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デス・ゲーム3日目 女王蝶子の朝食・狂犬真莉愛
しおりを挟むレベル4になった蝶子は、まるで女王のようにゆっくりと朝食を楽しんでいる。
蝶子の仲間二人は、朝からずっと食堂で待っていたのだ。
クロワッサンを千切って口に入れ、カフェオレを飲む。
『もうすぐ片付け。早く食べてね、早く食べろよ~~~』
三人の周りを配膳猫ロボットがウロウロしている。
蝶子は時間までゆっくり食堂で過ごし、寮からはサポートも利用せずに玄関を出た。
「蝶子さぁ……ちょっと遅いよ」
やっと話す事ができたと二人から文句が出る。
「なにイライラしてんの? 昨日の夜に2時間、外にいたんだから時間まだ大丈夫だしー?」
「う、うちら、朝から起きてもう……ずっと待ってたんだよ」
「あ~? ギリまで寝る言ってたし、なんなん?」
睨まれビクッとする薫と留梨子。
留梨子はコンシーラーで隠してはいるが目の下の隈がひどい。
「やー蝶子、うちらはレベル1だしさ……だから」
「レベル1とかウケるわ。ほんっと雑魚いよね」
その言葉に二人がピクンと反応する。
「今日もさ~狩りするけど、あたしに寄越しなよ? 獲物」
「「えっ……」」
「当然じゃん? 安心できてるの誰のおかげ~?」
「や……でもうちらもさぁ」
「うん、ちょっとはレベルを……」
「文句ある? なら一人になるか、真莉愛んとこでも行けば? ねぇ? 薫? 留梨子?」
冷たい目で見られ、薫と留梨子はゴクリ唾を飲む。
「……うちは……蝶子が最高だと思ってるからさぁ……」
「やー……まじ、うん。だよね」
誤魔化すように薫が笑う。
釣られたように留梨子も笑った。
二人共、もう真っ黒のアイライナーが滲み始めている。
「うん、知ってるって~じゃあ行こうか」
蝶子が笑ったのを見て二人はホッとする。
とりあえず機嫌は直ったようだ。
「今日はどこ行くの?」
「うーん、まぁウロウロして~林で狩りして迷路でも遊ぶ感じ~?」
「じゃあ礼拝堂は?」
「礼拝堂~?」
「シスター聖奈達は絶対にあそこにいると思うんだよね」
「んーいつかは食べてやるけどさ……今はいいわ……」
珍しく蝶子が気乗りしない返事をする。
「なんで?」
「あたしのおばあちゃんが、あれのめっちゃ信者でさ。なんか神の力がある~とか写真見せられて聞いてたんだわ。だから~あの女食べるのちょっと気持ち悪い」
そう言うと蝶子は血のナイフをくるくる回しながら歩き始めた。
◇◇◇
蝶子とは対象的に、真莉愛は朝から猛り島のなかを獲物を探し荒らしまくっていた。
林はもちろん、図書館も行った。
鍵がかかっているのでガラスを割って入ったが、誰もいない。
イラついて真莉愛は閲覧用の椅子を本棚にぶつけた。
手下二人、奈央と舞子は真莉愛の荒ぶりに恐怖しながらも何も言わずに後をついていく。
「なぁー! あの聖女はどこにいると思う?」
「シ、シスター聖奈ですか?」
「それに決まってんだろうが!」
「あ、あの……あたしは礼拝堂にいるんじゃないかなって思うんですが……」
「礼拝堂? どこだ案内しろ」
「あ、えっと……」
急に言われ、地図が頭にあっても混乱してしまう。
すぐに端末を見るが慌ててしまう。
「早くしろよ!!」
「あ、あっち! です!」
二人は大慌てで林の方を差す。
自分では何も覚える気のない真莉愛は文句を言いながら棒を振り回し歩いて行く。
ヒソヒソと会議中の優笑達がいる林を、真莉愛達は歩いていたのだった。
「今日は本当に誰もいねぇ……」
蝶子がレベル4だと知らされた時のあの絶望感。
ふざけるな! とマリアは思ったが捕食される側の怯えなどではない。
単純に負けた事が悔しかっただけだ。
レベル4だと?
自分はレベル3だ。
だけど焦る事はない。
目の前を歩く、たまにニヤニヤとこちらを見て愛想笑いをするしか脳のないゴミクズを食えばいつでも追いつける。
「あは……林を抜けたら、礼拝堂が遠くても見えるはずですよ……」
でも、まだ食うには早い。
脳みそを使うのは苦手だが、それくらいはわかる……真莉愛はそう思いながら口に噛んでいた草をブッと吐き出した。
生い茂った林を抜けると、そこは草原。
遠くに……研究所だろう近代的なコンクリの建物が見える。
その手前には森がある。研究所を守る壁になるだろう。
そして草原には右手にだだ広い樹木の迷路とイングリッシュガーデン。
そして、左の海側には崩れかけた礼拝堂が見えた。
草原を海風なのか、爽やかな風が撫でていた。
恐怖に怯えていた手下二人も、イラついていた真莉愛も深呼吸をしてしまうほど爽やかだった。
「礼拝堂の奥は崖なんすかね……」
近づいていくと、確かに礼拝堂が建っている地面が切り取られたように見える。
もっと近寄ると柵が見えた。
「……こんなところに来るやつは相当な馬鹿だな」
真莉愛は笑う。
礼拝堂にいて襲われれば、後ろは崖。逃げるといっても見晴らしのいい草原。
誰も逃げられない……逃さない……。
「全部喰ってやる……」
奈央と舞子は真莉愛の鬼の形相を見て涙を滲ませる。
今まで、どんな悪い事も真莉愛と楽しんできた二人だった。
真莉愛と共にいることで、周りからは一目置かれる。
でもそれは学園内での、ただの青春の1ページの話のはずだった。
お嬢様学校で不良なんて面白い思い出を作るくらいの気持ちだったのだ。
それがこんな事になっては……グループを抜けるなんて事は真莉愛が許さないだろう。
しかし獲物を独り占めして、ズルいと思っても人間を殺すなんて……できない。
「さぁ行くよ……おい、お前がドアを開けろ」
聖女と呼ばれる女も喰い殺す。
信者も全員、今から喰い殺すんだ……。
崖から落ちてしまいそうな目眩を感じながら舞子はまだ形の残っていた礼拝堂の木のドアをゆっくりと開ける……。
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