異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第二章

27話 海の見える街

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冒険者証は便利なものでどこの国や、地域、街に行っても身分証明書
として使える。

「海に面した街っていいわね~潮風の匂いがして異世界って気がしない
 わ」
「だよな~、もうイリアも姉さんっていうより妹って言った方がいいん
 じゃないか?」

ケイルも今年で18歳を迎えた。
成長の止まったままのイリアと比べてももうすぐ、現実の年齢差になろ
うとしていた。

「このまま観光しながら行くか?」
「それもいいけど…ちょっと寄り道していこう♪」
「ここには来たことあるのか?」
「うん、だいぶ昔にね」

宿に泊まるでもなくぶらつきながら買い食いをした。
海の幸が多くある中、珍しいものを見つけた。

軟体動物のはさみ揚げだった。
小麦粉で作った皮に野菜と一緒にイカやタコが挟まっている。

「これってさ…もうお好み焼きじゃん」
「あ~やっぱり流行ってたみたいだね」

その言い方からすると、これをこの世界で教えたのは…

「誰かに教えたのか?」
「うん、まぁ~、そうだね。でも、別にここの名物にしようなんて思
 ってないからね!」

しかし、ちゃっかり名物になってしまっていた。

「全く~考案者を無視して儲けてるのは誰よ~」
「それ言っても誰も信じないだろ?」
「え~なんでよ~」
「だってそれ教えたのって何年前だよ?」
「えーっと…アレ?何年前だっけ…200年?いや。もっと前だったかな」
「そんな前の人が生きてるって誰が信じるんだよ」

ケイルの言う通りだった。
この街には貢献した人の銅像を建てる風習があった。
そこにはイリアの知っている人も何人かいたのだった。

「あーこの人知ってるわ。確か、一緒に戦ってくれって土下座してきた
 んだよね~、勝った瞬間街を追い出されちゃったけど…」
「おい、それ、国王って書いてあるぞ?」
「あー、なんか偉い人だなって思った。そうそう、こっちの人は海での
 漁に困ってたんだよね~、引網漁を教えたらすっごく大量に取れるっ
 て喜んでたな~」
「この街の大富豪じゃん」

なんだかんだとイリアと関わった人は大物になっていたらしい。

「そんだけ生きてると辛くないか?」
「なんで?」
「だって…誰かの死を見届けてるって事だろ?」
「いつかは死ぬのって当たり前じゃん?」
「そうだけど…」
「私は…誰が死んでもあんまり実感なかったんだよね…だって、この世界
 ってさ~ゲームみたいな感覚が抜けなくてさ…いろんな事を教えてくれ
 た師匠でさえ、目の前で死んでも何も感じなかったんだよ?」
「…」
「だから平気!」
「そっか…これからはイリアが一人にならないようにしないとな」

一瞬、イリアの表情が驚いたようにも見えたが、すぐに笑顔で笑いかけて
きた。

「そうだよ~、私の家族はたった一人なんだからね!」
「あぁ、もちろんだ」

屋台を堪能したあとは、イリアに連れられてやってきたのは海が目下に見
える高台にある屋敷だった。

かなりボロボロに見えるが、大きさはかなりの豪邸だと思える。

「イリア、ここはどこなんだ?」
「うん…昔住んでいた家かな」
「こんな屋敷にいたのか?なら、あのいつも持ち歩いてる家はなんなんだ?」
「あ、あれは私にとって趣味のテント代わりよ」
「テントがわりに家って。まぁいいや。人は住んでないのか?」

ケイルが聴きながらドアを開けると中は埃っぽくて床には動物の足跡がつい
るだけだった。

「これは酷いな~、まずは掃除からだな」
「そうなりそう…だね」

そこは本当に誰も住んでいなかった。
人が手入れした痕跡は愚か周りも草で覆われていて窓すら開かない。

「これは…苦労しそうだな」

部屋一個一個に生活魔法をかけて綺麗にしていくのはいいが、それだけで
は終わらない。
窓に絡みついた蔦は手で取るしかないし、こればっかりは魔法というわけ
にはいかない。

ケイルは昔に比べて、力も年相応についてきたし、魔力も多少増えてきた。

ここからなら、海が一望できて景色はよくて、誰もが住みそうなものだが。
どうして今も空き家になっているのだろう。

「イリア~今生活できるくらい掃除できたし買い出しいこうか?」
「ちょっと待って~私も行く~~~」

ドタバタと奥から何かが落ちる音が響いてきた。
埃まみれになって出てきたのを見ると掃除というより何か引っ掻き回した
のだろう。

「大丈夫か?」

イリアの手を取ると服から全体に軽い魔法をかける。

「生活魔法って便利ね」
「イリアも使えるだろ?」
「え…」
「え…って…」

ここで初めて知った。
イリアはド派手な魔法をぶっ放したり、聖女しか使えない聖魔法や、回復
を使えるのに、生活魔法を知らないのだ。
確かに、これだけできれば必要ないかもしれないが…

なんだか不思議だった。
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