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第八十話 ララの気持ち

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城の門前は厳重な警備がされていた。
行き交う商人は暗い顔をしながら帰っていく。

ため息混じりの感じから見て安く買い叩かれたとでも言えそうだった。

「さてと、どうやって入ろうか…」

そこにやけに豪華な馬車が入ってきていた。
春樹とララは避けるように隅に寄ると頭を下げた。

馬車は通り過ぎるとピタリと止まった。
そして扉が開くと中から誰かが降りてきて目の前に立ち止まった。

「…?」
「久しぶりだな?そなたは私に会いにきたのか?」
「一体何の事を…?」

春樹には覚えがない。
その人物は横に女を抱きしめながら春樹を見下ろしてきた。
嫌な予感しかないが、何やら興味をもたれているようだった。

「初めてお目にかかります。この街へは今日着いたばかりで…」
「ふん、ごたくはいい。来い」

その男は春樹の腕を掴むと馬車へと引っ張っていく。
抱きしめていた女を離すと春樹の腰に腕を回すと胸を抱き寄せた。

魔法で変えてはいるが流石に気持ち悪い。

ララは今にも掴みかかりそうなほどに怒っているし、待てをかけると
城の中へと潜入できた。

城の中に入れたはいいが、この男はしつこいくらいに胸や尻を揉んで
くるので、気持ち悪くて仕方がない。

「あの…どこへ行くのですか?」
「早く抱かれたいのか?そうか、ならすぐに着くから待っていろよ」

はぁ?抱かれる?
こいつ頭おかしのか?ってか、なんでこんな変態が簡単に城に入れたん
だ?
すると前から綺麗に着飾った女性が歩いてきた。

「お兄様、どこへ行っていたのですか?父上が至急来るようにと…春さ
 ん?」
「えっ…はじめまして…?」
「私はこの国の皇女リアナと申します。春さんにそっくりな方で驚きま
 したわ」
「皇女って…えっ…皇子様?」

目の前の変態を見上げながら叫んでしまった。

「そうだ、次期国王のセイロスだ。君は運がいい。俺の一晩の相手をさ
 せてもらえるんだからな。少し待っているといい。すぐに戻る」

部屋へと案内されるとセイロスという男は出て行ってしまった。

皇女は少し心配そうな顔を向けるが、すぐに行ってしまった。

「簡単に入れたはのはそう言う訳か…、まぁいい。こっちは好きに動かせて
 貰うぜ」

部屋を抜け出すと順番に部屋を確認して行く。
宝物庫はどこの城でも地下に造られていた。
なので、とにかく地下へと繋がる道を探るのが先だ。

兵士の見張りを交わしながら歩く事10分くらい。
ララはこっそりと液体になって城に入り込んだと連絡があった。

「よし、よくやった。地下を探すぞ!」
「はい、ハル様」

そしてララのが先に見つけたようだった。
案内されるがままに向かうと部屋の前に見張りの兵士が立っていた。

「私が殺りましょうか?」

ララはすぐに殺す気満々で見上げてくる。
ここは穏便にしたいんだけどな~。
しかし、ゆっくりもしていられない。
あの皇子が戻ってきて、部屋に居ないとなれば、兵士を呼んで探すかも
しれない。

ララと目を合わせるとその場を駆け出すと見張りの二人の兵士との距離
を詰めた。
右を俺が、左をララがと一瞬のうちに始末した。

ララは自分の体内に取り込む、春樹は一瞬のうちに口と鼻を水で覆い被
すとそのまま固定した。
もがく兵士は声も出せぬまま力なく意識を刈り取られていた。

宝物庫の中に兵士を運ぶとドアを閉めた。
奥へと入って行くと厳重に保管されている場所があった。
もちろん持っている世界の破片が共鳴しすぐに見つかった。

イベントリに入れるとこっそりと部屋を出た。
ララの入ってきた裏側壁を溶かして貰うとそこから城の外に出た。
何やら騒がしくなってきていたが、その頃には街の中へと溶け込んだ後
だった。

城に戻ると魔力供給が足りないのか、鳥籠の中の人形は固まったまま動
かなかった。
そっと触れて魔力を流すと、目を覚ましたのか春樹の顔が自分を見上げ
てくる。
なんとも不思議な光景だった。

「ハル様、この人形は必要なのですか?」
「あぁ、そうだな…俺が生きてるって示すには必要かな…」
「ここにいますのに?」
「俺は…もう、春樹ではいられないから…」
「ハル様…魔王様は魔王様です。私達には大事な主です」
「ララ、ありがとう。」

元気付けようと言ってくるララの頭を撫でると嬉しそうに擦り寄ってきた。
これから俺がしようとしている事を知っても、こんな顔をしてくれるのだ
ろうか?
俺は魔王という立場でお前達を導く事は…きっと…。

ララは嬉しそうにすると、部屋を出て行った。
魔王様が悩んでいるのは知っている。
この魔王城にきてからと言うもの、上の空の時が多いのだ。
最近では自分そっくりの人形まで作っていた。
複雑な顔で人形を見下ろすと、悲しそうに話しかけていた。

ララはなんでも相談に乗るのに…。
まだ魔王様と壁があるよう思える。
人間の城にこの前二人でお忍びで出かけた。二人っきりと言うことで凄く
嬉しかった。
ワイバーンでの旅はあっという間に着いてしまった。
そこで城に潜入する手段を考えていた時、何やら豪勢な馬車が止まった。
ハル様が女性に変装しているせいか声をかけてきた。
ハル様の身体に触れる愚か者はそのままハル様を城の中へと導いてくれた。
が、ベタベタと汚い手で魔王様の身体に触るとは許される事ではない。

ハル様は落ち着くように言われ、そのまま潜入を果たした。
ララも城の壊れた塀の隙間から入ると城の中を隈なく探して目的のモノを
見つけた。

少しドキドキしたけど、帰ってくると優しい視線と温かい手で撫でられると
凄く嬉しくて原型を留められなくなりそうだった。

部屋を出るとどろ~んと形を無くし、スライムの状態になった。
魔王様の前では礼儀正しく姿を維持しようと思っていたのに…。

ずるずると引きずるように自分の部屋へと帰って行ったのだった。
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