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第三章

1話 護衛

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今度は歩いてのんびり旅に出る事にした。

馬車を借りようにも結構値段がしたのでやめたのだった。
もちろんバフをかけて一気に走った方が早いとは分かっていても、
それはしない。
せっかくの観光なんだから。

「そろそろ飯にするか?」
「そうね~、でも…もう少し別の場所にしない?」
「あ…まぁ~そうだな…」

さっき襲ってきた野党を殺した場所では食事が不味くなる。
そう思うと川の音を聞きつけ足を向けた。

綺麗な小川が流れている場所で返り血を魔法で落としたが、それ
でもさっぱりしたいと水浴びをする事にした。

「イリア先に入るか?俺が見張っておくから…」
「なんで?一緒に浴びればいいじゃん?結界貼っとくから平気
 よ?」
「いや、俺がいるだろ?俺は一応男なんだぞ…」
「大丈夫だよ。ね!脱がせてあげよっか?」
「いいから、そっち向いてろって…」

ケイルから見たら妹なのだが、イリアには貞操概念が乏しい気が
する。
もう少し恥じらいを持って欲しい。

イリアの視線を背中に感じながら水に浸かる。
まだ少し冷たいが、入れない事はない。

「冷たっ…でも、風呂は入れないぶん、入れる時に洗いたいよな~」
「ケ、イ、ル、くーん!洗ったげようーか?」

イリアが背中にピタリとくっついてくる。
柔らかい感触が背中に当たっていて、振り向けない。

「冗談はいい加減に…」
「ねーこっち向いてよ~」
「向かない!ってか、お前は少しは恥じらいを持てって!」

真っ赤になって俯くケイルにイリアは楽しそうにわざと体をつっ
くけてきた。

もう散々焦らしては、恥ずかしげもなく身体をピッタリと押し当
てると楽しくて仕方がないらしい。

イリアはこう言う悪戯っぽいところは昔と全く変わってなかった。

それでもケイルは頑なに目を瞑るとすぐに上がってしまった。

「あんまり入ってると風邪引くぞ!」
「え~~~もう上がるの?」
「当たり前だ!」

怒っているような口調だが、ただ恥ずかしがっているだけだとお互
い理解している。
だからこそたちが悪い。

ケイルが服を着ると、森の奥の方で悲鳴が聞こえてきた。

「イリア、先に行ってるぞ!」
「ちょっ…ちょっと待ってよ!」

叫び声は意外と近かった。
野党にでも襲われたのかと思ったが、そうではなかったらしい。

数人の噛み殺された人を見つけると息はなかった。
そのまままっすぐに走りながら自分にバフをかける。
今はイリアを置いてきているので、自分の能力を向上させれるのは自
分だけだった。

広い場所に出ると、数人の男達に庇われるようにドレスを着た女性が
怯えながらあとずさっている。

それを取り囲むように真っ黒な子牛ほどの大きさのオオカミの群れが
じりじりと距離を詰めていく。

獲物を弄びながら殺すようだった。

「ここからなら一気に行ける!」

スピードを一気に上げて距離を詰めると後ろから一撃で倒していく。
速さ勝負だ。
こっちも囲まれては危ない。

向こうもこっちに気づいた時には半数が地面に倒れたあとだった。

グルルルルルーーーー

威嚇をするように今度はケイルへとジリジリと距離を詰めていく。
そんな時に後ろからイリアの声がした。

「待たせたわね!いくわよ~!」
「遅いっ!」
「悪かったってば~!」

そう言うと、一気に雷が落ちてまた半数が倒れた。
そのうちにケイルが一気に剣を振り上げる。

群れのリーダー的存在を一撃で仕留めると、そのあとはバラバラに
逃げ惑う。

統制が取れていなければ怖くはない。
最後に一匹を屠ると彼らに向き直った。

「大丈夫ですか?」
「あ、はい…ありがとうございます」
「お嬢様、いけません。まだ本当に安全かどうかわからないのです
 から」
「あ、疑われてます?僕たち冒険者やってます。これ!証明書です」
「なんと!Bランク冒険者と!それは…まだ若そうなのに…」
「年齢は関係ないです。実力でなったので…」

文字通りB級冒険者は有象無象と違って試験がある。

D級まではクエストをこなせばなれてしまう。
そしてC級に上がるにはクエストの多さと質量がものをいう。
いわゆる、薬草採取ばかりではダメなのだ。
討伐クエストをしてやっと上がれるのだ。

そしてその上のB級となると、ギルドでも屈指の戦闘能力を持つものと
戦っていい評価を得なければ決してなれないのだ。

その先は、大きな貢献をしない限りはなかなかなれないという。

「では、あなた達を見込んで頼みがあります。ここから西にある街まで
 お嬢様の護衛を頼みたいのです。先ほど護衛は全滅してしまい、もう
 ダメかと思ったので…」
「どうか、私からもお願いできないでしょうか?」

執事と侍女しか残らなかったのだろう。
それでは心細い事だろう。

「イリアいい?」

後ろを振り向くとイリアにも相談してみる。
嫌そうな顔ではあるが、頷いてくれた。

「いいわよ、どーせ返事するんでしょ?ちょっと待ってて。条件を言っ
 てくるわ」

そう言ってイリアはお嬢様と執事の前に出て行った。

「護衛はしてあげる。ただし、条件があるわ!」
「報酬なら、ついてからいくらでも…」
「そうですわ。生きて出られるなら、なんでも言ってください」
「護衛はしっかりするから、安心なさい。だけどね、私のケイルに色目
 使ったら許さないわよ!」
「…あ、あの…それは」

一瞬、静かになった。
慌ててケイルがイリアの口を塞ぐと苦笑いを浮かべた。

「あの、気にしないでいいので!まぁ、安心してください。俺ら強いので」

いきなり何を言い出すかと思ったら、ろくでもないことを言い出したイリア
を睨むようにケイルは冷たい視線を送ったのだった。

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