異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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30話 誘拐 後編

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イリアが目を離した隙に、ケイルは攫われていた。

目の前にいるのは昨日のイリアに絡んできた男だった。
腕が一本なくなっている。

目の前に鉄の首輪を出してきた。

「それをはめろ。しっかりと躾けてやるからなっ!」
「悪いけど、そんな趣味はないんだ…」

盾に魔力を込めるとぶつかっていく。

もちろん、力で敵うなんて思ってはいない。
だからこそだった。
多分油断している。
この銀糸の髪を見て、死んだはずの皇子だと分かったはずだ。
なら、尚更、生かして帰してはいけない。

体格の違い過ぎるせいかぶつかっても弾き飛ばされた。
だが、これでいい。

男は自分が毒に侵された事に気づいてはいない。
そのうちに部下にもタックルする。
やっぱりぶつかると吹き飛ばされた。

しかし毒耐性が弱い部下の方が、すぐに反応が出た。
ケイルを弾き飛ばしたはずが、そのまま尻もちをつくと苦しみだ
したのだった。

その隙にもう一人の男に剣を抜くと真っ直ぐに向かっていく。
避けるのは簡単だろう。
ひょいっと避けられるのは想定済みだった。

この剣はドワーフのおじさんの最高傑作だと言っていた。
切れ味もいいと…

狙うは足の腱!

動けなくできればそれでいい。
あとは毒が回るまで待てばいい。

小さい身体を生かして、急旋回して切りつける。

男も予想していなかったのだろう。
ムキになって追ってこようとしたが、身体が傾き、倒れ込んだ。
そして、やっと気づいたのだ。
自分が切られたことより、毒で目の前が眩んで、そして身体の自由
が効かなくなっている事に…

何か言おうとしたが、もう呂律が回らなかった。

「ダメだよ?僕のこともイリアの事も…言いふらされたら困るんだ」

振り向いた銀髪の少年の美しさはまるで天使のようで、悪魔の様な
囁きだった。

見たものを死へと連れ込むそんな可愛い声だった。
最後に聞いた言葉はもう男には聞こえていないだろう。

すぐにギルドに戻りたいけど、この容姿のまま戻ってしまうとイリア
に変な疑いがかかってしまう。

悩みながら裏路地を歩くと、ボロギレに包まれた死体が転がっていた。

多分年はケイルよりも少し上だろうか?
痩せ細って、餓死したのだろう。

その前に手を合わせると、布を剥いで頭に巻きつけた。
これで髪は隠せた。だが、顔を覗かれるとどうしてもこの紅い瞳は目立
ってしまう。

悩んでいると、後ろから数人の人影が見えた。
明らかに後をついて来ている。

走り出したが、すぐに行き止まりになってしまった。

「悪いけど急いでるんだ…そこ通してくれる?」
「こんなところに子供?売れば高く売れそうだ…」

ぶつぶつと何か言っている。
絶対に奴隷に売るつもりだろ?

このままイリアとはぐれたまま奴隷にでもなれば、また自由がなくなって
しまう。
それより、自分でもそう思ったが、この容姿は結構可愛いのだ。
絶対に変な性癖のやつに売られたら最後だろ?

ケイル自身、売られるくらいなら死んでやるとさえ考えた。
が、今は、妹を置いて死ぬのはダメだ!

なんとしてでも生き残らないと…

剣と盾を構えた。
無駄な殺生はしたくない、が、仕方ない…

急所目掛けてすれ違い様切りつけていく。
人を切るのは兄のハイド以来だった。

しかし、ゴブリンを何度も倒したせいか何も感じなくなっていた。
この世界に馴染んだせいだろう。

一人が蹲ると一気に走り出す。
が…服を掴まれ、引っ張られると地面を転がった。
髪が解けると銀糸の綺麗な色が光を浴びて揺らめく。

「これは高く売れる…今日はいいものが食べれる…」
「美味しい食事にありつける…」

押さえつけられるとびくともしない。

「離せっ…このっ…イリアぁぁっぁぁっーーーー!!助けて!!」

大声で叫ぶと、そのタイミングで上から声が聞こえたきた。

「ケイルちゃん!お待たせ~!」
「…」

イリアがきた瞬間もう、その場にいた人間は生きてはいなかった。
いきなり頭が弾けるとバタバタと倒れて行った。

「あ…ありがと…」
「大丈夫だった?ケイルちゃん?」
「…怖かった、もうイリアに会えなくなるんじゃないかって…、
 すごく…怖かったんだ」

自分でも子供みたいだと思う。
泣きじゃくるなんて思ってもいなかったのに。
ただ怖かった。
身体につられるように精神も子供になってしまったのだろうか?

妹のイリアにしがみつくと、泣きながら抱きついて暫くは離れな
かったのだった。
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