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けして恋ではなくて
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「それはアスター様を好きになったということかしら」
「違います。まるで小説や舞台の主人公の気持ちを疑似体験しているような気持ちといいますか」
「私はてっきり惚気話を聞かされているのかと思いましたわ」
メラルダ様が不思議そうな顔でこちらを見つめる。どうしてそうなってしまうの。私は物語の王子様が好きなのであって、現実の世界に王子様を求めてはいないのだ。それに何より……
「アスター様が恋多きお方だと、メラルダ様もご存じでしょう」
「遊び人がヒロインだけに一途になるお話もあなた大好きじゃないの」
「現実にそんな方はほとんどいないです」
「そのほとんどいないうちの1人かもしれないわ。女性とのお噂も何年も前に聞いたきりですし、今はあなたに一途そうに見えるけれど」
「婚約者に対する誠意みたいなものではありませんか。それに、私は結婚に恋愛感情は絶対必要とは考えておりません」
女性関係が派手らしいという噂は、私が憧れているフリをする男性にアスター様を選んだ理由の1つでもある。自分が絶対に好きにならないであろう人の方が演じやすいと思ったからだ。自分の努力を認めてくれたり、趣味のことを伝えても否定しないでくれたことが嬉しかっただけで、決して恋愛感情ではない。仮にアスター様を好きになったところで、相手にその感情がなかったら……
「それは悲しいなぁ」
「アスター様っどこからお聞きで…?」
「『結婚に恋愛感情は絶対必要とは考えておりません』から、だね」
よかった。噂話は聞かれていなかったようだ。
「ねえミクリィ、僕は君と親しくなりたいって伝えたはずだけど」
「うふふ。ミクリィの前では王子様も形無しですわね」
「僕たちはもっと仲を深めないといけないのでお姫様は連れていくね」
そう言うとアスター様は私の手を引いて、いつものカフェをあとにした。何となく機嫌が悪そうだ。
「……あの、アスター様。先ほどのお話なのですが」
「うん」
「恋愛感情は必要ないと申しましたが、親しくするつもりがないというわけではなくて。友人のような信頼関係がを築いていければいいなと思っておりまして」
「ミクリィ」
「はい…っ」
アスター様の顔が近づいてきたと思えば、唇にキスを落とされる。
「君は友人とこういうことをするの?」
全力で首を横に振って否定する。
「安心した。…ははっ顔、真っ赤で可愛いね」
こんな時ヒロインはどうするんだっけ。頬を引っ叩く?いやそんなことできるわけない。そもそも私はヒロインでもなんでもなくて。
「これを機に僕のことを意識してね」
そう告げた唇が今度は頬に触れる。先ほどの不機嫌さはどこへ行ったのか、満面の笑みを浮かべている。ここは侯爵家の馬車の中―――彼を止められる存在はいない。
「…残念、君の家に到着だ」
その日どうやって別れたのかも思い出せないくらい私の頭の中はパニック状態だった。
「王子様はもっと硬派な人がタイプなのよ」
それから数日間、ピンクのウサギはクローゼットの奥深くにしまわれることになった。
「違います。まるで小説や舞台の主人公の気持ちを疑似体験しているような気持ちといいますか」
「私はてっきり惚気話を聞かされているのかと思いましたわ」
メラルダ様が不思議そうな顔でこちらを見つめる。どうしてそうなってしまうの。私は物語の王子様が好きなのであって、現実の世界に王子様を求めてはいないのだ。それに何より……
「アスター様が恋多きお方だと、メラルダ様もご存じでしょう」
「遊び人がヒロインだけに一途になるお話もあなた大好きじゃないの」
「現実にそんな方はほとんどいないです」
「そのほとんどいないうちの1人かもしれないわ。女性とのお噂も何年も前に聞いたきりですし、今はあなたに一途そうに見えるけれど」
「婚約者に対する誠意みたいなものではありませんか。それに、私は結婚に恋愛感情は絶対必要とは考えておりません」
女性関係が派手らしいという噂は、私が憧れているフリをする男性にアスター様を選んだ理由の1つでもある。自分が絶対に好きにならないであろう人の方が演じやすいと思ったからだ。自分の努力を認めてくれたり、趣味のことを伝えても否定しないでくれたことが嬉しかっただけで、決して恋愛感情ではない。仮にアスター様を好きになったところで、相手にその感情がなかったら……
「それは悲しいなぁ」
「アスター様っどこからお聞きで…?」
「『結婚に恋愛感情は絶対必要とは考えておりません』から、だね」
よかった。噂話は聞かれていなかったようだ。
「ねえミクリィ、僕は君と親しくなりたいって伝えたはずだけど」
「うふふ。ミクリィの前では王子様も形無しですわね」
「僕たちはもっと仲を深めないといけないのでお姫様は連れていくね」
そう言うとアスター様は私の手を引いて、いつものカフェをあとにした。何となく機嫌が悪そうだ。
「……あの、アスター様。先ほどのお話なのですが」
「うん」
「恋愛感情は必要ないと申しましたが、親しくするつもりがないというわけではなくて。友人のような信頼関係がを築いていければいいなと思っておりまして」
「ミクリィ」
「はい…っ」
アスター様の顔が近づいてきたと思えば、唇にキスを落とされる。
「君は友人とこういうことをするの?」
全力で首を横に振って否定する。
「安心した。…ははっ顔、真っ赤で可愛いね」
こんな時ヒロインはどうするんだっけ。頬を引っ叩く?いやそんなことできるわけない。そもそも私はヒロインでもなんでもなくて。
「これを機に僕のことを意識してね」
そう告げた唇が今度は頬に触れる。先ほどの不機嫌さはどこへ行ったのか、満面の笑みを浮かべている。ここは侯爵家の馬車の中―――彼を止められる存在はいない。
「…残念、君の家に到着だ」
その日どうやって別れたのかも思い出せないくらい私の頭の中はパニック状態だった。
「王子様はもっと硬派な人がタイプなのよ」
それから数日間、ピンクのウサギはクローゼットの奥深くにしまわれることになった。
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