インキュバス君は困ってます!

秋元智也

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32話 最終日 

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次の日は朝から晴天で、昨日とは偉い違いだった。
しかし足元がぬかるみ滑りやすくなっている。

「今日は最後だから気を抜かずにいくぞ。それと足元が滑りやすくなってる
 から、各自気をつけてくれ。恵くんはゆっくりでいいから足元に気をつけ
 てくれよ?」
「大丈夫だよ。みんなのペースでいいよ。」
「そんな訳には…」
「部長って優しいよね~一人に対して特にさぁ~?」
「余計な事を言ってないでテントの撤収だ!」

茶化してくる池下を牽制して片付け始める。
荷物の大きさが山歩きではネックとなる。
色々なものが入っている為、どうしてもかさどってしまうし、最低限のはずが
重さもかなりあった。

足を滑らせて捻挫でもしてしまえば、即座にそこまでとなる。
これには要注意だった。

晴れた山の空は綺麗で、休憩中に眺める事が増えた。

「綺麗だろう?山に来るといつも思うんだ。悩みなんてちっぽけな事考えてる
 とさ~自然の中では大した事でもないんだなって…」
「俺は…普通でいたかった…それだけなんだ…」
「普通だろ?俺からしたら普通の人間だと思うぞ?俺の惚れた男だからな?」

畑野はどさくさに紛れてクサイ台詞を言うとちゅっとキスをして離れて行った。

どっちがインキュバスなのかわからない。
恵が赤くなると俯くのを青山はじっと眺めていた。
何か考え、そして見なかった事にしたのだった。

審査員が後ろからついてくる中で、コース通りに歩いていく。
ペースは悪くないし、部員との間隔も空きすぎてはいない。

順調に思われた大会だったが、審査員の一言で全員に緊張が走る事となった。
審査員だけが持っている連絡手段がけたたましく音が鳴ったからだ。
すぐに出ると、何か険しい顔つきになると切った。

「君たち、ちょっと待ってくれ!」

審査員から呼び止められる事など滅多にない。
それが、突如止めたと言うことは何かアクシデントがあったのだろうかと、緊張
が走った。

「このまま道沿いに出て棄権してくれ。」
「突然どうしてですか?」
「他のグループが野生の獣に襲われたそうだ。」
「熊…ですか?」
「それは分からんが、全員が行方不明だと連絡が来て、すぐに中止する様にと
 連絡が来たんだ。君たちも早く避難するんだ」

山の中でも連絡が取れるトランシーバーを持っているのは審査員だけだった。
ここでは携帯も繋がらない。

不安げにルートを変えようとしたその時、近くで悲鳴が聞こえてきた。
青山が何か手に持ったままそちらの方へと走っていく。
荷物はその場に置かれていた。

「おい、青山!」

部長の畑野の声も聞かず走り出すので後を追うか迷う。
池下と恵、畑野は審査員の言う通りすぐにでも下山するべきなのだろうが、青山
を残していくのは気が咎める。

「俺も追います!」
「待てって、危ないだろ?」

恵に止められるが畑野は振り切り走り出す。
その後を審査員の人と一緒に池下も追う。

たどり着いた時には血まみれの学生の横に横たわる大きな黒い影と、その横に立つ
青山の姿があった。

「ばか!いきなり走り出すなよ!危ないだろう?」
「それは君達もだ!早く戻るぞ?」

息を切らせてついてきた審査員の人と引き返そうとするが、青山は一向に帰ろうと
しない。

「どうした?」
「まだ、近くにいる…」

何かがいるという青山にそれ以外の人には何もわからなかった。

「この時期はまだ冬眠中のはずなんだがな~」
「静かに!」

青山に言われて審査員の男性はむっとする。

「学生は避難と決定したんだ、早く帰るぞ!」

負けじと大声で言う。
青山にとってはそれは集中して周りを警戒していることへの当てつけにしか聞こ
えなかった。

近くの茂みはガサガサっと音を立てると何かが飛び出てきた。
青山の持っていた水晶が光ると、目に前で何かが弾けた。

ぼとぼとっと音がして足元にはベビだった物の死骸が転がった。

「うわぁァッ!!な、、、なんなんだ君は!」

審査員の男性は驚く様に腰を抜かした。
何が起きたのかさえわからない。
ただ分かるのは今起きている不思議な出来事の原因が目の前の青年だと言う事
だった。
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