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第百○三話 夢の中へ〜斉藤楓〜

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その後家に帰ろうと振り返った時、駅の向こうが騒がしくなって救急車とパトカー
が何台も走り去って行った。

「何かあったのかな?」
「あぁ、多分…事故かな…」
「なんで大成がわかるのよ~?」

もし、俺たちが戻ってたら、巻き込まれるはずたっだ事故だから…。
なんて言えない。

「何でだろうな?でも、姫乃が無事でよかった。」
「何よ?それ…まるで事故に遭うはずだったとでも言うの?アニメの見過よ!」

姫乃に言われると少しムっとするが、今はこれでいい。
ここからまた始められるのなら、それでいい。

もう、異世界なんて御免だ。
今いるこの世界でずっと生きていたい。
なんの変哲もない日常で、刺激が欲しいなんて思わない。
この平和な日常が続くだけで幸せだって思えるから。

「うちの学校入るなら姫乃はもっと勉強しなきゃな?」
「何よそれ~ひどーい」
「本当の事だろ?俺がしっかり勉強見てやるからさ~」
「なんか今日の大成気持ち悪ーい」
「優しくしてやってるのに、ひでーやつだな~、勉強見てやらねーぞ?」
「あー。今のなしなし!」

家に着くと明日もまた日常が続いていく。
このまま大学行って、就職して。
そんな日が今は幸せに感じる。

事故を避けれてよかった。
死ななくてよかった。
時間が戻れて…よかった。



魔王城の玉座の側で蔦に絡まったままの天野大成の身体は身体中絡みついた
蔦によって意識は混濁し、幸せそうに微笑んでいた。

ここには呼ばれなかった偽の未来を見ながら夢を見続ける。
もう聖女の事を思い出して恋焦がれる事もない。
聖女もまた、好きな男と共に過ごす日々に満足していた。

夢に満足してしまうとそのまま飲み込まれるように身体中に入り込まれ次第に
身体が崩れていく。
そうなってしまえば、もう元には戻らない。
魔力の少ない人間なんて、吸い尽くされれば砂となって消えていく。

ガスのように魔力量の多い魔族は夢に囚われていても身体は健在だった。
魔王が討伐されて蔦が消えるまで、まだまだ健在だ。




そして、もう一人の勇者が夢の中に囚われていた。

斉藤楓まだ中学に入ったばかりだった。
喧嘩仲間の武藤樹といつも張り合っていた。

「はっ!今回のテストは私の勝ちね!」
「ふざけんなよ!たまたまだろ?」
「何よ、合計点私のが上じゃない!」
「たった一点だろ?そんなもん勝ったうちに入るかよ!」
「一点でも、勝ちは勝ちよ!負けを認めなさいよ!グラウンド逆立ち一周よ!
 ほらほら、行って来なさいよ!」
「こんのぅ~、覚えてろよぉーーー!」

樹は叫ぶとグラウンドに駆け出して行った。
窓から見下ろすと逆立ちして歩いているのが見える。
滑稽で笑える。
カメラのシャッターを切ると保存する。

「楓は素直じゃないんだから~」

後ろから声がかかる。
楓の親友の玲華だった。

「何よ~別にいいでしょ~」
「樹くんの事気になってるんでしょ?そんな喧嘩ふっかけるような事言ってたら
 恋愛対象にすらならないわよ?」
「いいのよ…これで、どーせ私なんか勝てないし…」

グラウンド一周を終えて汗だくになって帰ってきた樹はやりきった事で楓を見下
ろしてくる。

「ちゃんとやったからな!今度は絶対に負けねー!!」
「なら、ちゃんと遊んでないで勉強するのね?」
「お前に言われたくねーよ!って、玲華ちゃん!これは別に喧嘩じゃねーから…」
「お疲れ様、これタオルいる?」
「あっ、ありがとう。楓と違って優しいな~」
「ちょっと、何よ!どーせ私より玲華のが美人で優しいわよ!」
「あぁ?分かってんなら少しはそのガサツな性格直せよ!」
「はぁーーー?あんたに言われたく無いわよ!」

いつも喧嘩になる。
樹が玲華に気があるのは前からわかっていた。
でも、それでも自分を見て欲しくていつも喧嘩越しになってしまう。

玲華はそれを諌めてくれるが、それさえ鬱陶しかった。
玲華は綺麗で上品で、誰が見てもお嬢様みたいで…。
野獣のような楓とは正反対だった。

それでもいつも一緒にいてくれて、美女と野獣と良く言われた。

(樹と二人っきりの世界に行けたらいいのに…)

いつもありえない事だと思っていたが、願ってしまう。
ライトノベルはいつも異世界ものばかりを読んだ。

いつしか、別の世界に行けたらいいのに…。
そしたらこんなくだらない喧嘩もしなくて済むし、もっと素直になれるかもし
れない。

玲華と比べられる事も、樹に喧嘩売る事もなくて、自分が自分らしく生きられ
る世界…そんな世界をいつも夢見ていた。

そんなある日、事件は起きた。

いつもいち早く登校して花の水を変えている玲華が無断で休んだのだ。
楓には事件だった。
何かあれば自分に必ず連絡するのに…。

「あれ?玲華ちゃんは?」
「煩いわね!居ないわよ…」
「へー今日は野獣の機嫌が悪いのか?」
「あんた殴られたいの?」
「殴れるもんならかかってこいよ!のろまの拳が当たるかよ!」
「樹ぃ~あんたね~」

楓は立ち上がると殴りかかっていく。
樹は元気のない楓を揶揄うとひらりとかわす。
教室で二人のこんな戯れはいつもの事で、他の生徒もただ見ぬふりで傍観を決める。

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