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デス・ゲーム6日目 バーサーカー1人目の被害者

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 バーサーカーと共に遊園地に隔離された少女達。
 強気な優楽とスズメ。
 戸惑いながら二人についていく優笑。

 その時、遊園地の中央辺りからか叫び声が聞こえた。

「なに!?」

「バーサーカーじゃない!?」

「隠れながら行こう!」

 優笑達、三人は走り出す。
 
「なんかさ、吸血鬼になったからなのか身体も軽いし! 前よりすごく早く動ける感じがするよ」

 優楽は軽やかに走っている。
 優笑も息切れしない事を実感しているがレベル5の優楽はそれ以上だろう。
 右手にはもう血の剣を携えている。

「優楽……無理しないで」

「今は無理しなきゃ!」

 叫び声が聞こえた先。
 三人は走って、そこに辿り着いた。

 真莉愛達もバーサーカーを討ちにきたのか、立っている。
 いや、立ち尽くしている。

 真ん中に、異様な姿の化け物が立っていた。
 着ている服は制服だ……。

 あれが……バーサーカー……。

 


 髪がバサバサに伸びて前髪も伸びて表情は見えない。
 でもこいつは危険だ……。
 なぜなら、そいつが抱えているのは……聖奈の信者の一人だ。

「ぎゃああ……ああがか……ぐああ……ぎぃ……聖……奈さまぁ……」

 バーサーカーは女生徒を後ろから抱きしめるようにして首に噛みついている。
 力が強すぎるか両腕で抱きしめた上半身は変に折れ曲がり、首元からは大量に血が吹き出している。

 しかも女生徒は灰にはならず……苦痛の叫びを漏らし喰われ続けていた。

「私をかばって……あぁ神よ……!」

「聖奈様! 早く逃げましょう!」

 聖奈をかばって掴まったんだろう……しかし信者二人が聖奈を守るようにして祈る彼女を無理やり連れて行く。

 ぐちゃ……ぐちゃ……ぺちゃ……っひぃいい……ぼきごき……ぐちゃ……

 夢中で首に噛みつき食べる咀嚼音、また骨が折れる音……そして死に絶える前の苦痛の悲鳴……。

「うぐあぁっ! ぎゃあ!」

「うっ……げはっ」

 真莉愛の手下がヨロヨロと座り込んで嘔吐する。
 
 じゅるじゅるじゅるーーーーー!!!

 バーサーカーは最後は一気に吸い込むかのように食べ終える。
 被害者の身体は……干からびたミイラのようにボロボロと崩れ落ちた。
 その干からびた時の顔が目と口が真っ黒で縦に伸び、あまりにも恐ろしい形相だったのだ。

 優笑達も真莉愛達も動けない。

 そしてバーサーカーはギロリと赤い目と牙だらけの口を開けて咆哮した。
 前髪も長髪も一気に後ろに流れて恐ろしい化け物の顔が見えた。

「逃げてー!!」

 優笑の叫びに皆がハッとなる。
 真莉愛が手下の頭を殴り、引きずるようにして走った。

 バーサーカーは声をあげた優笑を見る。
 血でドロドロになった姿で、一歩進んだかと思うとドサリと膝を折ってしゃがみ込んだ。

 倒れたのかと一瞬思ったが、すぐに四足歩行でこちらへ向かってくる!

「優笑ちゃん! メリーゴーランドの方へ行って!」

 このまま園内を走れば追いつかれる! そう思った優楽は周りに柵がある遊具の方へ行くように指示をした。

「スズメ! 援護して!」

「た、闘うの!?」

「もちろんだよ……!」

 バーサーカーは優笑を狙って走ってくる。
 優楽にとっては一番容認できない状況だ。

「優楽!」

「優笑ちゃんは逃げて!」

 自分を追ってくるバーサーカーの前で優楽が血の剣を握り締めたのが優笑には見えた。

【タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテケテ】

「!?」

 突然に流れ込んできたテレパシー。
 あの通信係の声ではない。

「誰……!?」

「うぉおおおおおおおおお!」

 優楽が果敢にもバーサーカーに斬りかかった!
 しかし、かわされたかと思えば、長い爪での攻撃が優楽を襲う。

「優楽っ!」

 優楽も俊敏にバーサーカーの攻撃をかわした。
 しかし最初の先行攻撃の後は、獣のようなバーサーカーの爪と牙の攻撃に翻弄され優楽は逃げる事しかできない。

「優笑ちゃ! 来たらダメ! 逃げっ……!」

 間に入って優楽を守れないかと逃げた場所から戻ろうとする優笑に優楽は叫ぶ。
 スズメも優楽とバーサーカーの近くにいるがナイフを持ったまま身動きが取れない。
 優楽とバーサーカーの動きについていけないのだ。

「私だけ逃げるなんてできるわけないでしょ!」

 優笑は落ちていた石を持って優楽の元へと走る。

「来るな!」

【タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテケテ】 
 
 また優笑の頭に響く言葉。
 
【ソフィアタスケテソフィアタスケテソフィアソフィア!!】 
 
「わ、私はソフィアじゃないのっ!!」

 ぐわっとバーサーカーが口を開けながら優笑に襲いかかろうとしたが……。

「ぐぅ!?」

 バーサーカーの顔に缶がめり込んだ。
 地面に落ちて、炭酸と共にジュースが吹き出す。

「逃げるぞ! 天乃!」

「灰岡さんっ!?」

「行くよ! 優笑ちゃん!」

 メリーゴーランドの影からジュースの缶を投げたのはショウだった。
 バランスを崩して倒れ込んだバーサーカーを横目に、四人は走り出し逃げる。

「借りは返したぞ!」

「は、はい! ありがとうございます!」

「追ってくるよ! あそこに逃げるは!?」

 スズメが叫んだ先には屋根のある建物だ。
 UFOキャッチャーやアーケードゲームが置いてあったのだろう。
 ガラスは割られている。

「行き止まりになったら追い詰められる! 今はできるだけ逃げよう!」

「わかった……! はぁ! はぁ!」

 四人は暗い遊園地を走る。
 コーヒーカップがくるくると回っていたが、時間になったのか止まった。
 自動運転にでもなっているのだろうか。
 
「あれに乗った方がバーサーカーなんか近寄れないんじゃない!?」
 
 息切れしていない優楽がそう提案する。
 
「あいつの運動能力がわからない。飛んで来られたらもう終わりだ」

「じゃあどこへ!」

「ミラーハウス……!!」

「嘘でしょ、全部ガラス割られるんじゃ」

「行こう! 私が一番最後を守る! 優笑ちゃん行って!」

「中はボロボロなんじゃ……」

「もう入るしかないよ!」

 ミラーハウスの後ろはもう遊園地を囲む柵だ。
 突進してくるバーサーカーから隠れる場所はもう此処しかない。

「大丈夫! 中は進めるよ!」

 最初に入ったスズメの声に安堵して、優楽は追いかけてくるバーサーカーに石を投げつけてからミラーハウスに入った。

 キラキラと輝くミラーハウス。
 全員が映って増える。

「こんな時だと不気味に思える」

「まさか裏手で待ち伏せはしていないよね……」

「いいから先へ進め!」

 バーサーカーが追ってきた気配がした。
 
「ぐああああああああっ!」

 ミラーハウスに響き渡る声。
 バーサーカーの叫びだ。

【バケモノバケモノイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤァアアア】

「ぐっ……あの子の……」

 バーサーカーの心の叫び。
 自分の姿を見て、叫んだのだろうか。
 入り口の1枚が割られた音がして、外に飛び出て行ったのがわかる。

「はぁ……どっか行った……」

 四人はミラーハウスの中で、へたり込む。
 優笑の手がブルブル震えていた。

「腰が抜けちゃうよ……」

 優笑の頭の中に響いた声は、化け物の叫びの中に混じる、少女の涙のようだった。
 哀しく辛い、少女の叫び。

「あの子……どうにか人間に戻してあげられないのかな……」

 ポツリと優笑が言った。

 


 【湯浅若菜・死亡 バーサーカーによる捕食】

 
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