異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第二章

25話 焼け野原

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エドガーという魔法師を一人失った。

それも自業自得なのだが。もし彼をそのままにしたらケイルを失ってい
たかもしれない。

どちらが大事かは考えるよりも明らかだった。

「それで?この遠征の目的はここの魔物全滅なの?」
「そ、それはそうなのだが…ここは強い魔物が多くて先に進めないから、
 今回も撤退をするしかないだろうと…」
「そう…なら手伝ってあげるわ。全滅…でいいわよね?」

念を押すように言うと、イリアは空へと舞い上がった。
そして巨大な火の玉を練り上げると目の前の風景が一気に変わった。

木もない、荒地へと化したのだ。
そこには魔物すら住めないただの焼け野原が続いているだけだった。

「これで、ここ一体の魔物は全滅よ。これで遠征は終わりでしょ?」
「イリア!なんでこんな事…」

文句がありそうなケイルは声を荒げるがそれを静止した。

「もう、帰るわよ?依頼は終わったわ。ケイル、私と帰るの。いいわね?」

反論は聞かないというような凄みのある声だった。

「どうして…」

ただ、自分で決めた事なのに、なんで…

ケイルを抱きしめるとそのまま一気に加速してその場を去った。
残された団長は次の日、兵士を編成し直すとそのまま先へと進んだ。

どこまで行っても焼け野原で、魔物一匹すら見付けられなかった。
これで、この地の開拓が進む。
そして遠征の目的も果たせて、一石二鳥だった。

「あの…団長、ケイルはどこに?」
「あの日いらい見てないんだよな~」

ノックもナシスも不思議そうにいう。
そしてエドガーの死。
これは誰も驚かなかった。
今まで好き放題していた分のつけが来たと喜んだ人間もいた。

「ケイルは…もういないよ」
「それって…まさか」
「彼は生きてはいるよ。でも…もう会うことはないよ」

それだけ言って部隊を出発させた。
暗い顔をしている団長の元にジングが駆け寄ってきた。

「おい、何があったんだ?一日でこの有様はおかしいだろ?それに死んだ
 エドガーってあの貴族の…」
「分かってる。エドガーがケイルに手を出そうとしたんだ。それを俺は止
 められなかった。」
「それは…仕方ないだろ…貴族だろ?でも殺すことねーだろ?」

ジングは団長のヘイラスが殺したと思ったらしい。

「俺じゃない…」
「なら…」

目の前の焼け野原を眺めると大きなため息をついた。

「俺の目の前でエドガーを殺して、奴の連れてきた傭兵を全員一瞬で殺し
 たんだ。あれは化け物だ。ケイルがもし、何かあれば俺たちも今頃…」
「何を言ってんだよ。俺らがそんな簡単に…」
「目の前の風景を一人の人間がやったと言って信じるか?それも一瞬でだ」
「まさか…」
「そうだ。あれは漆黒の魔女とばれる1000年前のお伽話の中だけだと思
 っていた。だが、違った。現実だ。ケイルを育てたのは魔女だ」

団長はいつのまにか自分が震えているのに気がついた。

そうだ、怖かったのだ。
あの強さが、あの残忍さが。

魔女は誰を殺すのにも躊躇しない。
たった一人だけを守るためなら国をも滅ぼすだろう。

「そこまでケイルにこだわる理由はなんだろ?自分の子供でもないだろ?」

ジングの言うことは正しい。
彼は間違いなく王族の人間だ。

「知ってるか?ケイルは昔殺されたはずの王族の人間だ」
「はぁ~?嘘だろ?」
「本当だ。それを漆黒の魔女が守っているんだ。理由はわからん。だが、
 これには絶対に触れてはいけない。命がいくつあっても足りないからな」

お前も黙っておけよと睨みつけるとジングも頷いたのだった。

どうしても、気になって再び団長に直談判しようと来ていたナシスは言葉
を失っていた。

ケイルが王族?
魔力がある理由も、あの強力なバフもそれが理由だろう。
それ以上に、ケイルの姉はあの、漆黒の魔女というのが一番印象的だった。
そんなお伽話の人物が今も生きていて、存在しているのだと。

ナシスの兄、ベルーナが弟を心配してナシスを探していた。
本当ならもっと前線で戦うはずが、魔物一匹いないので、どこにいても一緒
だと言うことになったのだった。
 
「あ、ナシス…ここにいたんだね。ノックも心配してるよ?」
「うん…そうだね」
「まだ見つからないのかい?探していた彼は…?」
「うん、もう…見つからなくていいんだ。住む世界が違ったみたい。ベルーナ
 兄さん行こっか」

そのまま遠征は終わり、騎士団の名誉ある功績として語り継がれる事となった。
団長の采配で少数の犠牲を払ったが、未到の地の開拓を終えたのだと。
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