インキュバス君は困ってます!

秋元智也

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7話 生徒は平等に

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畑野の落胆したような顔を見るのは心苦しいが、これが現実なのだ。

「今の部員の2人の女子は正式な部員じゃないんです。部活をやるに
 あたって5人以上いないと廃部になるので、席だけ置いてもらって
 いるんです。だから…大会には出てもらえないくて…」
「そうなんですね。ですが、何を言われても人数を集めるのも部長と
 しての仕事ですし、人数がいないのなら廃部にして同好会としてし
 まうのも仕方ない事です。」
「そんな事は絶対に嫌だ!先輩の意思を継いだのに…こんな…」
「なら、まだ時間はあるんです。人を探して大会にエントリーするの
 もいいかもしれないですよ?それに期限はあと一ヶ月ありますから」

恵の言う期限とは、予算が本決まりになる日の事を言っている。
それまでに人数を一人スカウトして大会にエントリーして、記録を残す。

まずはエントリーしたという実績を作れば予算も多少なりとも分け与え
る事が可能だった。
しかし、今のままでは予算がつかない。

年に5千円がやっとだった。

「磯野くんは唐揚げ好きなんですか?」
「ん~?嫌いではないけど…どうして?」
「いつもお腹空かせてるみたいだから…差し入れしたら少しは気が変わるか
 なって…」

呆れるほどの考えだった。
差し入れって…賄賂でも渡す気か?

「そんな事しても変わりませんよ!むしろマイナスです」
「そっかぁ~残念」

本気で残念そうだ。

「商店街の唐揚げ専門店の唐揚げ弁当美味しいですよ?俺は毎日食べてます」

笑いながら言うと、ハッと顔を上げた。

「賄賂は受け取りませんから!」

すぐに肩を落とす畑野に少し笑いが込み上げてきた。
最近色々悩みが多かったので、少しホッとしたのも事実だった。
それからは毎日のように畑野が話しかけてくるようになった。

もう部活のこと以外にも話すようになったせいか、周りの視線が畑野に向く
ようになった。

今日も、生徒会室のドアの前に待っている畑野に犬飼がイライラしていた。

ガラッと開けると畑野を引きずるように引っ張ってくる。

「貴方はそんなところにずっと立って、当てつけですか!」
「いや、違うけど?磯部くんが終わるの、待ってるだけだぞ?終わったら一緒
 に帰ろうぜ?」

普通に誘ってくるあたり神経が図太いらしい。

「会長は忙しいんだ。お前は人数を集めるなり、大会にエントリーするなり、や
 ることはあるだろう?今のままだと、予算は下さないからな!」
「それは探してるって。それにエントリーシートももらってきたし…」
「なら、さっさと出せよ!結果が大事なんだからな!」

厳しい言い方だが、事実だ。
畑野は平然と答えるが、余裕ぶって恵に合図を送る。
それが余計に犬飼の怒りを買っているようだった。

「お前のようなやつと会長が一緒に帰るようわけないだろう!会長に近づくな!」
「それは磯部くんが決める事だろ?」
「ええい!迷惑だって言ってるんだ!毎回付き纏うクズが!」
「犬飼くん!」

怒り心頭で言い放つ犬飼の言葉を遮るように恵の言葉が遮った。
名前を呼ばれた犬飼はすぐに振り向くと謝罪を述べ席に着いた。

「犬飼くん、悪いけど人を貶してはいけないよ。俺はみんなが平等に楽しめる学校
 生活を目指しているんだ。分かるかい?」
「はい、会長。申し訳ありません」
「うん、犬飼くんも大事な生徒だし、仲間だって思ってるけど、他の人も同じくら
 い大事だってわかってほしい」
「…はい」

声は小さいが返事だけは返すようだった。
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