異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第三章

9話 逃れられぬ死

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頭を深々と下げて、お願いするしかない。
自分の立場は分かっている。
人質として連れてこられたのだろう。
だが、それでもケイルにはやらなければならない事があるのだ。

「まぁ、いいじゃろう。今ここで倒せたら魔石をやろう」
「本当です…か?えっ…倒す?」
「そうじゃ、今から呼び出してやるからの」

なんだか軽い口調で言われ、目の前にゲートがあらわれた。
そこからいくつも手が出て来たが、先代魔王が何か呼び出すと一匹
の黄金色のオオカミが姿を現した。

「どうだ?A級クラスの魔物じゃぞ?」
「はいっ……」

これは一人で戦うしかない。
イリアの援護は期待できない。

自分自身に強化魔法、風でスピード上昇、剣には切れ味を…徐々に魔
力を込めると全身に行き渡らせる。
持って10分。
短いだけに、長引かせると不利になる。

一気に地面を蹴ると走り出した。

加速をつけて切り掛かるが、向こうもそう簡単には倒されてはくれな
い。
簡単に避けられると牙を剥き出しにして襲って来た。

ギリギリでかわすが、こっちには余裕などない。
すぐに反撃に移ると後ろに回り込むと斬りつける。
が、野生の勘なのだろう。
すぐにかわされてしまう。

焦るな!俺…

時間がない…

いつのまにかブライブさんは遠くでこちらを見ている。

(あのくそ老人が!安全な場所で見てる気か!)

ここはどこかの庭園だ。
近くの倉庫もある、なら…

すぐにケイルは倉庫の方へと走り出した。
逃げる獲物を追いかける修正のあるオオカミを背に一気に駆け抜ける。
倉庫の中に入ると砂という砂を巻き上げる。
一定の粉塵を充満させる。そしてドアをこじ開けて入っていた魔物に
向けて小さな火花をあげた。

一気に中から爆発が起きてケイルもろとも吹き飛ばされた。

強化魔法はまだ効いている。
全身を強くぶつけると痛みが走る。
それでも立ち上がると、魔物もよろよろと起き上がった。

ケイルは剣を握りしめると一気に走り出す。
まだ、ふらついているうちに勝負をかけたのだ。

さっきの爆発で耳も鼻もまだ効かないのか、ケイルの接近に気づけ
なかったらしい。
首を落とそうと真上から切りつけた。

が、ガキーン!

硬くて切り落とせなかった。
さっきかけたバフが切れたのだった。

「マジか…」

近くまで接近していたせいで目の前まで来ている牙を避ける余裕は
なかった。

左肩から一気に牙が皮膚を突き破る。

「あぁぁっぁっーーーー」

全身に痛みと熱さが一気に伝わって来た。
嫌だ、死にたくない!
まだやることがあるのに…

強烈に死を感じたのは、初めてだった。
視界が薄れていく。
真っ赤な鮮血があたりに広がり、なにもかも終わった事を知る。

(ごめん…イリア…ごめん、圭子…また一人にしちまうな…)

動かなくなると地面に吐き出す。

「なんとも呆気ないのう。しかし…最後は残念じゃったの」



その頃、イリアはというと目の前から忽然と消えたケイルの消息を
追っていたのだった。

目の前で攫われるなど、あり得ない話だった。

どうやって消えた?
どこに移動した?

「許さない…絶対に殺す…」

ケイルには身につけるように渡したアクセサリーに追跡魔法を仕込
んである。
これを追えば、生きてさえいれば追跡が可能だ。

「見てなさいよ、あの老いぼれが!」

場所はここから結構離れている。
山の上の方を示していた。

一気に飛び上がると空を駆ける。
その途中で追跡信号が途絶えてしまった。

壊れたか、もしくは装備者の死亡を意味する。

後者は考えたくない。
急ぐように駆け出していた。

着いた場所は花々が華麗に咲き乱れる庭園だった。

そこには誰かが戦闘で残した跡が残っていた。
それを追うように探すと、一面に血の跡が残っていた。

戦った跡と、そこに残る鮮血。

意味する事は分かるが、理解が追いつかない。

「う…うそ…」

元の世界でも、この世界でも、兄は居なくなってしまったのだろう
か?

もうここには生存反応はない。誰も居ないのだ。

信じたくない。

誰がどうなっても平気だった。

だって、この世界の人間はただのゲームのNPCのような存在だから。
感情移入などしない。

だって、そうできてるから…
プレイヤーに情報だけ渡せたら、それで死んでもいい存在なのだから。

助ける意味なんてない。
だって、勝手に増殖するようにできてる存在だから。

まるでゴミのよう。
生きてれば絶対に出てくるゴミ。
そう、そんな存在なのだ。
なのに…ゴミのくせに…私の大事な者を奪うなんて許せない。

イリアにとってたった一つの大事な存在。
それが今のケイルなのだ。

怒りからか全身が戦慄き辺りに火の粉が降り注ぐ。
さっきまで咲き乱れていた花も枯れて、燃え尽くされていったの
だった。


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