あいつは悪魔王子!~悪魔王子召喚!?追いかけ鬼をやっつけろ!~ 

とらんぽりんまる

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新月の夜大作戦! 少女VS追いかけ鬼

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 楽しい阿鼻叫喚あびきょうかんの肝だめしも終わった。

 みんなで校庭の焚き火を見ながら、歌を歌った。

 テレビの取材も来て、ラーがマイクで何か喋っていた。

 閉会式も終わって、下校が始まる。
 
 もうすっかり暗いので、保護者付き添いでグループになっての下校だ。
 それぞれ帰りの住所で集まり、並んで帰る。
 
「みんな。天使の加護を外してポケットにでも入れておいて、そして見える胸元に悪魔バッジを着けて」

 こっそり麻那人が言って、みんな悪魔バッジを着けた。

 下校のグループに、光達はいない。
 でも人数を確認した先生も、誰も気付かない。

 下校グループにみんながいると思って、家にいる家族も帰ってきたと思い込む。
 不思議だけど、麻那人をみんな信じていた。
 
 魔術クラブは一度、裏庭に向かう。
 みんなの胸元の悪魔バッジが、キラッと光る。

「さぁ、みんな。これから、いよいよ計画が始まるよ」

 麻那人が言う。
 足元には鍋に入ったスライムや、色んな道具が用意してあった。
 
「頑張ろうね……!」

 光の言葉に、みんな頷いた。

「みんなお腹が減ってるよね? 僕の作ったクッキー食べて」

「え? 麻那人がクッキー作ったのかよ」

 空太が驚いた顔をする。

「そうだよ」

 みんなに、麻那人がクッキーを配った。
 大きな悪魔の形のクッキーを、一つずつ。
 
「わぁ美味しそう! 麻那人君のクッキーだなんて嬉しい!」

 ラーが喜ぶ。
 
「結構お腹空いてたから、うれしい~ありがと!」

 三時のおやつに、菓子パンが配られたけど、それ以外は何も食べていなかった。
 みんな、お腹がグーッとなって笑う。
 リィは早速パクリ。

「悪魔の形? ふふ、可愛い。ありがとう麻那人君」

「うん、お礼だよ。みんなありがとう」

 お別れのお礼? と光は思ってしまうけど、何も言えない。

 麻那人の言葉を深く考えた子は、誰もいないみたいだ。

 みんなでサクサク悪魔クッキーを食べる。
 甘くて美味しい。
 バターの良い風味がする。

 さくさくぱりぱり、ごっくん。
 
「美味しい……!」

 優しい味だ。
 なんだか身体に力が湧いてくるような気がした。

「(気のせいかな……?)」
 
「あーなんかこれ食ったら、めっちゃ良いシュートが打てそうな気がしてきたぜ!!」

「わかる! 私もめっちゃ走れそう!」

 ワイワイと空太とリィが盛り上がる。

 どうやら光の勘違いではなさそうだ。

「(パワーアップクッキー?)」

 麻那人を見ると、ウインクで返事をされた。

 今日の夜は新月。
 暗い、暗い夜。

 真っ暗な校舎を見て、少しだけみんな怖くなる。
 なんだか嫌な肌をぬるりとする風が吹く。

 ザボが裏山のどこかから、見てる……光は思った。
 
 沢山の子ども達が、夜の学校で楽しみとはいえ恐怖の叫びをあげていたのだ。
 
 ザボは喉から手が出る思いで、ずっと見ていたに違いない。

 そして一番に喰いたい光を見つけたら、食い入るようにヨダレを流して見ているに違いない。

 今までは怖かった。
 でも今からは、ザボを退治する作戦が始まるんだ!

 光はザボの前に釣り糸を垂らすように『私はここだよ!』と強く裏山を睨んだ。

「じゃあ、みんなスタンバイして。離れていて怖くなってもこのバッジで話ができるから」

「これで本当に?『おーい俺だー』まじだ……すっげー」

 空太の声が、みんなのバッジから聞こえる。
 
「みんな! 絶対に追いかけ鬼と、犯人悪魔を退治するよ!」

 光の声に、みんなそれぞれ顔を見合う。
 そして円陣を組んで『おー!』と気合いを入れた。
 
 ◇◇◇

 真っ暗な新月の夜……静けさが学校を包む。

 明るい昼間に、子ども達が元気に勉強する学校とは、まるで違った姿だ。
 
 いつもの教室が、ガランとして……なんだか不気味に見えてくる。

 肝だめしで用意されたお化け達が、風もないのにユラユラと動いているように見える。
 
 大人も子どももいない……誰もいないはずの校舎。
 
「追いかけられたら最後だよ♪

 逃げて走ってどこまでも♪

 追いつかれたら食べられる♪

 骨も残さず食べられる♪

 追いかけ鬼に見つかれば♪

 最後死ぬまで追いかけらーれる♪」

 麻那人の歌声。

 百葉箱の横に立っているのは麻那人だ。

 そして、かがんで百葉箱の下の部分の魔法陣を見つめた。

 麻那人が手を伸ばすと、ビリリっと魔法陣は麻那人の指先を拒絶する。

 それでも力任せに麻那人は手を突っ込むと、何かが弾けるような音がした。

 かまわずに、魔法陣の真ん中のあった水晶を取り外した。

 空気が一瞬で変わった。

 ピシッと空気に、亀裂が走ったように光は感じた。

 この暗闇のなかで、猛獣との間にあった柵がなくなってしまうような。

 確かに結界がなくなったのだ。



 ……追いかけ鬼がくる……。



 校舎の最上階・五階。

 裏山からも見えるであろう、廊下。

 暗い廊下を、体育着を着た女の子が一人歩いている。

 美味しそうな香り……。
 腹の立つ香り……。
 食べてしまいたい……人間の香り。

「追いかけられたら最後だよ♪

 逃げて走ってどこまでも♪

 追いつかれたら食べられる♪

 骨も残さず食べられる♪

 追いかけ鬼に見つかれば♪

 最後死ぬまで追いかけらーれる♪」

 光の歌声。

 ゆっくりと廊下を歩く女の子。

 その後ろに不気味な影が、スーーッと伸びる。

 黒くて長かった影は、ぐるぐると円を描くように巻き始める。
 まるでブラックホールのように……。
 
 そしてそこから、まずはギョロリとした二つの目、険しい眉毛に大きな鼻の穴。
 最後に牙がびっしり生えた大きな大きな口。
 
 腐ったような臭いを撒き散らし、よだれを撒き散らす。

『ぎょうごそぉおお、ぐってやるぞぉおおおおおお』
 
 『今日こそ喰ってやる』と追いかけ鬼は言った。

 子ども達の恐怖を今まで吸収してきた。

 今までで一番巨大だ!
 更に人間を一人でも食えば、ザボは力を完全に取り戻すだろう。

「ひぃ!!」

 悲鳴はどうにか押し殺して、女の子は走り出した。
 追いかけ鬼も、顔を引きずるようにして一気に加速する。

『までぇえええええ!』

 普段は走ってはいけない廊下を走る! 走る!

 まさに鬼の形相の追いかけ鬼が一口で飲み込もうとするが、ガチン! ガチン! と空振りして噛み付く事ができない!

 追いかけ鬼も理解できない。
 どうしても追いつけない!

「すごい! あたし! これなら大会でも一等賞だよ!」

 一瞬、非常口の明かりに照らされた女の子の顔はリィだ!

 リィが光の体操着を着て走っていた。
 光の体操着はリィの体格だと小さくて、ピチピチだけど構わず走る!

 リィの走りで、展示物のポスターが揺れる。
 
 ガッチン! ガッチン!
 後ろで歯の音が聞こえて、光とラーが言っていた臭い匂いが背後にまで近づいてきた。

「ひぇええええ! そろそろ限界だってば! あたしもぉ!」

 リィが陸上部代表の足で、更に廊下を駆け抜ける。
 そしてルルが描いた目印を見て、ジャンプ!

『までぇええええ!!』

 顔を引きずらせながら走ってくる追いかけ鬼。
 リィがジャンプした足元には、特製スライムが大量に#ステイ_・__#されていたのだ。

『ぼぐわあわぁああ!?』 
 
 ぬるぬるスライムに足(顔)をとられて、追いかけ鬼はゴロゴロと転がった。

 さっきまで追いかけていたリィの姿は、もうない。
 しかし追いかけ鬼はそんな事で泣いて消えたりはしない。

『ぼがかああぁあああああ!!』
 
 更に怒りの叫び声をあげて、牙を剥き出した。
 かすかに残る匂いで、階段を降りていった事が追いかけ鬼にはわかった。
 追いかけ鬼は、スライムまみれのまま獲物を追いかけようとする。

「おい! 次は俺が相手だぜ!!」

 しかし、そこに空太が隠れていた教室から飛び出した!

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