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第二章
26話 この世界を回ろう
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宿屋に戻ると、口を聞かないケイルにイリアは少しばかり困っていた。
「ケイル?お兄ちゃ~ん?ねー聞こえる?」
「…」
「もう、機嫌なおしてよ~」
「どうしてあんな事したんだ?」
「あんな事?遠征のお手伝いしてあげたんじゃない?あそこまで焼け野原
にすればもう、遠征人数もいらないでしょ?魔物も居ないし~安全にな
ったでしょ?」
「そうじゃない!俺は…」
何か噛み締めるように口をつぐむ。
「生かして捕まえるべきだった?そうじゃないでしょ?この世界は生きる
か死ぬかなの。ケイルに手を出したやつを生かしておく理由がある?」
「それでも、俺はまだ何も…されてない。」
「なら、あの男にされるまで待てばいいの?あんな卑怯な手を使って人質
を盾に男に犯されたかったの?」
「なっ…」
イリアの言う通りでもあった。
あの状況で逃げ出すことも戦う事もできなかった。
「私にとってこの世界の人間の命はそこらの雑草と一緒なの。簡単に消え
るし、簡単に消せるの。でも…ケイルだけは違う。誰にも傷つけさせな
い。あいつに殴らせるなんて失態…二度も犯させると思うの?」
ケイルの頬に触れると暖かさが伝わってくる。
宿屋に帰ってきてから傷の治療はされたが、お礼を言う気にはなれなかっ
た。
情けない兄と思うかもしれないが、それでも…
こんな風に命を軽んじては欲しくなかった。
犯罪は取り締まる機関に引き渡すのが普通で、殺していては一向に無くな
らない。
「でも、どうして遠征の場所がわかったんだ?」
「あぁ、それは…、ちょっとね…」
イリアは言葉を濁したが、ケイルに問い詰められて白状した。
裏ギルドの依頼や、遠征に関わっている大臣の部屋に忍び込んだ事。
そして、貴族のエドガーの親へもしっかりと仕置きに行ったことも話した。
「えっ!そんな事聞いてないよ!まさか殺してないよね?」
「う…うん、まぁ~そうだね…」
濁すには理由があった。
エドガーの親も子供同様に奴隷に酷い扱いをしていたのだ。
性的嗜好は誰にでもあるのは知っているが、さすがに耐え難い行為だった
らしい。
そこで…二度としないようにと、切り取ってしまったと言ったのだった。
「死にはしないわよ…ただ、アレがなくなってもう誰もだけないってだけ
だし~、あんなやつに必要ないでしょ」
同じ男として寒気が走った。
イリアの容赦のなさは今に始まった事ではない。
実の妹だった頃、本当に大好きだった。
仲のいい兄妹だったし、妹も聞き分けが良かった。
遼馬もいつも妹の圭子を優先したし、妹が喜ぶ顔を一番多く見ていたかっ
た。
「はぁ~…」
大きなため息を吐き出すとイリアから視線を外した。
(どうしてこうなっちゃったんだろう…圭子はどうして俺を庇うようについ
て行ったのだろう。もし神と名乗った少女が圭子ではなく俺を連れて行っ
たのなら、圭子は普通の暮らしをしていたのではないか?)
考えても過去は変えられない。
現実世界に帰ったはずの圭子がイリアとして、再びこの世界に帰ってきた理
由はなんなのだろう。
ただ、俺が死んだのが理由なのだろうか?
あの時、俺が通り魔に刺されなかったら…。
今はあの世界で一緒に生きていけたのだろうか?
「俺たち、もう戻れないんだよな?」
「お兄ちゃん…うん、私は戻れるらしいけど…お兄ちゃんはもう…」
「向こうの世界で死んでるからか?」
少し戸惑うながら頷いた。
「もういいよ。でも、圭子はまだやり直せるなら…」
「嫌だ!お兄ちゃんがこの世界でケイルとして生きていくなら、私も…」
「お前はまだやり直せるのにか?」
「うん、お兄ちゃんのいない世界でどうやって生きていけって言うの?私は
嫌!お母さんだって…もういないのに…」
「…?」
「あっ…ごめん…」
なんとなく分かってはいた。
イリアが戻らない理由。
母親を一人残しているならきっと戻っていたはずだ。
だが、それもないと言うことは…
きっと俺が死んだ後に…
「ごめん…今度からは一人の依頼は受けない。」
急にケイルから抱きしめられるとイリアも嬉しそうに背中に手を回してくる。
兄妹でおかしいと思うかもしれないけど、今は姉弟だ。
一番信用できる。一番信じなければならない相手の温もりを感じながら、これ
からの事を考えなければならなかった。
「まずはS級冒険者になろう!そんでこの世界を全部見て回ろう!二人でさ!」
「うん」
「それから~やりたい事探そうぜ」
「うん」
「イリアは何かないのか?」
「うん、いつも一緒ならどこでもいい」
「そう、だな…」
それにはまず、この街を出て依頼達成の報告に行こう。
そして、今度は別の国を回っていっそ魔族の街にも行ってみよう。
歓迎されないかもしれないが、それでも観光を楽しもう。
二人だけの永久の世界旅行だ!
「ケイル?お兄ちゃ~ん?ねー聞こえる?」
「…」
「もう、機嫌なおしてよ~」
「どうしてあんな事したんだ?」
「あんな事?遠征のお手伝いしてあげたんじゃない?あそこまで焼け野原
にすればもう、遠征人数もいらないでしょ?魔物も居ないし~安全にな
ったでしょ?」
「そうじゃない!俺は…」
何か噛み締めるように口をつぐむ。
「生かして捕まえるべきだった?そうじゃないでしょ?この世界は生きる
か死ぬかなの。ケイルに手を出したやつを生かしておく理由がある?」
「それでも、俺はまだ何も…されてない。」
「なら、あの男にされるまで待てばいいの?あんな卑怯な手を使って人質
を盾に男に犯されたかったの?」
「なっ…」
イリアの言う通りでもあった。
あの状況で逃げ出すことも戦う事もできなかった。
「私にとってこの世界の人間の命はそこらの雑草と一緒なの。簡単に消え
るし、簡単に消せるの。でも…ケイルだけは違う。誰にも傷つけさせな
い。あいつに殴らせるなんて失態…二度も犯させると思うの?」
ケイルの頬に触れると暖かさが伝わってくる。
宿屋に帰ってきてから傷の治療はされたが、お礼を言う気にはなれなかっ
た。
情けない兄と思うかもしれないが、それでも…
こんな風に命を軽んじては欲しくなかった。
犯罪は取り締まる機関に引き渡すのが普通で、殺していては一向に無くな
らない。
「でも、どうして遠征の場所がわかったんだ?」
「あぁ、それは…、ちょっとね…」
イリアは言葉を濁したが、ケイルに問い詰められて白状した。
裏ギルドの依頼や、遠征に関わっている大臣の部屋に忍び込んだ事。
そして、貴族のエドガーの親へもしっかりと仕置きに行ったことも話した。
「えっ!そんな事聞いてないよ!まさか殺してないよね?」
「う…うん、まぁ~そうだね…」
濁すには理由があった。
エドガーの親も子供同様に奴隷に酷い扱いをしていたのだ。
性的嗜好は誰にでもあるのは知っているが、さすがに耐え難い行為だった
らしい。
そこで…二度としないようにと、切り取ってしまったと言ったのだった。
「死にはしないわよ…ただ、アレがなくなってもう誰もだけないってだけ
だし~、あんなやつに必要ないでしょ」
同じ男として寒気が走った。
イリアの容赦のなさは今に始まった事ではない。
実の妹だった頃、本当に大好きだった。
仲のいい兄妹だったし、妹も聞き分けが良かった。
遼馬もいつも妹の圭子を優先したし、妹が喜ぶ顔を一番多く見ていたかっ
た。
「はぁ~…」
大きなため息を吐き出すとイリアから視線を外した。
(どうしてこうなっちゃったんだろう…圭子はどうして俺を庇うようについ
て行ったのだろう。もし神と名乗った少女が圭子ではなく俺を連れて行っ
たのなら、圭子は普通の暮らしをしていたのではないか?)
考えても過去は変えられない。
現実世界に帰ったはずの圭子がイリアとして、再びこの世界に帰ってきた理
由はなんなのだろう。
ただ、俺が死んだのが理由なのだろうか?
あの時、俺が通り魔に刺されなかったら…。
今はあの世界で一緒に生きていけたのだろうか?
「俺たち、もう戻れないんだよな?」
「お兄ちゃん…うん、私は戻れるらしいけど…お兄ちゃんはもう…」
「向こうの世界で死んでるからか?」
少し戸惑うながら頷いた。
「もういいよ。でも、圭子はまだやり直せるなら…」
「嫌だ!お兄ちゃんがこの世界でケイルとして生きていくなら、私も…」
「お前はまだやり直せるのにか?」
「うん、お兄ちゃんのいない世界でどうやって生きていけって言うの?私は
嫌!お母さんだって…もういないのに…」
「…?」
「あっ…ごめん…」
なんとなく分かってはいた。
イリアが戻らない理由。
母親を一人残しているならきっと戻っていたはずだ。
だが、それもないと言うことは…
きっと俺が死んだ後に…
「ごめん…今度からは一人の依頼は受けない。」
急にケイルから抱きしめられるとイリアも嬉しそうに背中に手を回してくる。
兄妹でおかしいと思うかもしれないけど、今は姉弟だ。
一番信用できる。一番信じなければならない相手の温もりを感じながら、これ
からの事を考えなければならなかった。
「まずはS級冒険者になろう!そんでこの世界を全部見て回ろう!二人でさ!」
「うん」
「それから~やりたい事探そうぜ」
「うん」
「イリアは何かないのか?」
「うん、いつも一緒ならどこでもいい」
「そう、だな…」
それにはまず、この街を出て依頼達成の報告に行こう。
そして、今度は別の国を回っていっそ魔族の街にも行ってみよう。
歓迎されないかもしれないが、それでも観光を楽しもう。
二人だけの永久の世界旅行だ!
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