異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

21話 質素な生活

朝になると、隣で寝ていた圭子はもういなくなっていた。

きょろきょろと見回すが、部屋にもいないようだった。

「圭子？おーい！」

呼んでも返事すらない。
どこかに出かけているのだろうか？

順番に空いてる部屋を探して見回るが、使っている部屋以外は埃が
溜まっていた。

「キッチンと寝室しか使ってないのかよ…」

呆れてものもいえない。
しっかり綺麗にしているなと思った自分がバカだった。

そういえば、家にいる時も圭子は片付けは好きではなかった事を思
い出す。

食料はほとんどなく、何を食べていたのか不思議なほどだ。

昨日は屋台で適当に済ましたっけ？

「あれ？もう起きたの？お兄ちゃん、ご飯行こう～」
「せっかくのキッチンだろ？作ったりはしないのか？」
「ん～～～？やっぱり店のが美味しいじゃん？お兄ちゃんの口には
　合わないかな？」
「そんな事はないぞ？むしろ店のが豪華かもしれんな。俺の食べて
　いたのは質素な野菜の炒め物か、塩を振った肉だけだったしな」

圭子は予想していたのと違うと言い出した。

「お兄ちゃんって、王様の子供だったんでしょ？なんでそんな質素
　なの？絶対贅沢できたでしょ？」

圭子の疑問も最もだった。
普通に一国の皇子の食事とは、豪勢なものを食べているイメージが
あるのだろう。
だが、実際には毒入りの見た目豪華の食事となっていた事を話して
聞かせたのだった。

「何それ！ひどーい！」
「だから…いつもリーさんが狩りで取ってきた獲物を捌いたりして
　出してくれたんだ。それと、俺が育てた野菜かな」
「え！お兄ちゃん、野菜育ててたの？」
「あぁ、隅っこで毒入り野菜の種だけ拝借してな！まぁ～種には毒
　は仕込まれてなかったし。そうするしかなかったんだ」

圭子も苦労しただろうに、遼馬の話を聞くと余計に悔しそうに怒っ
てくれた。

「なら、彼女…メイドさん殺させたのは悪かったかな？」
「殺したのはハイド兄さんだろ？」
「多分…そうなるってわかってたの。人間の醜さっていうのはどの
　時代も変わらないっていうか～そうなるだろうな～って思って生
　かしておいたの。確かにお兄ちゃんに止められたのもあるけど…」
「大丈夫。俺の事を助けてくれただろ？ありがとう」
「うん」

あのままずっと、あそこで暮らしていて、命の危険はないとは言い
切れなかった。

きっと何かと手を打ってきただろう。
今回暗殺に来たのが圭子でよかった。
もし、別の人間なら…きっと俺は…。

「そういえば着替え探さないとな…」
「あ！そうだった。これ、お兄ちゃんに似合うと思って！」

持ってきてくれた服は子供用のもので、質素な記事でなんの飾りも
なかった。
いつもの様に色々と手の込んだ飾りもフリルもない。
いたって普通の庶民が着る服装だった。

「ありがとう」
「なんか、ダサいかな？」
「いいよ、目立たないに越した事ないし。圭子もその髪色変えない
　のか？いっそ、お揃いにしないのか？」
「えっ…お兄ちゃんと…お揃い…」
「嫌か？いやなら…」
「いい！うん凄くいいよ！」

圭子は早速自分の髪にも色変化の呪文をかけた。
見た目はそう変わらない気がするが、茶色がかった髪と目の色になっ
た。

「本当に魔法ってすごいな～」

関心してみていると、圭子は嬉しそうに笑った。
今まで一番彼女らしい笑顔だった。