インキュバス君は困ってます!

秋元智也

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8話 バイト先

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仕事をひと段落させると、外も暗くなってきていた。

「そろそろ、暗くなってきたし帰ろうか?」

会計の犬飼は大人しくなってせっせと自分の電卓を叩く。
神田は昨年の書類の山埋もれていたが、時計を見ると帰り支度を始めた。
その頃にやっと、部活を終えた所澤が現れたのだった。

「すまん、すまん。今日は柔道の方が長引いてしまってな~」
「大丈夫ですよ。そっちも大変そうですから。もうすぐ大会ですもんね?」
「そうなんだよ。最近の一年が弛んでてな~扱き直してたところだ。」
「それは大変そうですね~」

他人事に言うが、所澤は未だに恵を諦めていないようだった。

「会長も柔道部に入らないのか?俺とタメはれるのは会長くらいだぞ?」
「えぇ!会長って強いんですか?」

所澤の言葉に神田と畑野が反応する。
もちろんそれを知るのは同じクラスの連中と所澤だけだろう。
一年の合同授業で隣のクラスの所澤と組んだ事があった。
元々柔道を目的でこの高校を選んだ所澤と違って細い恵が勝てるわけがないと
思われていた。

しかし、授業でたまたま組んだ対戦相手である所澤を背負い投げで一本取った
のだ。
それから、所澤のもうアタックが始まった。
一年の時は毎日のように付き纏われ、勧誘された。
何故か、運動神経はよかったので何をやってもうまく行くし、人より強い力を
持っていた。
今、考えればインキュバスであるから…人じゃないからなのだろう。
昔からチヤホヤされて、悪い気はしないが、それでも外見しか見ていないよう
で嫌だったのを覚えている。

「昔の話ですよ。さて、帰りますか!戸締まりするので支度して下さいね」
「会長、僕がやっておきます」
「いえ、大丈夫ですよ。犬飼くんもキリがいいところで終わりにしましょう?」
「はい…」

全員が出ると鍵を持って職員室へと向かった。
下駄箱には畑野が待っていた。

「お疲れさん。磯部くんって強かったんだな?」
「たまたま偶然勝っただけです」
「へー謙遜だな~」
「そんな事は…」

ぎゅるるるるぅ~~~。

「…」
「ぷっ…腹の音だよな?磯部くんっていつもお腹空かせてるんだな?」
「いえ、これは…」
「いいよ、買い食いでもして帰るか?」
「いえ、この後バイトに行かなくてはいけないので」
「はぁ?って今もうすぐ7時だぞ?」
「はい、7時から9時までですが?」

呆れたように畑野が答えると、恵は至ってまじめに答える。
学校の近くの商店街なので9時で閉店だった。

すぐに会長が教えてオススメ唐揚げ店へ着くと、会長は手を振って別れた。
まさかと思ったが、そこでバイトしていたのだ。
畑野は会長が働く唐揚げ店で唐揚げ弁当を買うと、中に手を振って帰って
いった。
公園で弁当を平らげると満足そうに笑った。

「確かにオススメするだけあるな…美味いわ」

今も会長はそこで働いている。
畑野にもわからないが最近会長から目が離せなくなっていた。
周りの生徒が会長の話を毎日あきもせずする理由がわかった気がした。
目を合わせているだけで、ドキドキして抱きしめたくなるこの気持ちがわか
らないが理性で止める。

「俺って変態だったっけ?」

自問自答しながら帰ろうとして足を止めた。
9時には帰ると言っていたのを思い出し振り返ると来た道を戻っていくのだ
った。
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