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デス・ゲーム12日目 相賀鈴愛

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 スズメへの問い。
 優楽の冷たい瞳が光る。

「私? あんたの相棒みたいな?」

「相棒……? ふざけないでよ……何者なのか答えて」

「だから……同じだよ。このデス・ゲームの被害者じゃん」

「ここまで来たなら……もう話しなよ」

「何かの誤解だって……」

 優楽は更に冷たい瞳をする。
 その奥にチラつく殺意にスズメの背中に嫌な汗が流れる。

「じゃあ……スズメは、いつのデス・ゲームの被害者?」

「え?」

「……スズメは前回のデス・ゲームの生き残りなんじゃないの?」

 林の中でお互いを見たまま、優楽も動かないしスズメも動かない。

「どうして……そう思うの?」

「あんたの行動は自分が生き残るにしても随分怪しいし……最初の出逢いから偶然が多すぎる」
 
「あっは……さすがにあからさま過ぎたか」

 スズメが笑った。
 つまりは認めた……ということだ。
 
「そうだよ」

「でも、私は敵じゃないよ?」

「どういう意味?」

「私に課せられたデス・ゲームはルールが違うの。吸血姫の器を見つけて育て導くこと……そして吸血姫を創り出す……それでやっと解放されるんだよ」

「ふん……私を散々けしかけていたのはそのためか」

「酷いなぁ? 強くなる強くなるって望んでいたのは優楽だよ? 人のせいにしないでほしいな」

 それに対して優楽は何も言えない。

「仲良くやろうよ。利害は一致してる。私達は最後まで殺し合いしなくていいんだから……」

「あの血のメモを書いたのは、あんたなの?」

 その言葉にスズメがピクリと反応する。
 偶然出てきたあのメモ……。
 確かにあれもスズメが本を取った時に出てきたものだ。

「……そうだよ」

「ソフィアの存在を意識させるため?」

「そうだよ。あからさまにあんたはソフィアを知ってる? とは書けないからね」

 怯えながらも、堂々とスズメは言う。
 そんなスズメを優楽は見ていない。
 
「……前のゲームではどうなったの?」

 スズメは何も言わない。
 優楽がスズメを見ると、スズメは目を見開いて手を握りしめ震えている。

「……酷いもんだったよ……私が17歳の時だった……同じように、この島でデス・ゲームをしろと……ソフィアのウイルスはまだまだ凶暴で脳内にはソフィアが神のようにチラついて……殺し合いをした」

「……吸血姫には誰もなれなかったの……? 誰が最後の一人に……」

 不毛な事を聞いたと優楽は思った。

「……私だよ……」

 そうだ。それ以外にいるわけがない。
 不意にスズメの手から血のナイフが現れ、沸騰するように増殖する。
 右手にも左手にも剣が握られる。

「な……っ」

「デス・ゲーム参加40人……そこの頂点にまでなったのに……私は吸血姫になれなかった」

 あまりにも残酷な結果に優楽は息を呑む。

「『みんな違った』って……あれだけは最近、古い紙に書いたの」

「みんな違った……吸血姫に、みんななれなかったって事?」

「みんな違ったって、みんな素質がなかった、実験は失敗だった、残念だった……最後生き残った私に言われた言葉。結局それで終わりだよ!! ……そこから自由にしてもらえるわけでもなく……十年も、こんな研究の協力をさせられたまま」

 十年……同じ高校生だとばかり思っていた彼女はもう27歳だというのか。
 そんな年齢には見えない。
 吸血鬼ウイルスの影響なのだろうか……。
 
 当時どんなメンバーが集められたのかはわからない。
 それでも彼女は地獄のデス・ゲームの中で殺し合いが終わった今でも解放される事はなく10年過ごし続けているのだ。

 過去を思い出し、興奮したように叫んだスズメだったが……段々とまた落ち着きを取り戻す。
 死んだような瞳。
 爪を噛んだ。
 彼女の本来の顔なのかもしれない。
 
「私と優笑に……何故近づいたの?」

「検査の結果であんた達二人の反応が良かったから。私達も理由はわからなかった。でもなんであれ姫になる幼虫には最適だとピックアップされたんだよ」

 盗聴器は本当にないのだろう。
 スズメは話し続ける。
 誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
 優楽が崖下に落ちた事をスズメにだけは話してしまったように。

「……菊池ゆりえを焦って殺したね」

「あぁ、役立たずの姉妹だった。せっかく口だけは固かったんだから最後まで黙っていれば良かったのにね」

「命の恩人だって私も優笑も信用しちゃったよ」

「助けたのは本当だしね」

「よく言うよ」
 
 菊池姉妹に優笑を襲わせたのは計画だった。
 スズメを信用させるための……。

「他にも怪しいことあったかなぁ?」

「まぁ不自然だよね。私にいっぱい食べさせるしさ」

「あはは。私が食べても意味ないし怒られるんだってば」

 吸血姫の素質のないスズメは食べても意味が無い。
 
「それにさ……あのUSBも絶対に最初はなかった。わざわざおばあちゃんの家の田舎の写真まで混ぜて……」

「優笑に思い出してもらいたかったんだよ」

「どうして?」

「血の奴隷の詳細が知りたかったから……それだけ。優楽、あんたの存在が今は希望なんだよ。優笑を食う気になってくれて良かった! やっと終わるんだよ……やっと……やっと私のデス・ゲームが終わる」

「私を吸血姫にしたいんだね」

「そう……あんたは誰よりも強く高貴な吸血姫になるんだよ」

 スズメは両手から血の剣を消すと、優楽に跪いた。

「最後の一人まで食い尽くして、吸血姫に……そのために私は貴女の配下になります」

「配下? ……何言ってんの、スズメ、あんたは私と戦うんだよ」

「! 優楽……!?」

 跪いたスズメは驚いた声をあげる。

「私がいた方が吸血姫になってからもサポートできるんだよ!? あんたにとって損はないでしょ!」

「……いらない……全員殺す……そう決めたの」

 優楽は右手から血の刀を出し、スズメに向けた。
 
「此処で殺されるよりはいいでしょう? 素敵なショーを開催しよう……ゲームマスターに伝えてよ。明日の昼に迷路の公園で待ってる」

「優楽……」

「じゃあね、サブマスター様」

 スズメに侮蔑の瞳を向けると、優楽は長い髪を揺らして林の中を歩いていく。
 



  
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