上 下
63 / 102

デス・ゲーム7日目 優楽の行動・ココア狙われる

しおりを挟む
 研究所から寮に戻り、部屋でネズミに餌をやった優楽。
 制服のリボンを整え、リュックを背負って寮から出る。
 
 今日はいい天気だ。
 日差しが眩しく優楽は目を細める。
 
 図書館に向けて林を歩いていると、木陰からスズメが現れた。

「優楽」

「スズメ……小屋に行ってなかったの?」

「んー、優楽が心配でさ。大丈夫?」

 スズメの言葉に、少し驚いた顔をする優楽。

「別に、大丈夫だけど」

 そのまま優楽は林の中を歩き出す。

「研究所に行ってたの?」

「多分ね。検査させられて夕飯は豪華なディナーを食べてオイルマッサージにネイルまでされたよ」

 そう言って優楽はピカピカの爪を見せた。

 目隠しをされ移動したので正確な場所はわからない。
 奇妙な時間だった。
 気高く美しくいる事を望まれているような時間。
 しかし四方には銃を向けた女性兵士がいて、リラックスなどできるはずもなかった。

「酷いことはされてないんだね」

「一応はご褒美だってさ、馬鹿みたいだよね」

 呆れたような顔をする優楽。
 そのままどんどん林の中を図書館に向けて歩く。

「……何か話をしたの?」

「まぁね。色々質問はされたけど、適当に答えたよ」
 
「優笑も心配してると思うよ? 小屋には行かないの?」

「ゲームマスターから、今日は優笑ちゃんへの攻撃は禁止って言われたよね?」

「うん昨日言われた」

 優楽が飛び越えた倒木をスズメも飛び越えた。
 バキバキと踏みつけた小枝の折れる音がする。
 
「それならいい。優笑ちゃんが無事なら……」

「多分、灰岡先輩が小屋に行ってると思うけど」

「……あの人、人間嫌いとか言って優笑ちゃんには構うんだね」

 少し笑うように優楽は言う。

「優笑の事は、みんな好きになるんじゃないの? 心配なら小屋に行く?」

「ううん、優笑ちゃんは無事だからいい。今日は別行動」

 優笑べったりな優楽の言葉にスズメは少し驚いた顔をする。

「そ、そうなんだ。じゃあ私は優楽と行ってもいい?」

「いいけど……優笑ちゃんに余計な事言ったりしたらどうなるかわかるよね?」

 優楽がジッとスズメを見る。
 
「わ、わかってるって……怪我を助けてもらった時の事とか言わなきゃいいんでしょ」

「それも含めて、これからの事もね。優笑ちゃんは何も知らなくていい。私が守るから」

 優楽の強く、そして暗い炎が燃えるような瞳にスズメがゾッとした。

「あ、ネズミちゃん。おいでおいで」

 木の根元に可愛いネズミが鼻を揺らして数匹現れた。
 急に笑顔になった優楽は、ブレザーのポケットからパンを取り出し木の根元から顔を出していたネズミに餌をやる。

 リスも木の穴から数匹が顔を出す。

「リスちゃんもおいで~よしよし、また会おうね。この島に猫ちゃんはいないかなぁ?」
 
「優楽の動物好きもすごいよね。動物からも一瞬で好かれるなんてさ」

「えへへ、いつからだろう? ……田舎のおばあちゃんの家の裏山で遊んでる時も……」

 裏山。
 優楽が大怪我をした時の事だろうか。
 スズメは優楽の言葉の続きを待っていたが優楽は『なんでもないよ』と肩の乗っていたリスを撫でた。
 
 それから優楽は優笑が図書館に来た時のため、と二階の部屋の鍵を開けた。
 一応中に入ってはみたが……。

「私達も資料を探してみる?」

「……ソフィアが優笑ちゃんを救った吸血鬼で……ソフィアには感謝しかないよ。研究所のやつらはその事を探っているのかも。だから今は、私にできる事は強くなる事だけ」

「……研究所を倒すつもり……?」

「奴らも相当に隙がなかったよ……もっともっと強くならなきゃ。優笑ちゃんのために」

「優楽……」

「じゃあ行くよ」

 強くなる……その意味は。
 スズメは優楽の後をついていった。

 ◇◇◇
 
「きのこ……きのこ……」

 いつの間にか図書館から『きのこ図鑑』を借りてきていたココア。
 支給されたTシャツを切り裂いて採取用のバッグにしている。
 
「あんまり食べられるきのこな~い~なーい~きのこきのこきーのこ~~」

 赤いきのこには触らず通り過ぎる。
 しかし、自分が吸血鬼という事は食べられるのか……? とココアは少し考えたようだ。

 やはり触らぬように、きのこを採取しバッグの中に入れる。

「どくどくどくきのこ~~のこのこきーのこーお肉~食べたい~お魚も食べたい~~~」

 ココア的には火が欲しいので、あれこれ道具を作って試しているのだが火は点かない。
 きのこ採取を終えたココアは、大きな葉や枝で作った隠れ家に向かう。

「あぁ~~」

 しかしそこには、招かれざる客がいた。
 蝶子とグループの二人だ。
 ココアがゴロゴロと転がして置いた石のテーブルと椅子に三人が座っている。

「やっほお~やっぱりあんたか不思議っ子」

 せっかく作った隠れ家はぐちゃぐちゃに荒らされていた。
 骨で作ったオブジェも、枝で作ったオブジェもバラバラだ。

「随分一人でエンジョイしてるみたいじゃん? うちらも仲間に入れてほしいって思ったわけ~」

 そうは言いながらも蝶子は既に剣を右手に持っているし、二人も遊園地で手に入れた鉄パイプを持っている。

「痛い思いしたくないならさぁ~素直に食べられた方がいいよ~?」

「ふぅ~~ん……?」

 ニヤニヤしながら近寄る三人。
 ただでさえ小柄のココア。
 楽に捕食できると思っているんだろう。

「ねぇ、蝶子やっぱこいつはあたしに喰わせてよ」

「あ、あたしだってそろそろ喰いたいよ」

「はぁ? ざけんなって、二人共」

「だ、だってさ」

「真莉愛の手下みたいになりたいわけ!?」」

「「ひっ」」

 昨晩の悪夢。
 真莉愛が手下……とはいえ友人といってもおかしくはない間柄の人間を喰った。
 蝶子は暗にお前らも喰うぞと言ってるのだ。

「ほら、さっさとこのチビ捕まえるよ」

「きーのこのこ~きのこっ!」

 ココアは持っていたきのこを上手に三人にむかってぶちまけた。

「触っただけで焼けただれるきのこ♫」

「えっ!?」

「やだぁ! あ、赤いやつって! ニュースで見た事あるよ」

「あ、洗わなきゃ! やばいって!」

 それを聞いて三人とも慌てだす。
 蝶子も自分の顔に当たったので、焦っている。
 
「ぷーん」

 そんな三人を見て、ココアは走って去っていった。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,185pt お気に入り:6,299

花開かぬオメガの花嫁

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:524

BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,440

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,183pt お気に入り:3,545

【長編版】婚約破棄と言いますが、あなたとの婚約は解消済みです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,032pt お気に入り:2,189

【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

BL / 完結 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:5,254

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,354pt お気に入り:3,674

処理中です...