異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第三章

17話 帰還

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夢中で目の前の偽物と思われるケイルを刺した。

また騙されると思ったからで、悪意があったわけではない。

さっきのように死体は消えはしなかった。
徐々に弱っていくケイルを眺めながら手の中の宝玉を握りしめてい
た。

光はだんだん弱まっている。
外に出れば魔法も使える。
もし、本当のケイルなのだとしたら…?

思いたくないけど、今はこのまま放置はできなかった。
引きずるように必死に運ぶ。

「こんなに重かったっけ?」

小さい時は簡単に抱っこできたはずなのに…
それだけの月日が経ったという事だった。

光りの先へと手を伸ばすと、宝玉が反応し吸い寄せられた。
まるで身体があちこちから引っ張られてバラバラになるような感覚。

「まさかっ…騙したのっ!」

一瞬疑ったが、次に目を覚ますとはじめに自分が壊した城の跡地へ
と出たのだった。

「ここは…外?…私…出れたの?」

一瞬喜ぼうとして見知らぬ女性が駆け寄って来たのを見た。

「おい、君!大丈夫か?君!」
「えっ…ケ…ケイル!?」

血まみれでイリアの横に倒れたままの彼に寄り添う見知らぬ女…

「あんた、誰?」
「どうしてこんな…さっきまで元気だったではないか!?」

そうだ、彼女のいう通りだった。
今、イリアの手に付着している血を見るとやっと中での出来事が理解
できた。
呼吸も浅くなっている。

このままだと本当に死んでしまう。

急いで回復をかけようとしたが魔力が練れない!!

「どうして?魔力は無尽蔵にあるんでしょ!なのに、なんでよ!!」
「それは…さっきまでいた空間に全部吸われたのだろう?彼はイリア
 を助けるといっても入って行ったんだ。君がそのイリアなのか?」

話している暇などない。
早く助けないと、ケイルが死んでしまう。

「お願い、ケイルを…彼を助けて…」

「分かってるわ。私だって彼には聞きたい事がたくさんあるもの」

ネフェリーは魔力を込めると宝玉から力を借りるようにケイルの周り
を覆い隠す。

再び小さな黒い玉の中に封じた。

「これでいいわ。身体の修復が終われば色が変わるからそこで出せば
 傷は治ってるはずよ」
「あ、あの、ありがと」
「それより、あなたは誰なの?そこの彼もだけど、いきなり何なの?」

ネフェリーは全く事情が飲み込めてないのだ。

「そうね…私は変な老人に会って戦闘になったんだけど、かなり強くっ
 てね…」
「まぁ、お爺様相手に無茶よ」
「そしたら、あのジジイ…ケイルを攫っていったのよ!最悪だわ。後を
 追ったけど庭園ぽいところで気配が消えちゃったから…そこに戦闘の
 跡と…血痕が…」

ネフェリーはなんとなく彼女が追ってきた理由がわかった気がする。
それほど彼が大事だったのだろう。

「お爺様の話だと、手違いで大怪我をさせたって言ってたわよ?それと、
 気になったんだけど~、彼って人間なの?髪もそうだけど魔力が…」
「当たり前じゃない。ケイルは人間として生まれて、私が育てたんだから」

胸を張って答えるとネフェリーは不思議な顔をした。

「あなたの子供にしては年齢近すぎない?」
「違うわよ!違わないけど…」

魔族と人間の差は肌の色とツノのある無しだった。
あとは生まれつき膨大な魔力を有しているかいないかに分類される。

人間でも貴族、王族は比較的魔力が多い方で魔法も使える。

そしてケイルは王族なのだが、血とは関係なく魔力量が少なかった。
いわゆる落ちこぼれだったのだ。
髪の色も他とは違い、銀糸に赤い瞳を持って生まれた。

これがもし庶民だったらすでに迫害対象で死んでいただろう。

しかし、王族を無闇に殺す事はできない。
イリアと出会うまで生かされ続けていたのだった。

「王族か…それでも何かおかしくないか?私にはどうにもおかしい気
 がしてならないんだ。魔力がないわけではないのだ。彼には何か別
 のものがある気がする。そう…魔力とは別のなにかが…」
「ないわよ。だって、私がずっと見てきたのよ?7歳から一緒にいて、
 もうすぐ20歳よ?」

イリアが自慢げにケイルの事を話した。

「いや、それよりも…君は一体いくつなんだ?7歳を育てたと言ったが、
 その時も、君は…」
「それなら、もういいでしょ!」
「よくない!おかしいではないか?だって…それでは…ずっと生き続け
 ているみたいな言い方…?」

人間がそんなに長く生きていられるわけはないのだ。
魔族でさえ100年が限度だ。
人間はその半分の50年というところだろう。

「まぁ、いい。ここではなんだし、場所を変えよう。別荘があるからそっ
 ちへ移動しよう」
「いいわね!」

ワイバーンが降り立つとネフェリーを背に乗せた。
が、イリアが近づくと極度に怯えてしまった。

「なぜそんなに怖がるんだ?大丈夫だぞ?」

プルプルと震えるようにネフェリーの後ろへと回り込んだ。

「すまない。ちょっと別の子を…」
「いいよ。少し魔力もらっていい?その宝玉だっけ?そこから魔力吸収で
 きれば自分で行くから」

少し考えたが、すぐにイリアに手渡した。

「ありがとう」

手に取ると何の変哲もない石だった。
だが魔力を込めようとすると微力ながら魔力が湧き起こる。

それを自分の中へと吸収した。

「ふ~。おっけ。ついてくから行っていいわよ」
「わかった。いくぞっ!」

舞い上がるワンバーンに遅れるようにしてイリアも舞い上がったのだった。
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