インキュバス君は困ってます!

秋元智也

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4話 実力をしめせ

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たまにきゅるきゅるとお腹が鳴るが、誰も気にしていない様子だった。

(本当に聴こえていないのか?)

「では、今日の本題に入ります。議題に上がった予算ですが、先程配った通り
 に決定したいと思います。多少修正は加えましたが今年はこれで良いと言う
 方はその場で立席お願いします。」

ほとんどの生徒が立ち上がる中、一人の生徒が断固として座ったままだった。

昼に恵のところにやってきた畑野裕也だった。
彼はワンダーフォーゲル部部長として今回の予算に意義を申し立てていた。

「では、他に意見がないならこのまま解散させていただきます。」

容赦ない会計の犬飼の声に畑野が手を挙げる。

「俺たちのところはここまで減らされると活動に支障をきたすので増やしてほ
 しい」

畑野の言葉に犬飼は一旦ため息を漏らすと、他の生徒たちを帰らせた。
残ったのは会長の恵と副会長の神田、そして書記の所澤は先生に呼ばれたと言
って席を外し、犬飼が仁王立ちしている。

「君たちの部活は、どんな実績を残しているんだ?」
「それは…山に登って景色を見て、肌で山を感じるのがコンセプトで…」
「それで実績に残ると思っているのかい?自己満足に部費を出す予算はないんだ
 が?それにだ、浮浪者の炊き出しや、その他のボランティアに行ってるそうじ
 ゃないか?それは部活動に範囲を超えてると指摘したはずだが?」
「それは部費が少ないので、そういう活動をしていかないと活動できないから」

犬飼は目をキツくするとメガネをクイっと上げた。

「それは、バイトをしていると取っていいのかな?では、学校に申請しているん
 だろうね?成績もさぞ優秀なのだろう?」
「それは…」

きっと、部費が足りなくて、ボランティアと言いながら多少の賃金をもらってい
たのだろう。
それは一般的には許される範囲ではあるが、ここまで露骨に言われると申請はし
ていないのだろう。
口淀む畑野を見ると流石にかわいそうに思えてくる。

「犬飼くん、少しいいかな?」
「会長、なんでしょうか?」
「もともとは、ワンダーフォーゲルとは5年前までは普通に部費が充分出ていた
 はずだけど、今回はどうしてこうなったのか聞いていいかい?」
「はい、それは5年前までは実績を残していたからです。もともと山岳部と呼ばれて
 いたのですが、山の知識検定というものがあって、合格するとやって一人前になる
 と言われています。今の部員で取ってる人はいません。」

視線を下げる畑野を見ると、知らなかったのだろうか?

「そして、これが一番大きいのですが、高校生登山競技というものがあります。先輩
 達はそこの優勝をした事があるそうです。しかし、今はエントリーすらしていない。
 夏の大会なのでもう、エントリーを始めているはずです。」
「それは…まだ慣れていない生徒がいて…」
「いつになったらなれるのですか?部員も5人というじゃないですか?そろそろ同好会
 に格下げしてもいい頃だと思っていますよ?」

厳しい犬飼の言葉に畑野は拳を握りしめて、反論の言葉を探していた。

「それは簡単に出ることはできないのかい?」

恵が畑野に聞くと、何か言い淀むと俯いてしまった。
代わりに犬飼が口を開いた。

「会長。これは4 人1組で行動します。体力、天気図の描き方や読図、山岳の行程計画書、
 装備などさまざまな項目がチェックされて、点数を競う競技なんです。なので体力もさ
 ることながら、学力、どっちも兼ね備えていなければ優勝など無理な上に、体力も全員
 歩幅を合わせて行動しなくてはならないのです。入ったばかりの一年が3人いて、しかも
 女子というではないですか?無理でしょ?」

厳しい言い方だが、あながち間違ってはいなかった。
出たくても出れないのだ。
だからといって体力のある男子を入れようにも、入ってくれないので人数が少ないのだ。
まぁ、ひとえに人気がないのだ。
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