異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

第三章

12話 魔王ネフェリー

意識が浮上しては水の中に落ちていくような感覚を味わっていた。

(ここはどこだろう…)

何か話そうにも泡だけがぷくぷくと浮かぶだけだった。

話し声が聞こえてくる。
さっきのブライブというお爺さんの声だ…

誰と話してるんだ？
さっきまで大きかった狼が足元で大人しくしている。

手加減されていた？
あれはA級じゃなくて、S級モンスター？

それは敵うはずはないじゃないか！

それでも殺す気はなかったらしい。

視界がぼやけて、再び目覚めるとネリウスの家の前だった。

母親が起き上がって、ネリウスと抱き合っていた。

治ったのか？治してくれた…のか？
魔石を届けてくれたのか？一体どこから取って来たのだろう？
いい人なのだろうか？

わからないが、治ったのならそう急ぐ必要はなさそうだった。

(そう言えば俺は…どうなったんだ？)

視線を変えようにも身体が動かない。
見えるのはブライブの視界から見える物だけだった。

小さな黒い石？
なんだそれは？

よく覗き込むとそこの中には小さな人の形をしたモノが入っている。

あまりに小さくてわからないが、中でぷくぷくと息をしている。
息をするたびに泡が漏れる。

自分が呼吸をする度に、ぷくぷく…ぷくぷく…と白い泡が出てくる。

(あれ？これってまさか…俺の身体だったり？)

牙が身体にめり込んだのを覚えている。
痛みと焼けるような熱量に意識がなくなったところまでしか覚えて
いない。

(まだ生きてる！？イリアに会えるかもしれない…！)

淡い期待を抱きながら目の前に起きていることを見守るしかなかっ
た。
場所はまた変わり、今度は城の中に変化した。
どっかに向かっている？

じっと眺める事数分、たどり着いたのはどこかの質素な部屋だった。
廊下があんなに豪華なのに、ここはまるで書類に埋もれるような有様
だった。

話を聞く限りではここはブライブの孫娘の部屋らしい。
そして、その孫娘こそがこの時代の魔王なのだ。

ネフェリー、それが魔王の名前なのか…

この人は魔王を護りたいのか…
でも、ならなんで譲ったのだろう？

この人なら、誰が勇者でも勝てないだろうに…

考えても仕方ないが、書類に埋もれている女性がまだ若く、政治面では
出来る人なのだろう。
できる人に任せたのだろうが、魔王を打ち取れば願いが叶うかも…
そんな僅かな希望が、今彼女を殺せば叶えられると思うと、不思議な感
じがした。

こうやって見ていると、どっちにも言い分があって、勇者が勝手に敵の
ように戦いに挑んで来るが、魔王からは攻めに行っていないのだ。

ただ、魔王側は防衛に徹しているだけ。
これでは、どっちが悪か分からないではないか？

城門の方から大きな破壊音が響いて来た。
まさかと思うが、イリアの仕業だろう。

早く止めなければならないのに、今、この状態では外に声すら出せない。

必死に動かそうにも、全く動かない。

(頼む、動いてくれ…イリア！通じてくれよ…俺はここにいるから…)

ふわっと視界が変わると、全く別の場所に移動していた。
もう、ここは城ではない。

ブライブとネフェリーの声が聞こえてくる。

城に戻るというブライブにネフェリーは難色を訴えていた。
しかし、押し切るようにケイルの身体の入った魔力の塊をネフェリーに
預けたのだった。

このままじゃ、イリアが危ない？
いや、ブライブさんが…危ない？

俺は今…一体、どっちを助けようと思っているのだろう…