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第三章
22話 噂の冒険者
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奥のカウンター横の掲示板にはいつもながら雑に依頼書が貼られ
れていた。
「何かあるかな~~~」
「うわっ…これって殺しの依頼か?」
小声で言うケイルにイリアは頷きながら依頼を順番に見ていく。
他の地域での依頼も混ざっているが、大体はこの近くの地域での
暗殺依頼が通常だった。
情報操作や、裏工作。
レシピの盗作用の盗みなども含まれている。
「これって違法じゃ…」
「だから、そう言うのはここに集まるのよ。でも…金払いはいいし
冒険者ギルドより楽だったのよ…昔はね」
わざと昔は…と付け加えた。
今は、冒険者ギルドで名を馳せて来たので依頼料もそれなりだった。
「イリア…なんかすっごく睨まれてないか?俺ら…」
周りの視線が気になるらしい。
それもそうだろう、この場に似つかわしくない若い男女なのだ。
特にイリアは可愛く、ケイルに関しては見た目もそうだが銀糸の髪
が珍しいのだろう。
美しさで言えば、イリアに見劣りしないくらいだった。
このまま本人はダンディーな男になると思っているようだが、これ
はいつまで経っても若くて可愛い系だろうとイリアは思う。
「おい、お嬢ちゃん達はなんでここに来たんだ?迷子か?」
「がははっはっ、迷子か~!そりゃしかたね~俺がベッドに案内し
てやろうか?兄ちゃんの方もべっぴんじゃねーか?一緒に遊んで
くか?」
下卑た声がどこからともなく聞こえると、一斉に笑いが起こった。
「相手にしても無駄よ?それよりも…これは…」
イリアが一つの依頼を見つめて足を止めた。
ケイルも気づくと横に並んで同じものを覗き込んだ。
「おいおい、やめとけ、やめとけ!そんなもん無理に決まっとる。さ
っき最近調子こいてる奴が受けて行ったが、どーせ失敗するだろ…」
「漆黒の魔女様が前に王宮に忍び込んで皇子を殺してから警戒が厳し
いからな~、無理だろ?」
パレードの際でも、騎士の数が多くて近づく事すら出来ないと言って
いた。
「イリア…遠距離だったら…」
「そうね、私だったら楽に殺せるわ…」
「俺は…止めたい。こんなの許せないよ…」
「分かってるわ。本当は別の目的で来たけど、そうね。やりましょ」
「あぁ、ありがとう」
小声で話すとそのまま出て行こうとする。
もちろん、ただふらっと来て、出ていけるわけもなく。
目の前に屈強な男が立ち塞がった。
「ちょっと、邪魔なんだけど?」
「イリア…俺がやる…」
イリアの前に出るとケイルが拳を構える。
イリアがこっそりバフで底上げすると、いつもより身体が軽く感じ
る。
「おいおい、やめとけって…そんな細い腕で何ができるんだ?それ
とも~抱かれたいとかなら、歓迎するぞ?」
「黙れって…言ってるんだけど…」
一気に距離を詰めると腹に一発殴りつける。
大きな巨体が一気に壁までふっ飛ぶとめり込んでいた。
「…」
一斉に静かになると、逆にムキになった仲間がケイルに目掛けて襲い
かかって来た。
もちろん、全員が壁に埋まったわけだが…
「悪いけど…弁償はこいつらに請求してくれるよな?俺ら巻き込まれ
ただけだし?」
カウンターで見ていた男に言うと、勢いよく頷いていた。
「帰ろっか?」
「うん、そうね」
二人が帰った後は、ただその場が鎮まり返っていた。
強さとは、筋肉の量だけで強さを判断していた傭兵にとっては、さっき
の細腕から繰り出された拳が見えないだけでなく、腕力さえも未知数だ
った。
「おい、さっきの見たか?」
「なんなんだよ…あれは…」
「そう言えば聞いたことがあるぞ。最近A級冒険者になった二人組みの
話だよっ!」
「あぁ、そう言えばあったな~。いきなり現れて依頼をどんどんこなす
若い男女だろ?どっちも美男美女でとにかく強いって奴だろ?男は剣
を、女は魔法だっけ?漆黒の魔女にも負けねーくらいだって…」
「それって…漆黒の魔女だったりして?」
「まっさか~…」
「だよな~、そう言えばもう見なくなったよな?魔女の噂」
「確かに…17年くらい前になるのか?王族殺しをやってからだよな?」
「そうそう、連続で皇子を殺して、兵士も全員皆殺しだったんだろ?」
「…」
「…」
ただ、長いため息が漏れた。
生きてても、死んでてても、会いたくない相手だった。
れていた。
「何かあるかな~~~」
「うわっ…これって殺しの依頼か?」
小声で言うケイルにイリアは頷きながら依頼を順番に見ていく。
他の地域での依頼も混ざっているが、大体はこの近くの地域での
暗殺依頼が通常だった。
情報操作や、裏工作。
レシピの盗作用の盗みなども含まれている。
「これって違法じゃ…」
「だから、そう言うのはここに集まるのよ。でも…金払いはいいし
冒険者ギルドより楽だったのよ…昔はね」
わざと昔は…と付け加えた。
今は、冒険者ギルドで名を馳せて来たので依頼料もそれなりだった。
「イリア…なんかすっごく睨まれてないか?俺ら…」
周りの視線が気になるらしい。
それもそうだろう、この場に似つかわしくない若い男女なのだ。
特にイリアは可愛く、ケイルに関しては見た目もそうだが銀糸の髪
が珍しいのだろう。
美しさで言えば、イリアに見劣りしないくらいだった。
このまま本人はダンディーな男になると思っているようだが、これ
はいつまで経っても若くて可愛い系だろうとイリアは思う。
「おい、お嬢ちゃん達はなんでここに来たんだ?迷子か?」
「がははっはっ、迷子か~!そりゃしかたね~俺がベッドに案内し
てやろうか?兄ちゃんの方もべっぴんじゃねーか?一緒に遊んで
くか?」
下卑た声がどこからともなく聞こえると、一斉に笑いが起こった。
「相手にしても無駄よ?それよりも…これは…」
イリアが一つの依頼を見つめて足を止めた。
ケイルも気づくと横に並んで同じものを覗き込んだ。
「おいおい、やめとけ、やめとけ!そんなもん無理に決まっとる。さ
っき最近調子こいてる奴が受けて行ったが、どーせ失敗するだろ…」
「漆黒の魔女様が前に王宮に忍び込んで皇子を殺してから警戒が厳し
いからな~、無理だろ?」
パレードの際でも、騎士の数が多くて近づく事すら出来ないと言って
いた。
「イリア…遠距離だったら…」
「そうね、私だったら楽に殺せるわ…」
「俺は…止めたい。こんなの許せないよ…」
「分かってるわ。本当は別の目的で来たけど、そうね。やりましょ」
「あぁ、ありがとう」
小声で話すとそのまま出て行こうとする。
もちろん、ただふらっと来て、出ていけるわけもなく。
目の前に屈強な男が立ち塞がった。
「ちょっと、邪魔なんだけど?」
「イリア…俺がやる…」
イリアの前に出るとケイルが拳を構える。
イリアがこっそりバフで底上げすると、いつもより身体が軽く感じ
る。
「おいおい、やめとけって…そんな細い腕で何ができるんだ?それ
とも~抱かれたいとかなら、歓迎するぞ?」
「黙れって…言ってるんだけど…」
一気に距離を詰めると腹に一発殴りつける。
大きな巨体が一気に壁までふっ飛ぶとめり込んでいた。
「…」
一斉に静かになると、逆にムキになった仲間がケイルに目掛けて襲い
かかって来た。
もちろん、全員が壁に埋まったわけだが…
「悪いけど…弁償はこいつらに請求してくれるよな?俺ら巻き込まれ
ただけだし?」
カウンターで見ていた男に言うと、勢いよく頷いていた。
「帰ろっか?」
「うん、そうね」
二人が帰った後は、ただその場が鎮まり返っていた。
強さとは、筋肉の量だけで強さを判断していた傭兵にとっては、さっき
の細腕から繰り出された拳が見えないだけでなく、腕力さえも未知数だ
った。
「おい、さっきの見たか?」
「なんなんだよ…あれは…」
「そう言えば聞いたことがあるぞ。最近A級冒険者になった二人組みの
話だよっ!」
「あぁ、そう言えばあったな~。いきなり現れて依頼をどんどんこなす
若い男女だろ?どっちも美男美女でとにかく強いって奴だろ?男は剣
を、女は魔法だっけ?漆黒の魔女にも負けねーくらいだって…」
「それって…漆黒の魔女だったりして?」
「まっさか~…」
「だよな~、そう言えばもう見なくなったよな?魔女の噂」
「確かに…17年くらい前になるのか?王族殺しをやってからだよな?」
「そうそう、連続で皇子を殺して、兵士も全員皆殺しだったんだろ?」
「…」
「…」
ただ、長いため息が漏れた。
生きてても、死んでてても、会いたくない相手だった。
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