サバイバルゲーム

秋元智也

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死を乗り越えて

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何が起きたのか分からずにいると自分にのしかかる温かな感触に目を覚ますと周りを見回した。
敵は倒れたまま微かに息がある程度だった。
そして優の上には香奈がうつ伏せで倒れ
かかっていた。
「おい。香奈?・・・聞こえてんのか?起きろよ!」
揺すっても目を覚まさない。
肩口からは血が流れ出ていたのか左肩から腕にかけて真っ赤に染まっていた。
爆発に巻き込まれたせいか右足も吹き飛んでいた。
もし、香奈がいなかったら優の体もただじゃ済まなかっただろう。
急ぎ回復キットを取り出して開くと、その瞬間優の体を取り巻いて傷ついた足や所々についた擦り傷が治っていった。
「何でだよ。なんで香奈の傷が治らねーんだよ。」
涙が溢れ落ちる。地面を何度も、何度も叩いた。
拳に血が滲んでもそのまま叩き続けた。
近くで呻いていた敵も今は息を引き取り、静かになった。
「香奈の傷を治せよ!」
香奈の持っている回復キットを香奈の方に向けて開く。
しかし、治っていくのは優の叩き付けた手の傷だけだった。
「ちくしょー、なんでだよ。」
『あんたさ、後悔する暇があったら周りを警戒しなさいよ。死んだら終わりなのよ』
無線から流れる紗耶香の声が、嫌に煩く感じた。
「うるさい。うるさい。うるさい。・・・俺の・・せい・なんだ。何やってんだよ、全く。バカだよ・・・ホントに」
『・・・わかってんなら、考えなさいよ。自分がしなきゃならない事を。じゃなきゃムダ死にね?』
「わかってんだよ!言われなくたって!」
言われなくたって、一番痛感している。
近くに居てくれた人が冷たくなっていく事に対しての恐怖は優が今、一番実感しているのだ。
香奈の持っていたAK47を構えると崖下に落ちた車に乗っている死体の頭目掛けて撃ちはなった。
ドゥン。
反動も結構あった。当たったのは車体の上部。
「こんなので当ててたのかよ!」
紗耶香は上から優を見ていたが、暫く放置しておく事にした。


「全員沈黙した。」
澪からの連絡を受けて美弥はベランダから飛び降りた時に負ったダメージを回復していた。
「御苦労様。油断はしないでね。」
「了解だ」
戦いながらも無線から流れる会話は聞こえていた。
じっと回復を待っているのがもどかしい位だった。
下は澪に任せて崖の上に走って行きたかった。
しかし、今からじゃとても間に合わなかった。
「私がもっと上手く飛び降りれていれば、すぐにでも駆けつけれたのに・・・」
ぼそっと溢した言葉は本音だろう。
そう思いながら上を見上げた。その目には微かに涙が滲む。
すると、そこで何処かからか視線を感じた。
「一体どこから?」
ここには自分達しかいないはず。しかし、殺気の籠った視線は敵としか思えなかった。
「紗耶香、そこから誰か見えない?」
『いや、誰も来てないよ。・・・いや、また下から3人お出ましだ』
「そう、わかったわ」
まだいまだに感じる視線の正体がわからぬまま、近づいて来ている敵に備える事にした。
今だに裏の崖では銃声が聞こえていた。練習で優が撃っているらしい。
そう簡単に扱える物ではない。サブマシンがンなら撃ちまくれば当たるのだが単発のライフルは一発、一発で薬莢を取り出してまた構え直す為、隙が大きくよっぱど慣れないと使いこなせない。
香奈だって紗耶香ほどの腕はない。
「まずは集中しなきゃ」
美弥はそのまま、建物を迂回して回り込むと壁際で待機した。
今、優のいる崖の方には回り込ませる積もりはいっさいなかった。
「ここで仕留めるわ。澪、援護よろしく」
「あぁ、わかっているこれ以上先には行かせたく無いんだろう?」
「うん。ここで終わらせるわ」
頷くと建物の窓からこっそりと澪が顔を覗かせた。
敵は匍匐前進で進んできている。その為動きがゆっくりなのだ。
じっと射程範囲に入るまで待つ。
そこでまたもや紗耶香の声が届く。
『そのさらに後ろに2人来てる。前の3人はまだ、後ろには気づいていないかな?どうする?』
「まだ待って。後ろは気づいてるわ。攻撃を仕掛けるまで待っていましょう?」
「了解」
美弥も澪も姿を見せないように隠れた。先程までドンパチやっていたのだから居るのはバレている。
しかし、今は後ろの崖で銃声が響いているのでそちらに注意がいっているはずであった。
「たまには役にたつじゃん」
紗耶香と澪が同時に呟いた。
前の敵は美弥の隠れている方へと進路を変えていた。


その頃優はやっと何発目になるかわからないが一発だけ死体の頭に命中させていた。
「よっしゃー。やったぜ。」
切っていた無線を入れると紗耶香達の会話が聞こえた。
内容からすると下の二人は、優の方には回り込ませないようにしている。
「俺は守られてるだけかよ。冗談じゃねー」
崖から降りて中腹の突き出している所に降りると香奈の持っていたAK47を構えた。
「匍匐前進で進んでいる3人と後ろの2人だったな?」
前を前進する3人のうちの一人に狙いを定める。
まだ一発しか当たった試しはない。
だが、「絶対に当てる。香奈を死なせちまった俺の出した答えだ!」
ドゥン。ガチャン。
背中に命中。しかし、致命傷にならず。
ドゥン。ガチャン。
脇腹の横を掠めた。
「まだまだだ。まだ行けるはずだ。」
段々と集中していく。銃声が段々と小さく感じた。
今は音が遮断されたかのように静かに感じられる。
ドゥン。ガチャン。
頭に命中。一人殺ったのだ。しかし、浮かれて要られない。
まだ残り2人対2人が残っていた。
崖側にいることに気づいたのかさっきから優の方に弾丸が飛んで来ていた。
頬の上、目の下を一筋の弾丸が掠めていった。
「あっぶねー。」
だが、優は距離があるせいで当たらない、とたかをくくっていたがたまに飛んでくる所を見るとおちおち安心もしていられなかった。
「死んだって構わねーよ。その分巻き添えを連れていってやるよ!」
無線を切り忘れていた優の声が皆に聞こえているとは思っても見なかった。
『だったら死ぬ気で撃ち続けなさいよ!』
「!!」
いきなりの紗耶香の声で開きっぱなしだった無線に手をかけた。
「まさかっ・・・」
「聞こえているぞ、私たちもいるんだ。一気に反撃といこうか?」
口火を切ったのは澪だった。それに続くように美弥の指示が飛ぶ。
「優くんはそのまま、前のグループを攻撃。私と澪は後ろから来ているグループを先に撃破後に前を叩く。」
「了解だ」
「わかった」
「紗耶香は警戒に集中。残りまだ見ていない1人を探して」
「わかってるよ。」
「皆、生きて帰ろう!優くんもし危険だと思ったらすぐに隠れて回復を使って!」
「大丈夫だって!」
もう、回復は持っていない。
しかし、今そんな事は言っていられない。自信たっぷりに答えるしかなかった。
優のつたない銃撃は続く中、痺れを切らした仲間が一気に起き上がり走り出すと、後ろから銃弾が飛んできていた。
「&%\#$Θβ」
わからない言葉を発しながら前後に挟まれながら残り2人も絶命した。その頃には後ろで撃っていた2人の正確な位置が掴めた美弥と澪の正確な射撃の前では敵もかなわなかった。
これで生存者は残る所5人となった。
優は起き上がるとマップを開こうと立ち上がろうとして初めて気づいたのだ。
自分が撃たれていた事に・・・回復キットは使いきってしまっていた。
今度は無線を切ってから傷口を確かめた。





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