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第二章

11話 魔力訓練

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本当はこんな事したくないんだけど…

と前置きをしてから始まったのは魔法の基礎知識からだった。
イリアは元々この世界に来た時にチート能力を持っていた。
そのせいで、苦労する事なく膨大な魔力と操作能力をあらかじめ持っ
ていた。

しかし、ケイルはそうではない。
産まれてから、使えるのは生活魔法のみの、言語理解だった。

攻撃できるほどの魔力がなく、適性属性もない。

これには無能と言われるのも頷けた。
しかし、使えない事はないのだ。

使えるけど、どれも少しだけという器用貧乏な能力値なのだ。

「まずは聞くけど、どの属性も使えるって事はどのバフもかけれるって
 事よ。そして、それにはあらかじめ慣れる必要があるの。多分私のよ 
 うに、長い時間はかけられなくても攻撃前にバフをかけるくらいは出
 来ると思うの!」
「それができたら、一人でもバフをかけれるって事だね?」
「そうよ、もし…私と逸れても、戦えるって事よ」

よっぽど逸れた事などないが、これからも無いとは限らない。

「まずは強化バフね、手を出して」
「うん」

手の上で魔力が流れるのが分かる。それが一気に全身に行き渡る感じ。
これは微力な魔力しか持ってないケイルにもはっきりと分かる感じだっ
た。

「今の覚えた?」
「え…?」
「だから、さっきの魔力が行き渡る感じ掴めた?」
「う、うん…まぁ、分からなくはないかな」
「だったら、今から自分の魔力を手の中に集めて、全身に行き渡らせて
 みて」

一回やっただけの事をやれと言われても、どうやってやったらいいか分
からない。

「えーっと、イリア?どうやって集めるんだ?」
「手のひらに集中して…もっと、もっと絞り出す感じで…」

目の前の手を見ながらさっきの感覚を思い出そうとしてみる。

「ゆっくりでいいから、ここに集める感じよ。魔力なんて目で見えるも
 んじゃないからね~」
「う~ん…」
「意識を集中して…ここに何かある感じを想像して…、あっ、わずかだ
 けど、魔力が集まって来たわ、もっと絞り出して」

言われた通りに頭の中でイメージを作っていく。
するとだんだんと手の中は暖かくなっていく気がした。

目では何も見えない。
ただ。何か暖かいモノを感じる。
イリアには見えているのだろうか?

ケイルには何も見えない。
見えないけど、暖かいモノは確かにそこにあるのだ。

「もっと、集めて…限界まで絞る感じよ」
「うぅ………」
「意識をもっと集中して…いい感じよ」

何かを掴んだ気がする。
身体の周りから集まって来た暖かいモノを感じる。
それが段々と集まっている気がする。

「いいわ。それを全身の血管を一気に通す感じよ!弾けさせないでね?」
「全身に通す?」
「そうよ、最初に感じた感覚を思い出して?」

全身を意識した瞬間、手の中のナニカは一気に霧散した気がした。

「あ!消えちゃったわね…」
「へっ…マジ?」
「もう一回やり直しね!」
「マジか~~~」

さっきの魔力を集めるという動作を何度もやっているといつのまにか汗
だくになっていた。

「今日はこの辺で終わりましょ。もう魔力も少なくなって来たでしょ?」
「そうなの?そんな事は…あれ?」

立ち上がるとふらっとよろめいた。

「魔力の使いすぎよ。魔力が完全に切れると意識を失うから気をつけてね。
 あとは、魔力の補給の仕方も知っといた方がいいわね。あと、肝心なの
 は回復ね。この世界に回復魔法を使える人間は数少ないの、なんでか分
 かる?」
「難しいからか?」
「違うわ。そもそも覚え方が分からないという理由と、もう一つは…」
「…?」

少し苦い表情を浮かべるとケイルの頬に触れてゆっくりと額をくっつけて
きた。

温かいナニカが流れ込んできて、さっきまでの疲れが一気に和らいだ。

「教会が管理しているからよ」
「教会?ラニ姉のように聖女って称号と関係ある?」

ケイルにはアルフレッドが勇者であったように、ラニが聖女であることも初
めから知っていた。
それをイリアに話した時、なんだか納得された気がする。

「ケイルは鑑定で見えるけど、普通は分からないの。だから回復魔法を使っ
 たのを見られるとまずは教会へと連絡が行ってしまうの。そして、迎えが
 来る…」
「え…?なんでだ?そんなの自由だろ?」
「違うの、この世界には各国と教会、魔族という派閥があるのよ。そして、
 教会は回復を使える人を集めて、いろんな国や地域に貸出しするのよ。そ
 れも、高額な金額でね!そうやって自分たちの権威を保っているの」
「なんだよ、それ…行かなきゃいいじゃん」

ケイルは猛反対した。
それもそうだろう。
教会に行くも行かぬも自由だろと言いたいのだ。

「教会に逆らうとその村は一瞬で消え失せるわ」
「消える?なんで…?」
「教会はお金があるの。そして暗殺を専門にしている裏ギルドって言う組織
 があるのは知ってるわよね?」
「イリアが俺を殺しにきた時に受けた依頼を出したのがそうだよな?」

ケイルはイリアの暗殺対象だったのだ。
もし、気づかなければ、そのまま殺されて今頃墓の中だっただろう。

「そこに依頼を出されたら、もう終わりなの」
「そんなの、国が守れないのかよ!」
「それは無理よ、私もそうだったけど、結局は地図から消えてから気づくの
 よ。裏ギルドがなくならない限りは無理ね。彼らは狡猾に貴族や王族のツ
 テを持ってるの。だから壊滅は難しいでしょうね」

イリアでも、こればっかりは無理だと言っていた。
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