。
 一方、失礼な態度を取られたスカーレットは、正直スミソニアンの態度を気にしている場合ではなかった。衝撃の事実に気を取られていたのである。

 この世界は前世の乙女ゲーム『花の舞い散るその下で、私は貴方に愛を告げる』通称『花舞の愛』というゲームに似ていた。前世というものを思い出し、その事実に気づいたとき、スカーレットは表情に出さず動揺し、その後スミソニアンと何を話したか、王達に何を言われたか全く覚えていなかった。


「ここって本当に似ているわ」

 自室に帰ってきたスカーレットはソファに寝転がり呟く。
 今のスカーレットはゲームの悪役令嬢の設定と非常に似ていた。スカーレットという少女がフーリエ公爵家の一人娘であることと、スミソニアン王太子殿下の婚約者であることだ。気づいてみれば容姿も似ている気がする。2次元じゃなくて3次元だから比べにくいが。
 しかしもちろん差異もあり、例えば性格は全く違う。ゲームの中でスカーレットがいつからどんな性格だったのかを詳しく描写していなかったが、少なくともゲーム時点では非常に高飛車で我が儘な少女だった。今のスカーレットは、前世の記憶が無意識に効果を発揮していたのか、お淑やかで他を気遣う優しい少女だと皆に思われている。
 また、家庭環境も違っていた。ゲームの中ではスカーレットの家は冷えきった関係だと言われていた。しかし、今のスカーレットには、一人娘を溺愛する父と、スカーレットを素晴らしい令嬢に育てようと愛を持って教育してくれる母がいる。
 だから、スカーレットは確信を持って微笑むことが出来た。

「似ているけれど、私は生きているの。周りの皆も意思を持って生きているわ。だから、この世界にゲームのシナリオなんか存在しない。私は私のままで生きればいいのよ」

 不意にドアのノック音が聞こえた。メイドのアリスだ。

「―――スカーレット様、晩餐のお時間です」
「分かったわ」

 スカーレットは落ち着いた気持ちで晩餐に臨んだ。

「スカーレット、スミソニアン殿下にお会いしてから心ここにあらずの雰囲気だが、やはりこの婚約は嫌か?」
「え?」

 父に聞かれて目を瞬く。スミソニアンと何を話したかはあまり憶えていないが、初っぱなから失礼なことを言われた事実は憶えている。

「―――そうですね。殿下ときちんと関係を築いていくことが出来るかとても不安です」
「そうだろうな。殿下はあんな調子だったしな。……よし、もし婚約を続けるのが無理だと思ったときは私に相談しなさい。無理をしてはいけないよ」
「本当に、よろしいのですか?」
「勿論だ。そもそもスカーレットは私の一人娘なんだ。無理に嫁ぐ必要はない」
「ちょっと、貴方、あまり甘やかしすぎては駄目よ」
「甘やかしてなんかいないぞ。私は当然のことを言っている」

 いつの間にか言い争う雰囲気を醸し出す両親にスカーレットは幸せな気分で微笑んだ。両親が真剣に言い合うのは、それだけ双方がスカーレットに愛情を持ってくれているからなのだと分かっていたからだ。

「お父様、ありがとうございます。お母様も私を心配して下さっているのですよね。私、殿下の心に寄り添えるよう頑張りますわ。……でも、それでも駄目だったときは、お父様を頼ってしまうかもしれません」
「ああ。あまり頑張りすぎるんじゃないぞ」
「……そうね。スカーレット、貴女は優しい子だもの。無理をしないよう頑張りなさい」

 この世界は乙女ゲームに似ているけれど、私にとっては幸せな世界だ。悪役令嬢になんてなるはずがないだろう。
 
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