異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第二章

7話 勇者

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勇者が生まれたのは貧しい村の一角だった。

母親は栄養失調で子供を産む事は死とギリギリの選択だった。
しかし、好きな人の子供とあれば産まないという選択はなかった。

が、産んですぐに男は数枚の金貨だけを残して姿を消した。
赤子は賢く、幼いながらに聞き分けが良かった。
まるで話が分かるかのようだった。

7歳の時に教会へ行って加護を受けた。
その時に初めて勇者と知った。

本人は驚きもしなかった。
まるで初めから分かっていたかのように落ち着きを払っていた。

そして、すぐに母親が亡くなった。
もう村にもいる意味はなく、そのまま旅に出た。

勇者という加護は教会へ行けばいつでも部屋は使えるし、食べ物に
も困らなかった。

そして国から魔王討伐の命が降った。

その時、勇者18歳だった。
教会から聖女が同行する事を知った。

ラニという少女はまだ18という年で、ハイヒールが使えた。
ヒールの上位版だった。

切り落とされた腕であっても、すぐなら治せるほどの腕前だった。

これは奇跡としか思えなかった。
強い魔物が多くいる場所へと赴くと力を試した。

そこである少年と少女に会った。

まだ彼らは幼く、未熟に見えた。
森で魔物に襲われているように見えたので助っ人に入った。

魔物の死体を山のように積み上げていたのは当時10歳のケイルとい
う少年だった。

側にはイリアという姉がついていた。
しかし、常にケイルに掛けているバフが尋常ではなかった。

子供ながらに狼の魔物をスパスパと真っ二つにしていく。
そしてそのスピードが尋常ではなかった。

イリアからの指示もあってか、ほぼ一人で戦っていた。

危なくなると後ろから魔法が飛んできて、怪我をしないようにと気遣
いが見える。

そして、別れたあと、再び彼らと出会ったのが、混浴風呂だった。
仲がいい、姉弟のはずが15になったのに、イリアの見た目が全く変わ
っていなかったのだった。

ケイルは年相応に成長していた。
イリアの方は異質としか思えなかった。

まさか…俺と同じ転生者?
聞かずにはいられなかった。

が、反応は薄かった。
それよりケイルの方が気になる。
何かを知っているような気がする。
これはアルフレッドの勘だった。

しかし、こっちを睨みつけるイリアの視線が出て行けと言っているようで
ここは退散する事にした。

何かあれば向こうから話して来るだろう。
女神との取引きを話しておいた。

あとは彼らの出方を見る事にしたのだった。



ラニ、彼女は領主の娘として生を受けた。

いつしかこの街を発展させるんだと意気込んでいたが、7歳の時の祝福を
受けて教会へと入る事になった。

教会では何不自由なく暮らせた。

が、外に出る自由はなかった。
いつも来る教会へのお布施が多い人に会ってヒールをかけるだけのお仕事。

それだけで衣食住の全てが豪華になっていった。

18になると国の偉い人に呼び出された。
そこで会ったのは勇者の恩恵を受けたアルフレッドだった。

それからはずっと行動をともにしている。
馬鹿で単純な男で、何より女にルーズだった。

教会へ行って寄付を露銀にすべてもらって来ると、娼館へと行ってしまう。

だからといってラニはこんな勇者に抱かれるつもりなど毛頭ない。

抱かれるくらいなら、娼館へと送り出してやるとさえ思っている。

アルフレッドがイリアという少女に興味を持ったようだった。
まだ幼いながらにしっかりしている。
いや、怖いくらいに魔力に溢れている少女だった。

彼女の弟のケイルは芯の通った人間のようだった。
勇者なんかよりも、信頼が置けて立派に見える。

アルフレッドの魔の手から姉を必死に守ろうとする姿は尊敬できた。

がだ、彼は気づいているのだろうか?
姉のイリアの目が家族に向けるものではない事に。

あれでは完全に一人の女として男を見る目をしていた。
ケイルはまだ気づいていないだろう。

いっそ気づかせるべきだろうか?

迷う…

それでも、何も言えなかった。
次会った時には教えてあげるべきだろうか?

運命なら、再び出会うだろう。
その時を楽しみにしていよう。

銀糸の髪で、紅い瞳の綺麗な彼は水に映った姿が実際の姿とは異なってい
た事に気づいていないのだろう。

ラニには茶色の髪も、水に映った時に色を変えて見えていた。
あんなに綺麗な銀糸の髪は見た事がなかった。

きっと、実際に見たらもっと綺麗なのだろう。
どうして隠しているのだろう?

今度、聞いてみたら話してくれるだろうか?
姉は真っ暗な髪に黒い瞳。
これもまた珍しい組み合わせだった。

きっと、二人は本当の家族ではない。
だけど、あんなに仲睦まじい姉弟は早々いないだろう。

ラニにも、そんなに大事に思える人ができたらいいなと思いながら二人を
今日も思い出す。
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