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第百○六話 夢の覚醒

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夜のテントの中で各自休んでいたが、いたたまれなくて樹のテントへと向かった。
すると、他のテントの中では酒盛りが行われているらしく声が漏れていた。

「あの勇者って女マジで使えねーよな?何が勇者だよ?」
「強いのかもしんねーけど、戦えないんじゃただのお荷物だろ?」
「ちげーねー」
「もう一人のお荷物のがまだマシだな?だがせっかく戦場に女がいるのに勇者には
 手を出すなってマジで使えねーよな?」
「もう一人のお荷物に女の代わりになって貰えばいいだろ?昨日も奴らの相手して
 だぜ?」
「まぁ~まだ幼いし、それで我慢するか?ちょっくら奴のところに行ってやるか?」

楓はただ黙って聞いていたが、もう一人のお荷物?
相手?何の事だか、最初は分からなかった事が、樹のテントの前に来てやっと分か
ったのだ。

中から聞こえる悲痛な叫び声が外まで聞こえて来ていた。

「ンッ…やめっ…オェッ…」
「おい、しっかり腰振れよ?まだ何人も待ってんだからよ~」
「ヒッ…痛ッ……いやぁっ!…うぐっ…」
「もっと痛い目見ないとダメか?それとも痛くして欲しかったか?」

男達のニヤけた声が重なると楓は腰に下げていた
剣を抜いていた。
テントに入るや否や、その場の兵士達を切り伏せていた。

「か…かえで?」
「樹、なんで言ってくれなかったの?こんな事おかしいよ!」

ただ黙って俯く樹に服をかけると楓は決意した。

「ここから逃げよう!」
「楓…でも…」
「大丈夫、私が絶対に守るから!」
「…なんだよ…それ。おかしいだろ?はははっ…」

涙を拭いながら笑った樹に楓は抱きしめるようにして自分に喝を入れた。

絶対に樹は死なせない!

それ以来、魔物を討伐したり。
追いかけてきた兵士を撃退したりと忙しい日々が続いたのだった。

もちろん、樹はどんどん力をつけていったし、冒険者ギルドにも登録した。
その辺の兵士には負けないくらいまでは成長した。

やっぱり異世界だけあってか、どんどん強くなっていく。
魔物を倒しても兵士を倒しても経験値?が入るのか剣も軽く感じるし、素早
く動けるようになってきていた。

「樹も、結構戦えるようになったね?」
「まぁ~俺もすぐに追いついてみせるぜ」
「せっかくならダンジョンに行ってみる?」
「そうだな…もうちょっとここらで狩りしてから行くか?」
「うん♪」

手近なダンジョンを攻略して街に戻った。

「今日は素材もガッツリ手に入ったし、今度はどうするかな~」
「他の依頼でさ~別の村とかの討伐依頼とか、調査依頼があったよね?」
「やりたいのか?そうだな~調査依頼ってのもやってみるか?」
「そうだね~明日行ってみよう!」

お金もだいぶ溜まってきたので手当たり次第依頼を受けるのもやめる事にした。
翌朝から出発して調査依頼の村にたどり着いた。

そこでは一人ずつ人が行方不明になっているという噂を聞いて、村長がギルド
に依頼を出したらしい。

調査しながら衣食住を村で過ごしたある日、樹の様子がおかしくなったのに気
づく。
最初は身体がだるそうで、そのうち咳をよくする様になって…そして顔色が悪
くなる頃にはもう話もできなくなっていた。
楓の事もわからないのか、噛みつこうとしてきたのでぐるぐる巻きにすると、
大きな街へと行く事にした。

その頃には村人も全員が感染した後だった。

何が悪かったのか?
楓には全く何も起きなかった。
あの村に行かなければ樹をこの手にかける事はなかった。

「調査依頼でいいか?」
「えっ…あーっ、やっぱりやめよ?そうだよ、こっちの護衛にしよう?」

別の国へと国境を渡る商団の護衛依頼だった。

「二人で護衛は厳しくないか?」
「大丈夫だって~」

あの村にだけは近づかない。
なぜそんな事を思うのだろう?
まるで一回その選択をしてしまったような気がするけど…?

楓は夢にでも見たのかと考えていた。
凄くリアルな夢を見ていて気がする。

樹がゾンビ化して楓が自分の手で殺す夢。
そして他の勇者と一緒に魔王城へ行って全滅する残酷な夢。

「どうしたんだ?」
「あのさ~私ね…うんん、なんでもない」
「変な奴?言いたい事があるならちゃんと言えよ?ちゃんと聞いてやっからさ~」
「うん…そうだね」

言えない。
まさか樹が死ぬ夢を見たなんて、それがあまりにもリアル過ぎて、自分でも今が夢
なのか、それとも夢が現実なのか分からない。

依頼をとってきた樹は楓の頭をポンポンと子供でもあやすように撫でてきた。

「俺はさ~どんな時でも楓を守るからさ。少しは頼れって…」

ボソッと言ってきた言葉に心臓が高鳴った。
どんな現実でも受け入れる勇気を貰った気がする。

なら、今この時は現実か?否…もう現実では樹はいない。
なら、ここにいる自分はなんなのだろう?

どうしたら抜けられる?
咄嗟に剣を抜くと樹に振り返った。

「樹、大好きだよ!現実に行ってくるね!」
「あぁ、行ってこい!」

首に冷たい刃先が当たると一気に引いていた。
生暖かい血が噴き出るが、痛みはない。
やっぱりこれは現実じゃない!?

意識が遠のくと、どこから笑い声が聞こえてきていた。

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