異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

文字の大きさ
83 / 92
第三章

19話 長い人生の旅の始まり

しおりを挟む
別荘で数日過ごすと、いきなりイリアの意識がふと別の場所に呼ばれた
気がした。

何もない真っ白な部屋。
もう、1000年以上前にこの世界に送られた時に一回だけ来た場所だった。

「ここは…」
「久しいな?人間の少女よ」
「君は…誰だっけ?」
「そのくらい覚えとれ!この小娘が!わしはこの世界の神じゃ!」
「ってか、神はいいけど、なんでお兄ちゃんまで死なせたのよ!マジで
 ありえないんだけど?」

イリアはいつのまにかこの幼女に詰め寄っていた。

「待つのじゃ!それはわしのせいではない。あやつがたまたま運がなかっ
 ただけじゃ」
「なら、さっさと不死の身体にしてよ?私だけこのまま生き続けてお兄ち
 ゃんの最後を看取るなんて絶対に嫌よ!」
「そこで提案なのじゃがのう。あやつはお前と一緒に生きて、死にたいと
 考えておる。お主はどうなんじゃ?」
「えっ……」

確かにそれも悪くはない気がした。
ずっと生き続けるよりはその方がむしろ定住できる。

「それは年を取らないのを解除してくれるの?」
「そうじゃよ?それでいいなら今からでも…」

幼女が手をかざそうとした瞬間一瞬、躊躇ってしまった。

「まずは、教えて欲しいの。ケイルは生きているの?それとも再び転生さ
 せる気?」
「もちろん、もうすでに死んでおる。身体が治っても助かる事はない」
「…そう」
「じゃが…わしの力で今のままの生を送ることも可能じゃ」

イリアの顔がパッと明るくなるのをみると、なんだか悔しい気持ちにも
なる。

(こんな娘と一緒に居たいのかのう)

「本人の希望じゃよ。今のお主と一緒に死ぬまで過ごしたいとな…」
「それって…お兄ちゃんが言ったの?」
「本人と話してみるのじゃな。もうすぐ目覚めるはずじゃ」
「う…うん」

イリアから成長を止める魔法と傷を負っても自動回復の魔法を停止した。

「これからは普通に病気にもなるし、怪我もする。無制限に沸く魔力もな
 くなるが良いのじゃな?」
「うん、それでいいよ」

ケイルがそばにいてくれればそれでいい。
もう危ない事はしない。

成長できるのなら、もう移住だって夢じゃないのだ。

バッと起き上がるとすぐにネフェリーの元へと行った。

「ケイルは?」
「はい?まだ、時間がかかると思いますが?」

そう言って取り出すと、ゆっくり色が変わって白く光出す。

「いえ、もう大丈夫そうですね」

ネフェリーが魔力を解除し、取り出すとどこにも傷はなく、体温も暖かい。
脈もドクドクと一定の流れを刻んでいた。

「い…生きてる…」
「はい、大丈夫そうですね」
「よかったぁ~。よかったよ~」

心から安堵するイリアを見て、ネフェリーも少し安心した。
殺戮兵器のように思っていただけに、ちゃんと人間の感情があるのだと実感
できたからだった。

目を覚ましたケイルに抱きつくようにしがみつくイリアに、彼はまるで親が
子を見るような視線を向けている気がした。

「イリアってその…彼とどういう関係なの?」

口にするつもりはなかったが、突然ネフェリーの口から出た言葉に本人が一
番驚いていた。

「…」

じっと見つめるイリアにケイルは微笑みながら頭を撫でた。

「家族だよ。世界でたった一人の大事な人だ…」
「それって…」
「イリア…これからもずっと一緒に居たい。この世界で俺と死ぬまで一緒に
 居てくれるか?」
「えっ…あ、うん。もちろん♪」

ケイルから聞いて初めての告白だった。
兄と慕い、そして、今度は弟として面倒をみて。
今度こそ、恋人として生きていく。

一番イリアが願っていた事でもあった。
母には悪いけど、兄が好きだ。
実の兄でも、好きな気持ちを偽るのはもうやめた。

この世界では血のつながりはない。だからこそ、あきらめたくない。

「ずっと一緒にいていいの?私で…本当にいいの?」
「あぁ、ずっと側にいたいと思うのはイリアだけなんだ。イリアの為なら命
 だって欲しくない。」
「ごめん…ごめんなさい…私のせいでケイルが…」
「大丈夫だよ、俺は生きてる。イリアを残して死にはないし、絶対にイリア
 を裏切らない。だから…ずっと」

ネフェリーの前なのを忘れて抱きしめる二人に、取り残された感を覚えて、
コホンっと一つ、咳払いをした。

「あっ、えっと…すいません。ネフェリーさんでしたよね?」
「あら?自己紹介したかしら?」
「ブライブさんが…えっと、色々と外の声が…聞こえてたので…」
「なるほど…なら話は早いわ。全部聞かせてもらってもいいかしら?」
「えぇ、少し長くなるけどいいですか?。」
「いいわ、復興には時間がかかりそうだしね」

こうしてネフェリーである、魔王の前で自分たちの事を語ったのだった。
ネフェリーは淡々と聞いていたが、神のことや勇者の事はすでに把握し
ていてもうすでに手を打っていた。

「では、勇者と戦わないんですか?」
「戦っても得はないでしょ?それに先代も…お爺様は勇者をことごとく
 葬ってきた実力があるけど、私には無理だもの。だから初めからここ
 には来れないようにするのが一番でしょ?」

にっこりと笑って答えた。
完全に策略家だった。

こんな魔王もいいのかもしれない。
平和を愛してやまない、そんな人が増えればいいのに…
家族で争わなくて済む世の中だったらどんなによかったか…
いつか、生まれた国に行ってみたい。

父や母、兄妹がどんな国にしていくのかを見届けてみたい。
兄が争いの火種になっていたが、その兄も死んで末の弟である自分は死ん
だ事になってから、もう何年も経っている。

ここからは遠いけど、いつか冒険者として訪れてみよう。
もちろんイリアと一緒に…

きっと誰も覚えていないだろうから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...