吸血姫デスゲーム×バトルロワイヤル～突然吸血鬼にされた女生徒３２名が一人になるまで殺し合う……蠱毒な戦い～

デス・ゲーム 4日目 思い出された優笑の記憶

　突然の絹枝からの激しい愛。
　恐ろしくなった優笑は小屋を飛び出して、走り出した。
　誰か後ろから追いかけてくる気配も感じて、更に更に走った。
　
「はぁ……はぁ……こ、ここ……？」

　優笑は寮に向かって走っていると思い込んでいたのに、目の前にあったのは公園だった。
　まだ夜。
　もう一度林を抜けて、寮へ戻る……？

　恐怖と一気に走った事で……心臓はバクバクで足もガクガク。
　手も震えている。

　巨大な樹木の迷路があると聞いていたが、優笑には綺麗なイングリッシュガーデンが暗闇のなか見えた。
　この先に迷路はあるのかもしれない。

　優笑はゆっくりと夜でも閉じない花たちが綺麗な庭に近づいていく。
　涙を拭い、呼吸を整えながら隠れる場所を探す。

　庭仕事の用具を入れる小屋を見つけた。
　昼間ならば見つかってしまうかもしれないが、夜中であれば大丈夫か……。
　行方不明者がいるかもしれないと思いながら、恐る恐る開けたが誰もいなかった。

　すぐにその小屋に入り込み、スコップで開かないようにする。
　このスコップも武器にできるかもしれない……こんな風に考えるようになってしまった。

「うぅ……」

　絹枝にされた事を思い出し、また身体が震え小屋のすみっこに座り込んだ。
　もっと早く拒絶しなければいけなかったのに、動けなかった……。

　唇をゴシゴシと拭く。
　初めてのキス。
　男性とは全く関わりがなかったが、夢見た事がないわけではない。
　こんな状況で、こんなキス。
　悲しくて辛くて、また泣いてしまう。

　そしてこの暗い小屋。
　
「この小屋……あそこに似てる……」

　優笑の脳裏に浮かぶ。
　真っ暗なトタン屋根の天井。
　大きさは何倍もある工場の跡地のようだったが、誘拐された優笑はそこに監禁されたのだ。

　金の受け渡しが失敗に終わった。
　この隠れ家の居場所もバレそうだと、犯人の男達が揉めだし騒ぎ出し恐ろしかったのを覚えている。

「いやだ……」

　思い出したくない……。
　そう思っているけれど、思い出さなければいけない気もする。

　ドクンと心臓が鳴る。

　そう……役立たずと何度も罵られ、最後に男にナイフで腹を刺された。
　もういらない人質は始末された、殺された。

　熱い、熱い……傷跡が熱くて、流れて出ていく血が生ぬるく。
　逆に身体は冷えて寒い……眠い……。

　目も開けていられなくなった時、誰かが自分の頬を撫でた。
　そっと、さるぐつわと縛られたロープが外される。

「……あなたの名前は……？」

「……だれ……」

　また犯人が帰ってきたのかと、優笑は恐怖に怯えたが小さい体は抱きしめられた。

「可哀想に……私はソフィア……」

「……ソフィア……？」

「そう……貴女を助けてあげたい……」

「……助けて……」

「名前は……？」

「ゆえ……」

　死にたくなかった……。
　優しいママとパパ、そして大切な双子の妹に、優楽に会いたい……。

「ゆえ……」

　そっと抱きしめられて、温かくなったのを思い出した。
　
　そして彼女が光のように消えていくのを見た気がする……。

　ソフィア……。
　私は確かにソフィアという女性に助けられた！！

　あの人が吸血姫ソフィア……？
　
　でも、まだ何か思い出せない事があるような気がした。

　彼女とはもっともっと、話をした気がする。
　契約が……なんとか……言っていた気がする。

　思い出したい……。

「痛い……」

　頭がズキリと痛んで思い出せない。
　だけど、あの人はソフィア。
　やっぱり、私はあの人に助けられたんだ。
　
　優笑は夜明けを待ちながら、小屋で自分の身体を温めるように縮こまった。