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第三章

4話 人助け

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大きな街の割に宿屋が極端に少ない気がした。

「部屋は空いてますか?」
「はいよ。この時間だと夜食は出ないけどいいかい?」
「はい。」
「なら、ベッドは大きい方がいいね、この部屋でいいかい?」

おかみさんの言葉に疑問を持つとすぐに訂正した。

「あの、部屋はふた部屋でお願いします」
「あんたたち一緒じゃないのかい?」
「違います!別々で」
「しかしね~、今開いてるのは一部屋なんだよ~」
「なっ…」
「では、それでいいですよ~」
「イリア!」

否定しようとしたが、ないのは仕方がない。
だからといってこの時間から他に宿屋を探すのも大変だった。
ここは諦めて同じ部屋に…

食事を終えているので、あとは寝るだけだった。
生活魔法で身体を綺麗にすると、薄着になって布団に入り込んだ。
すでに横になっているイリアの横に入ると背を向けるように目を閉じ
る。

後ろからもそもそと動くのが分かる。
そしてピタリとくっ付いてくる。
薄い布越しでも分かる柔らかさと暖かさに余計に目が覚める。

「イリア、お前な~」

振り返ると目が合う。
起きてたのか?

ゆっくりと視線を落としていくと、どこまでも素肌のままで服らしい
布もない。

「なっ、おい!服は!」
「着るわけないじゃん。今から寝るんだよ?」
「いや、着とけよ!男の横で寝るんだぞ!」
「大丈夫だって~ふわぁ~、ほら、寝るよ~」

全然大丈夫じゃねーよ!
そう叫びながら起き上がろうとすると、抱きしめられた。
しっかり腰を掴まれると薄い布越しに色々と伝わってきてしまう。

(おいおい、嘘だろ…このまま寝るのかよ…)

イリアの方を向いたせいで今、腕の中にイリアがすっぽりと収まって
いる状態だった。

(兄妹、そう兄妹なんだ…間違っても手を出しちゃいけない。母さんが
 悲しむ…あれ?この世界では血も繋がってないのでは?じゃ~…)

考えれば考えるほど眠れなくなっていく。
頭が一度冴えてしまうと、全く眠気がこない。

いや、頭が冴えているからこそ、余計な事を考えてしまうのだ。
ベッドから降りて床で寝るか?

そうしたいが、しっかりしがみつかれていて、抜け出そうとすれば、
起こしてしまいそうだった。

(せめて後ろ向かせてくれよ…)

心の中で叫びながら興奮しないように別の事を考えるようにしている。
妹の前で恥の上塗りなどしたくはない。

無心になるように努めていると、いつの間にか窓の外が明るくなって
きていたのだった。

イリアが目を覚ました頃にやっと眠気が来た。

「ケイル~、今日はどうする?ちょっとだけ観光してから街をでよっ
 か?」
「俺…このまま寝たいんだけど…」
「えーーーーー!さっきまで寝てたじゃん~~~」
「誰のせいで寝れなかったと思ってんだよ…ふわぁ~~…もういいから
 寝かせてくれよ…」

少し膨れっ面をしながらも服を着て出ていく。
イリアほど強ければ一人でも大丈夫だろう。

夜に一睡もできなかった分を取り戻すかのようにぐっすり眠った。
昼にやっと起きてくると机の上に食事が置いてあった。
固いパンに野菜と肉が挟んであった。

「買っといてくれたのか…」

早速胃に収めると背伸びをして窓の外を眺めた。
行き交う人が多く、賑わっているのを感じながらいつもの癖で鑑定を
発動する。


…町娘、さっきまで情婦として稼いで来た。

「え…マジか…」

…盗賊の下っ端、カモになりそうな標的を探し中。
 
「これはダメだろ…」

ケイルは着替えると降りていく。
通りに出るとさっきの男を探す。

曲がり角を曲がったところであの男を発見した。
何やら困った様子の気の弱そうな男性と話し込んでいる。

…たから来た商人、妻の為に稼ぎに来ている。
 貴重な薬草を持っている。高価な為、売る相手を探している。

「なぁ~あんた、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「ここの貴族紹介しようか?」
「おい、いきなり何を言い出すんだ?お前みたいな若造がそんな真
 似出来るわけねーだろ?」

さっきの盗賊の下っ端の男がくってかかる。

「俺がいいやつ紹介してやるよ。今から行こうぜ」
「待って、その人についていかない方がいいよ?そうでしょ?」
「何を言いやがる。これ以上邪魔すると痛い目見ることになるぞ?」
「それはどっちがかな?」

ケイルはわざと揶揄うように言うと、男は刃物を出して脅してきた。

「俺は冒険者だ、強いんだぞ?」
「それは奇遇だね?俺も冒険者なんだよ。B級のね?」

そう言って冒険者証を見せると、男はすぐに顔色を変えて逃げ出そ
うとしてきた。

すぐさま取り押さえると気絶させてギルドへと運んだ。

「大丈夫だった?」
「はい、私はユーノホスローと言って北部で商いをしています」
「うん、知ってる。だから声をかけたんだよ。貴重な薬草を売りに
 来たんだよね?これを突き出したらいい人紹介するよ」
「本当なのですか?」
「うん、貴族に知り合いがいてね。多分いい人だと思うよ?」
「あ、ありがとうございます」

そうしてちょうど賞金がかかっていた為お金にもなった。
それから、お嬢様の屋敷へと向かった。

執事と目が合うと喜んで迎え入れてくれた。

「ケイル様、再び来ていただけるとは。こちらへどうぞ」
「いや、ちょっと相談があるんです。この方の話を聞いてもらえま
 すか?」

旦那様へと話が付くと、ユーノホスローは自分の持ってきた薬草を
説明し始めた。
もちろんこの地方では取れず、大変貴重な物だった。
その為、すぐに商談は成立した。

「ケイルさん、待ってください」
「あれ?商談はどうなった?」
「大丈夫でした。予想より高値で買ってくれるそうで、これからも
 頻繁に取り引きを持ってくれるそうです」
「そうですか、よかったですね?」
「はい、それもこれも貴方のおかげです。なんとお礼を言っていい
 のか…、騙されそうになっていたところを助けていただいただけ
 でなく、こんな取引先まで紹介してくれるなんて…」
「いいって、よかったですね。俺はこれで…」

帰ろうとするのを引き止められた。

「ぜひ、お礼を…」
「いいって。俺さ、このあと人と会うから、もういい?」
「あ、すいません。では、今度あった時はぜひにも」
「あぁ、今度あったらなっ」

やっと宿屋に戻ってくると、すでにイリアが戻ってきていた。

「どこ行ってたのよ?」

少し機嫌が悪そうだった。

「ちょっと散歩。イリアはどこか行ってたのか?」
「ちょっとね…それより、ご飯食べに行こう」
「そうだな、これからの食料も調達しないとだしなっ!」

そういうと、一緒に出かける。
もう、次出会うことのない街の人々を眺めながら自然と笑いが込み
上げてきていた。

「何かあったの?」
「いや、なんでもないよ」
「変なの~」

ケイルだけが見れる鑑定という能力は普通は物だけだが、こうやっ
て行き交う人々を観れるのも悪くはない気がする。

人それぞれに事情や、その人の人生の断面を覗けてしまうのは反則な
気もするが、それで助けられるのなら、悪くはない気がするのだった。
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