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優未

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 高校1年の時、好きになった女の子は美人だがあまり目立たないタイプだった。いつも早めに登校して1人で静かに本を読む姿がとても綺麗で、まっすぐ伸びた背筋をよく眺めていた。話しかけてみたかったが、彼女の読書の時間を邪魔してしまうのも悪いと思って何もできなかった。そもそも違うクラスの俺は、彼女に認識すらされていない。接点を作れないまま日々を過ごし、告白してきた同じクラスの子と何となく付き合うことになった。別に好きな子がいる状態から始まった恋愛が長続きするはずもなく、自然消滅した。そんなことを何回か繰り返した。

 3年の時に同じクラスになれて喜んだが、席も離れていてどう交流を持つか悩んだ。委員会決めの時に図書委員に手を挙げる彼女を見て慌てて自分も立候補した。と言っても当番の日が一緒になることも少ないし思ったより関わりが持てなかった。そもそも彼女はほとんど女子としか話さないし、俺と仲の良い女子とはいわゆる違うグループだった。

「好きな女に合わせて受験する学校のレベル下げるとかありえないよ」
「自分の学力にあった大学行った方が絶対その人の為になる」
「学歴が全てじゃないっていうけど、全てじゃないだけだもん。大事に決まってる」

 進路希望調査の紙が配られた頃に、そんな話を友達としている落合を見た。何となく俺と落合は志望校が違う予感はしていた。彼女に合わせて志望校を変えようなんてことは考えていなかったが、仮にそれを実行したら落合にがっかりされてしまうだろう。そして、盗み聞いたこの会話の中で、落合の発した言葉が胸に刺さる。

―――勉強できる人ってかっこいいよね

「出た!しーちゃんのいつものやつ」
「勉強は嫌いじゃないけど、勉強するのは好きじゃないんだもん。憧れる」
「優等生落合さんとは思えない発言」
「私は最低限しかできないから。ちゃんと勉強している人はすごいよ。蛍くんは雪に釣り合う人間になるようにって努力していい大学行っていい会社入ってね」
「ケイって誰よ。ユキも」
「今ハマってる漫画のキャラ」
「それ当て馬だよね」
「だって康は第一志望諦めちゃうんだよ~そこだけがっかり」

 ただの漫画の感想だ。そう分かっていても、あれだけの熱量で語る落合の姿が印象に残ってしまった。真面目な彼女は日々をきちんとこなし結果を出す人間が好きなのだと思った。彼女の言うかっこいい男を目指す為に、勉強を頑張っていい大学に入ろうと決心した。

 自ら接点を減らしてどんどん関わりが最低限になってしまっても、これが正しいのだと考えてしまうくらいには当時の俺は空回りしていた。もっと普通に話しかけて仲良くなって、卒業式のタイミングで告白すればよかった。連絡先も交換せず、全く会うことがなくなった。

 一途にずっと思い続けていたなんてことは言えないが、困難な局面で思い浮かべるのは落合のことだった。今の自分を見てどう思うだろうか。かっこいいと思ってもらえるだろうか。ある種の心の支えのような存在だった。

「みいちゃんは最後まで楽しんでね」
「うん。気を付けてね~」

 久しぶりに聞いた声、すれ違っても目すら合わずに去っていく後ろ姿を見つめた。朝の読書している姿、図書室で本を戻している姿、俺はいつも落合の背中ばかり見ている。

「久田くん?」

 遅れて到着した俺に気が付いた伴野に声を掛けられる。落合を目で追う様子を見られて気まずかった。しかも「昔から怪しいと思っていたんだよね」と悪い笑みを浮かべてくる。協力しようと言ってくれたものの、まさかそこからまた5年もかかるとは思わなかった。
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