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第六十二話 勇者の資格

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聖女を睨みつけると威嚇した。
椎名にとっては聖女は敵判定なのだろう。

「待って下さい、春さんを回復しなかったのではなく、出来なかったのです。あ
 の時、その場にいた人全員にかけたヒールが彼だけ弾かれて効かなかったので
 す。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、本当にヒールをかけたんです」

必死に訴えるが椎名は聞こうともしなかった。

それどころか剣を抜くと聖女の首に当てた。

「このまま切り殺されたいか?それとも今すぐ消えるかどっちか選べ」
「それは…」
「聖女様。今は引きましょう。明日また来ればいいんです」

聖女の腕を引くと天野が離れさせた。
椎名は本気で殺す気でいたが、天野に免じて鞘を納めた。

「その不愉快な顔を二度と見せるな!」
「手厳しいな~。でも、俺は椎名くんの手伝いをしたいんだ。春樹は俺にとっても
 大事な友人なんだ。手伝わせてほしい…明日また来るから…」

そういうと帰っていった。
椎名は壊れかけた部屋へ戻ると家具の中から自分の荷物を取り出そうとして溢れて
来た荷物に尻餅をついた。
いっぱいに詰め込まれたお金やアイテムは春樹がイベントリに入れていたモノだっ
ったのだ。

「どうしてこんなところに…?俺の為にか?なら、どうして…襲撃を知っていたん
 だ?春…お前に会いたいよ…」

居なくなってしまった温もりを探すように手を伸ばすが空を切って何も掴めはしな
かった。

椎名はその日のうちに壊れかけの宿を出て街外れのボロ屋へと来ていた。
そこは剣を鍛え直しているダイナの家だった。

「お前か…まだ時間がかかるぞ?」
「あぁ、その間ここで待たせてもらう」
「…そうか…」
「…」
「昨日は外が騒がしかったが何かあったのか?」
「…魔王がきた…街の1/3が倒壊したかな…」
「大変だな~…ん?」

手を止めるとダイナが振り返った。
そして外へと走り出すと久しぶりに街を見下ろした。
すると至る所が倒壊しており、何者かの襲撃にあったというのを信じる気になった。

「魔王が襲撃してきたってぇ~のか?」
「そうだ…だから早く修理してほしい」
「おめぇ~勇者だったのか…」
「今は称号を剥奪されたが…そんな事はどうでもいい。春を助けないと…」

椎名にとっては一刻も早く春樹を取り戻す事が最優先だった。
それまで気にしていなかった事だったが、魔王への怒りを露わにするといつの間にか
勇者としての称号が戻っていたのだった。

武器さえ手に入ればすぐにでも奴のところへと乗り込んでやると息巻いているのを
眺めて、ため息を零した。

「もう一人の兄ちゃんはどうした?」
「…!」
「今日はいね~のか?」
「魔王の奴が連れて行ったんだ…ひと月だけ待ってやるから…強くなってかかって来
 いと…言われなくたって行ってやる…」
「仲間も無しで行く気なのか?信頼できる仲間は大事だぞ?」
「俺には関係ない!足を引っ張るような奴らは仲間とは言えない!ましてやあいつを
 見殺しにした奴らなんか…」
「他にも事情がありそうだな…まぁ~出来上がるまでゆっくりと考えるがええ」

そういうとダイナはそれ以上の詮索をしなかった。

勝手にダイナ家を使わせてもらって寝起きをすると、昨日会いに来ると言っていた
天野が来る事はなかった。



聖女の興奮を少しでも、落ち着かせる様に椎名から離れるとまずは宿屋へと泊まり
落ち着かせる。

「少しは落ち着いた?」
「…えぇ。ですが…勇者様にあそこまで敵意を向けられると…さすがに…」
「それは…仕方ないよ。聖女様にはわからないかな~?俺も大事な幼馴染が王宮の
 奴等に陵辱されたと聞いた時怒りで狂いそうになったよ。勝手に召喚しておいて
 勇者じゃなければ何をしてもいいと思ってる奴らを皆殺しにしてやろうって。で
 も、その前に…自ら命を絶ったあいつを考えると…自分すら許せなかった。」
「天野様…貴方のせいじゃありませんわ…」
「でもね、思うんだよ。椎名くんはきっと今、自分をも許せないんじゃないかって」
「…」
「きっとね、勇者って俺と椎名くん以外にも、もう一人いるんだっけ?」
「はい、そのように聞いています。」
「なら、力を合わせれば魔王討伐だって夢じゃないよね?今は早く春樹を取り戻す事
 を優先してやらないと、きっと椎名くんは壊れてしまうよ。」

天野は自分の過去にやってきた行為を思い出しながら語り始めた。
今まで何十、何千と人を殺し続けた理由。そしてただ自分への八つ当たりと、気づい
てあげられなかった事へと贖罪を込めて聖女の前で懺悔した。

「もう後悔して反省したのです。わたくしはもう、自分をも許していい頃だと思いま
 すよ。聖女の命にかけて天はお許しになっていると…」

天野をぎゅっと抱きしめるとそっと背中をさすってやる。
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