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第一章

攻撃魔法は使えないらしい

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 この小島で二度目の朝を迎える。

 「お腹は……今のところ大丈夫そう?」

 トイレはともかく、潮風に晒されっぱなしでシャワーを浴びたいけど、今は漁で海に入るのが水浴び代わりで我慢するしかなくて。

 飲み水の出る魔法、初日は4回目で出なくなったが、翌朝試したらまた出来るようになった。……6回。
 念の為と絶やさずにいた焚き火の種火を使わなかった分と思われた。
 燃料代わりのヤシの葉はそろそろ禿げそうなので、いい加減この島を脱出したい。

 「今日一日、お腹を壊さずに済んだら……、」

 同じ魚をしばらく刺し身でいただく覚悟で行く。

 「だけどその前に……!」

 生活魔法が使えたなら!

 「ファイヤーボール!」
 種火魔法の教訓から、しっかり海を狙って一番メジャーな魔法名を唱えてみる。

 ……何も起こらない。

 「あ、あれぇ?」

 今日はまだ何の魔法も使ってないのに。

 今度はゲームやラノベで聞き覚えのある詠唱を真似て唱えてみる。

 ……何も起こらない。

 「えええええ、生活魔法が使えたからもしかしてって思って恥を偲んでやったのに! こないだの二の舞、黒歴史の上塗りじゃん!」

 本当に本当に、ここが誰も居ない無人島で、本っ当~に良かった。

 厨二どころか二十歳近い女がこんな、日本でやってたら確実に警察に職質受けるレベルのヤバさだから!

 どうやら私の使える魔法は生活魔法のみであるらしい。

 ……もう二度とこんな恥ずかしい真似するもんか。

 多大な精神ダメージと引き換えに得た情報をしっかり頭に刻み、更にその翌朝早く。

 「よし、行こう」

 私はボートに乗り、エンジンを稼働させた。

 ここから北北西、……さてどれくらいで着くかな?
 船の速度がイマイチ分からなくて、予想はつかないけど。

 エンジンは激しくうなり、船の舳先が波を割るようにボートは進み始める。

 「ヒャッホー、気持ち良いー!」

 日差しは少し痛いけど、ここの海の青はとても綺麗な色をしていた。
 南の海の、サンゴ礁のあるような透明感のある綺麗さではないけれど。

 夏の青空と海の青に囲まれた開放感。

 ……島でも似たような状況ではあったけれど、正直極限との戦いでそれどころじゃなかったから。

 今もそれが解決したとはまだまだ到底言えないけど。

 今、確かに一歩、抜け出すための一歩を踏み出せた快感が、開放感を強くする。

 沖に出るほど、波と波の間を跳ぶように進み、よく跳ねよく揺れたけど、幸い船の揺れには慣れている。船酔いの心配はない。

 ただ、様々な青色に囲まれた世界を、真っ直ぐに進むだけ。

 時折エンジンを切って、錨を下ろす。
 魔法で出した水を飲み、一時の休憩を入れてSPの回復を待つ。

 それを何度繰り返しただろう?

 「あ、あれは――」

 日暮れ近くになって。
 ようやくそれが水平線の上にちょこんと現れたのだった。

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