異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

文字の大きさ
31 / 92

29話 誘拐 前編

しおりを挟む
奥から出された盾の性能を見て、すぐに欲しくなった。

それは鑑定で見た結果だった。
小さいのに、自動回復、麻痺耐性、毒耐性、と装備しているだけで
効果が入っていた。
それよりも、気になったのは戦った相手を毒にする。

その効果が他人に渡したくない理由だった。

「イリア、それ僕欲しい」

鑑定でみた事を知ると、イリアもすぐに承諾した。

「おぉ、いい決断じゃ。これはかつて…」
「それはいいわ。それもいただくわ。」
「分かったが、そうせくでないわ。」

まだ何か言いたそうだったが、防具と剣の依頼をすると次は冒険者
ギルドへと向かった。

昨日受けた薬草採取の依頼達成を受け取るためだった。
今日は一緒に中へと入ると、一斉に周りの視線が注がれた。

まぁ、こんな子供連れが来たらそうなるよね、きっと。

採取依頼分を出す前に別の部屋へと案内された。
前に受け付け前に大量のゴブリンの死体を積み上げられたのがよっ
ぽど懲りたのだろう。
部屋に入ると部屋一面に依頼品を出され、職員総出で鑑定すること
になった様だった。

あぁ、これは徹夜だろうな…
鑑定を持っていれば簡単に仕分けできるだろうが、彼らは一個一
個見ていかなければならないからだった。

「また明日報酬を用意しますので…」
「分かったわ、明日朝にはまた来るわ」
「はぁ…」

朝にはと強調したあたりちょっと嫌味だったのだろう。
イリアと一緒に出ようとすると、目の前を塞ぐ様に体格のいい男が
立ち塞がって来た。

「おい、お嬢ちゃんどこ行くんだ?こっちで酒でもついでくれよ?
 ヒック…」

もう、酔っているらしい。
よりにもよってイリアに…全く残念な人だ。

「忙しいんだけど?どいてよ」
「俺様も忙しいんだ…ヒック…ほら、こっちへこい」

イリアの腕を掴もうとした瞬間、スパッとナイフが煌めいて男の腕
が床に転がった。

「あ、兄貴ー!腕が…腕が…」

一緒に飲んでいた子分に言われて、転がったものを眺めてから初め
て自分の腕だと認識した。

痛みはその後から来た。
一気に噴き出す血飛沫に辺りは騒然となった。

「その汚い手で触らないで!行こうケイルちゃん!」

イリアは怒りを露わにすると、すぐに笑顔になってケイルの手を
取った。
怒らせると怖いと改めて思った。

やっぱり、ご飯の最中はどうしても周りの視線が気になる。
なぜなら、目の前のこの女が原因なのだ。

「はい、あ~んして?」
「…」

何かにつけて、食べさせてくるのだ。

「もういいでしょ?自分で食べれるから…」
「えーーー!この店の料理不味かったの?」
「いや、そうじゃないけど…」
「なら、一口。あ~んして?」
「う~~~ん、パクっ」

確かに美味しい。
美味しいのだが、こう見られながら食べるのは、恥ずかしくてい
たたまれないのだった。

次の日になって、防具、剣、盾を手に入れて浮かれていた。
やっと異世界にきて冒険者らしくなって、ケイル自身嬉しかった。
それを眺めてイリアも満足そうだった。

そのあと、いつもの様になんの警戒もなく冒険者ギルドへと来た。

もちろん警戒を怠っていたのが原因だった。

一瞬の隙をつく様にケイルの姿が消えていたのだった。


時は遡る事数分前。

「そこで待っててね!すぐに受け取ってくるから~」
「うん、分かった~!」

周りに笑顔を振り撒くと、ギルド内もほんわかした雰囲気になった。
可愛い男の子が笑顔でいるだけで、心が安らぐ。
女性職員も、冒険者もそこは変わらなかった。

そして、自分の用事を済ませて終わった時にはさっきまでそこにい
た子供の姿が消えていたのだった。

正確にはケイルの目の前に昨日の男がいきなり現れると口を塞ぎ抱
えあげるとすぐに出て行ったのだった。

誰も来ない路地裏でやっと解放された。

「貴方たちは一体何を…」
「昨日お前のねぇちゃんに腕を切り落とされたんだよ?分かるか?」
「それは…イリアに無断で触れようとしたからっ…」
「そうじゃねーだろ?お前はあいつの弟なんだろ?一生俺に仕えてく
 れるんだろ?これを付けろ!」

何か首輪の様な金属製のものを投げてよこした。

「嫌だ…僕は関係ないでしょ?」
「ほう、生意気だな?首輪をはめてからしっかりと躾けてやらないと
 いけないかな?ん?こいつ…おかしくないか?」
「へぇ、色が…」

何を言っているのかと不思議だったが、あれからもう一週間が経とう
としていた。
変えたはずの色が戻ってきていたのだ。

茶色の髪は今は真っ白の銀髪へとそして瞳は真っ赤に燃える様な色に
変換していた。

この容姿は誰もが知る、殺されたはずの王家の末っ子の容姿そのもの
だった。
顔は出回っていなかったが、特徴だけは知られていた。

「こいつ死んだ皇子じゃないか?」
「なんでこんなところに?いや、その前にあの女まさか…」

ケイルはすぐにそばに落ちてた丸い盾を取ると魔力を流した。
そして男に突撃した。

男はたかが、子供の突撃に怯むわけがないと分かっていたせいか避け
る事もしなかった。
真正面に受けると弾き返した。

転がるようにケイルは倒れ込むと、子分にも同じ様にタックルしてい
った。

こっちも普通にぶつかってケイルの方がよろけた。

「おいおい、いっちょ前に戦う気か?皇子さま?」
「うわぁぁぁっーーー!」

大声を出すと、剣を抜く。
いくら子供でも真剣を持ったままは危ないと思ったのか今度はひょいっ
と避けられた。
避けたはずだった。

が、急旋回して足の腱を切りにかかる。
スパッと切るとそのまま走り出す。

「おい、あのガキ!?」

逃すかと思ったが、予想以上に切られた場所が深かったらしい。
よろめくと男はその場に転がった。

すると子分も横になっている。
何が起きたのか分からなかった。
さっきのは明らかにちょっとぶつかった程度で、切られた場所も足の…

深々と切られた足は全く動かない!

そして、息が苦しくなる…まるで毒でも塗ってあった様な感覚。
そしてなにより、さっきの子供が末っ子の皇子なら、暗殺されたはずが
なぜ生きているのか?
暗殺したのはあの有名な漆黒の魔女だと聞いた。

そう、漆黒の魔女の顔を見た者は誰もいない。
なぜなら、誰も生きてはいないからだった。

さっきの連れの女は…まさか…
そこまで考えると意識が消えて行った。

「あのガキ…なにもんなんだよ…」

部下も泡を吹くように横たわったままぴくりとも動かなくなった。
男の人生もここで終わったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...