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デス・ゲーム3日目 ソフィアという名前

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 優笑は眠れたのか眠れないのか、わからないまま目が醒める。

「あれは……なんだったの……? ……夢……?」

 夜中にソフィアと叫んでしまった事は覚えている。
 誘拐事件の時の……混乱した記憶?

 明確には思い出せないが、女の人がソフィアという名前だった……。

 優笑は制服に着替えて食堂へ向かう。

 制服で朝食に出ればすぐに出掛けることが優楽に伝わるかと思っての行動だったが、驚いた事に優楽も同じように制服を着ていた。

 双子の通じ合う心を感じる。

 お互いに目配せをしてタブレットに外出時間を記入した。
 タブレットは当然、手元を隠され周りからは見ることはできないがきっと優楽は自分を追って来てくれるだろう。
 朝食を食べてすぐに寮から出る予定だ。

 スズメと絹枝と歩美は体育着だったが、制服姿の二人を見て気付いただろうか。

 蝶子は朝食にいなかった。
 元々、昼から登校するような彼女のことだ。
 余裕もできて眠っているのかもしれない。

 何故だろう、制服を着ているからか皆からの視線を感じるような気がするが……気のせいか。

「……ソフィア……」

 空耳か、誰かがの呟きが聞こえた気がした。
 シスター麗奈のお祈りを聞く、彼女はどんな気持ちで信者を食べたのだろう……。
 真莉愛はイライラしながらクロワッサンを噛み千切っていた。

 【天乃優笑、時間です。玄関から……出なさい】

 朝食は半分で食べ終え、すぐに寮を出る。
 優楽もきっとすぐに出てくるはずだ。

 少しゆっくりと林を進んでいると、優楽が追いかけてきた。
 この世で一番安心する、大切な妹。

「優笑ちゃん……!」

「優楽!!」

 抱きついてきた優楽を優笑は抱きしめる。
 二人で警戒しつつ、まだ涼しい朝の林を歩いて行く。

「ねぇ優笑ちゃん……」

「なぁに」

「昨日のソフイアってさ」

 ドキッとした。

「ソフィアって人の名前じゃないかな……?」

「ど、どうして……?」

「わからないけど、夜中に頭に響いたの。ソフィア! って飛び起きてドキドキしながら何かと思ったけど……あぁソフィアって名前なんだってわかった」

「ソフィア! って……?」

「うん、それだけが頭にね」

「他には……?」

「それだけ! ソフィア! ってバシッ! って目が醒めた……もしかして優笑ちゃんも?」

 優笑の夢は名前が浮かぶ前に……会話をした気がする。
 何度も考えるが、あれは誘拐事件の時の記憶……?

 でもあの誘拐事件の事を話すと優楽が不安定になってしまうと思い、やめた。
 いつも一緒にいる半身のような存在の優笑が誘拐され、優楽は事実を隠されながらも異変に気付きパニックになったという。
 事件が終わってからも二人でカウンセリングを受けた。
 しばらく優楽は優笑の行く先はどこでも、トイレにもべったり着いてきた。

 
 どうして自分の誘拐事件にいたかもしれない女性の名前と優楽の頭に響いた名前が一致するんだろうか。
 わからない事だらけだ。
 
「優笑ちゃん?」

「あ、ごめん。ううん、私はよくわからない……でもうなされて寝不足」

「……怖いよね……蝶子がレベル4とか……もう剣レベルで殺せるならすぐにでも全員殺されちゃうよ」

「……だ、大丈夫だよ……」

 何が大丈夫なのかわからないけどお互い安心するために言った。
 この木が生い茂った林の中で蝶子に襲われればすぐに殺されてしまうだろう。

「そういえばさ……優楽」

「ん?」

「おばあちゃんの家に行った事あったよねぇ……夏にね」

「あー……うん……」

 いつも元気に答えてくれる優楽が、歯切れの悪い答えだ。

「おばあちゃんの田舎の家の周りも林とか山とかいっぱいだったよね」

「……うん……」

 誘拐事件から、ずっと外で遊んではいけないと言われていたのに。
 突然小学校1年生の夏休みに、祖母のいる田舎の山へ旅行に行ける事になった。

 楽しい思い出。

「楽しかったよね」

「うん」

「でも、あんまり覚えてないや、私って忘れっぽいよね」 

 あぁ、どうしてこんな事を思い出したのだろう?
 林の中を歩いたからだろうか。

「優笑ちゃん。早く、小屋に行こう!」

「あ、そうだね。うん!」

 二人は小屋へと急ぎ、身を隠した。
 はぁーと一緒に長い息を吐く。

 小屋と行っても床は土だし、周りの板もスカスカの擬態小屋。
 それでもありがたい。大切な小屋だ。

「はぁ……やっぱり外を歩くだけで怖いよ」

「うん。此処にいると安心する……」

「優笑ちゃん、ご飯半分だけだったでしょ。ほら」

 クロワッサンを二個。リュックから取り出した優楽。

「えー優楽、隠して持ってきたの~~!?」

「えへへ、ブレザーだったからヒュッと隠しちゃった。一緒に食べよ」

「優楽……ありがとう」

 古い木材とカビ臭い小屋の中は、美味しい食事スポットではないが優楽と話をしながら食べるクロワッサンは久しぶりに味がした。

 すると匂いを嗅ぎつけたのかネズミがまた現れた。

「あ、ネズリン~~おいでおいで」

「ちょっと、優楽」

「いーじゃん、あの人いないし。お食べ~~ネズリン。よしよし」

「もう、みんなで協力しないといけないんだから……」

「可愛いペットだよぉ、よちよち」

 まぁ今はルルもいないし、少しの時間くらい優楽の好きにさせようとネズミと遊ぶ姿を見守った。
 その後にスズメ、絹枝とルルが合流する。
 
「……昨日見た、あのメモ書きのソフイアって、ソフィアという名前じゃないかしら?」

 絹枝までが、そう言った。

  
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