異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第三章

15話 無限牢獄

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城は落ちて、修復も効かないくらいに壊れていた。

兵士の大部分は死に、残った少数が逃げ延びた状態だった。
ここからの再建は、かなり時間と労力がかかる。

城に修復の魔法をかけたのは先代魔王で、ブライブも知らないと言っ
ていた。

「お爺様…」

ふわっと風がどこからか白い花びらを舞い上がらせた。
ここは魔王城から、かなり離れた場所だった。

戻って行った元魔王の安否を心配しながら、一緒に持って来た書類に目
を通すのだった。

ズーン!といきなり大きな魔力が破裂するのを感じた。

コレは禁呪の類いのものだ。

「お爺様が?でも…禁呪は使った本人をも蝕むと言って使うのを禁止し
 ていたはず…」

城の地下にある倉庫には、禁呪と呼ばれる危険な魔道具が封印されてい
る。
それは、魔王だけが知っている事実でネフェリーは慌てるように庭へと
出るとワンバーンの背に乗り飛び立ったのだった。

(お爺様…無茶はしないでください…)

そんな願いも虚しく、異空間に死体と共に放置される事となっていた。



「あー、あー、あー…なんか反響もしないじゃん」

イリアは正気を取り戻すと今いる場所に戸惑っていた。

闇の中。
ただそれだけだったら良かった。
光の魔法で照らせばいいのだから。
ここでは魔法が使えないのだ。

怒りに任せて走って来たのは覚えている。
城門を突き破って…兵士を薙ぎ倒したのも…覚えている。

そして…あれ?

「どうして、ここにいるんだっけ?」

ただ何もない空間。
しかし出口らしきものは見当たらない。

「ケイルくーん、ちょっとー誰かいないの?」

声が反響しないということは、部屋でもなければ狭いわけでもなさ
そうだった。
ずっと歩き続けてみたが、壁には未だ辿り着けない。

ここがどこかもわからぬまま、彷徨うように歩く。

誰もいない。
見えない暗闇。

ここで一人…。
イリアの心に残るのはただ一人の顔だった。
今、必死で探している人物。

「イリア…」
「!!」

声が聞こえた気がした。
振り向くとソコにはただ暗闇が広がっているだけ…
その中にぽうっとわずかな灯りがともった。

「イリア…会いたかった…」
「ケイルなの?そうなの?生きてたんだね…私探したんだからね…」

抱きつくと何故か珍しく抱きしめてくれた。
こんなしっかりと抱きしめられるなんて初めてだった。

身体中動かす事もできないくらいに…
苦しい…でも、嬉しい…

『イリアーーーーーー!!』

そんな時、聞こえないはずの声がハッキリと耳に届いた。
必死に呼び覚ますようなケイルの声。
聞き間違えるはずのない、いつも恋焦がれてやまない声。

さっきまで側で抱きしめていたケイルの姿はいつのまにか顔のない
石像になっている。
身体を覆うようにびっしりと固められていて、振り解けない。

「なによ、これ!」
「聞け!ここでは魔法はつかえない、だから…」

近寄って来たケイルが触れた瞬間、あんなに堅かった石像が粉々に
砕け散った。

「帰ろう…イリア…」
「本当に、ケイルなの?」

さっきまで側にいたのが本物だと勘違いしていただけに、目の前に
現れたケイルさえ、信じきれずにいた。

「早くここから出るぞ…イリア?」
「嘘だね…助けたフリしてこんなの酷いよ…」

魔力が使えない?
だったら武器は使えるよね?

さっきまで真っ暗で何も見えなかったはずなのに、なんで彼は見えた
のか?
答えは簡単だ。
偽物だからだ。

魔力は使えなくてもわかる。
彼に宿る魔力量は、ケイルのものじゃない。
別の誰かのものだ。

なら、騙すためにここに来たのだろう。
あのジジイの手下か?
なら、殺せばいい。

イリアには、それ以外の判断がつかなかった。
腰についた袋から取り出したナイフはバフをかけなくても切れ味はいい。
今ならいける。

後ろを向いている今なら…

「イリア、実はここに来るのに協力してくれた人がいてさ~」

振り向いた瞬間、目の前の偽物の胸にナイフを突き立てた。
一瞬、驚いた顔でイリアを見つめたが…崩れ落ちるように倒れた。

「イ…リア…?」
「どうせ、偽物でしょ?私を二度も騙せると思うの?」
「イリア…聞…いて…俺は…」
「聞きたくない!早く崩れてさっきみたいに消え去ってよ!」

さっきの偽ケイルは砂のように消えてしまった。
が、今目の前にいるのは消えはしなかった。

血が滴り苦しそうにイリアに手をさしのべる。

「お願い…聞いて、イリア…圭子聞いて、コレを握りながら光りをめ
 ざし…て」

動かなくなってから、彼が差し出した丸い玉を持つと、彼方から光が
差し込んできた。
それを目指せと言ったのだろう。

コレを握っていると周りが普通にみえた。

苦しそうにする彼を見下ろすと、本物なのか偽物なのかさえ今はどうで
もいい気がして来た。

ケイルの身体を掴むと引きずるように光を目指した。
そして、たどり着いた時には、焦土と化した城跡に出たのだった。

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