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波乱含みの旅路で。
初・魔族の国です!
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「……もう国境を越えたのかしら?」
街を出て、途中昼食を挟んでからももうだいぶ経ったけど。
行けども行けども代わり映えのしないピンクや紫に染まるヒースの低い丘が続くばかり。
初めは綺麗な景色と思っていたけれど、こうもこれしかない状況が続くとさすがに飽きてくる。
「だいぶ日も傾いてきてますし、そろそろ街が見えてくる頃かと」
「私、国境ってもっと塀が続いて砦や門があって物々しく検問をする兵士が居るようなイメージをしてたんだけど、ものの見事に何にもなかったわね……」
「その分、先の街を出るときが大変だったでしょう?」
「ええ。あそこまで馬車の中をまじまじ見られたのは初めてだったもの」
「多分、次の街に入る時も大変だと思いますよ」
うへぁ、昨日はちゃんと宿屋で休んだというのに何だかもう今から疲れてきた気がする。
「そりゃそうでしょう。どう考えてもお嬢様の空間の中の部屋の方がそこらの宿より余程環境が良いんですから。この馬車で移動する限りは、金持ち仕様の豪華宿でもなければ馬車で休む方が絶対に楽ですよ、これ」
宿では食事だけする方が経済的です、とレイフレッドは一人訳知り顔で頷く。
シリカさんとスコットさんを交代で乗せてはみたけど、やっぱりレイフレッドが隣に居るのが一番気楽で良い。
「中の部屋は私が勝手に作ったものだから、何か意見があったらいつでも言ってね? まだいじれる余地は十二分に残ってるから」
「お嬢様はそろそろ少しだけ自重というものを覚えた方がよろしいかと……」
「あら、自重したからこの通り馬車の外装はただの木製に見えるようにカモフラージュしてるし、本気で空間操作をすれば10畳――いえ、カーライル家の私の部屋のリビング位の広さに出来る物を誤差の範囲に収まる程度に留めたのよ?」
いつか、本格的に冒険に出かける時には馬車もグレードアップさせてリニューアルする予定だ。
旅の最中の今も空間のアトリエでコツコツ修行を重ねる中で気づいた事がある。
一つのアイテムに付与できる魔法はその素材のランクによって数が決まっていて、低ランクの素材なら1つきり、ランクが上がればその個数も増えていくが、数に限りがあるのに変わりはない。
――だから、例えば鎧に五つも六つも効果が付いていれば高級品として物凄い値段で取引される。
国宝級でも二桁の加護の在るものはないと。そう言われている。いや、いた。
けど。素材の段階で付与した効果は、それを使って作ったアイテムに引き継がれるけど、新たなアイテムには個数カウントされない。新たにそのアイテムランクに応じた加護を付与できると知ってしまったから。
例えば最初から効果がついている魔物素材――例えば「物理攻撃耐性」と「魔術攻撃耐性」付きのスパイダーの糸には錬金術でもう一つ効果を付与するのが精一杯。例えば「異常耐性」を付与して製糸、新たに糸素材「スパイダーシルク」にすると、元の効果を残したまま新たに二枠効果を付与出来る。ここで既にある効果を重ねがけすると効果が統合進化する場合もある。
また別に「湿度調整」や「温度調整」を付与した染料で染めれば例えば「スパイダーシルク糸〈薄青〉」として全ての効果を内包した新たな素材になる。
その糸を元に布を織れば……その布を使って仕立てれば……。
二桁の加護は難なく付けられる。ただし余程レベルの高い鑑定スキルを使わなければ、最終的に完成した物に直接付与された効果しか見えない。
……私のようにスキルツリーでのカンニングもなければ滅多にスキルの統合進化なんて起こらない。
こないだ作ったチート斧なんて目じゃないチート武器も作れる。
だから。
「あ、あれ。あそこに見えるのがヒースの街かしら?」
人間の国より強い魔物が多く、その分ランクの高い素材が出回りやすいと言う魔族の国にはそう言う意味でも期待していた。
相変わらず荒れ野が続いているから、新鮮な野菜は望めないけど、街の市場には是非行ってみたかったし、念願の他種族の国だ。
「お嬢様、はしゃぎすぎて迷子にならないで下さいね。絶対に僕からは離れないで」
ああ、門番として外に立つあの兵士さんは……うん、エルフやドワーフの様には何の種族か分からない。
何しろこの世界では人間も髪や目の色が多彩だから、彼らも外見だけでは人間にすら見える。
種族が分からなければどんな能力を持っているかも分からない。
「――人間の国より帰郷の旅の途中だ。後ろは私の連れで私が招待した客だ」
人間の子供の私と人間の国で発行された身分証明しか持たないレイフレッドをフォローに来てくれたシリカさんのおかげで検問も無事通過し。
「宿に行く前に冒険者ギルドに行って馬を交換しよう」
シリカさんの案内でまず冒険者ギルドに向かった。
……ルクスドで馬を借りた時にはレイフレッドだけが中に入って手続きをしたんだけど、人間の小娘が一人で居るのは危ないと、四人で受付に並んだ。
おお、さすが魔族の国。受付カウンターに居るのはエルフな美人だよ。
時間帯もあって依頼完了報告目的の冒険者が列をなしている。……これはもうしばらくかかりそうだね。
にしても、やっぱりまだ魔族の国に来たという実感が湧きにくい。
もし先にルクスドへ行かず、この国を一番に訪れていたなら、あの受付のお姉さんだけで満足してたかもしれないけど……。
見た目的にはやっぱりもふもふ天国な獣人の国の方が分かりやすくファンタジーを実感出来るんだよね。
「うへぁー、やっぱり混んでるッスよリーダー……」
「並ぶのかったりぃなぁ」
と。ギルドの扉が乱暴に押し開けられ、新たに入ってきたのは見るからにチンピラ感全開の男三人。
……あ。しまった目があった。
「おいおいおいおい、見ろよ、こいつこの小娘って人間じゃね?」
――あー、ついに来ました冒険者ギルドのお約束。絡まれイベント発生です。
にしても私には分からない違いがこんなバカっぽい奴には分かるのか……?
これは後でシリカさんにでも聞いて対策を練る必要がありそうだね。
「よう、お前さん来るとこ間違ってねぇか?」
「そうそう、ここは遊技場でも娼館でもないんだぞ?」
「ぎゃはは、俺達が案内してやるからそこどけや!」
うわはー、ホントにテンプレ……。
「――黙れ下衆共、それ以上喋るな。お嬢様の耳が腐る」
そしてレイフレッドが静かにキレてる。何かもう蛆虫見るような目でチンピラを睨んでる。
……守って貰ってる側だから格好良く見えるけど、こんなキレイな顔でこんな風に蔑まれたらと思うとオソロシイ……。
取り敢えずレイフレッドに失望されるような事はすまいと密かに決意した私と違って、頭だけでなく目の出来にも不具合があるらしい男三人はちっとも畏れ入らなかった。
「あん? 吸血鬼のガキか? ひゃははは、天狗族の俺達に敵うわけねぇだろ!」
「……わざわざあなた方と実力行使の喧嘩をする必要はありませんよ。――影よ縛れ、対象を捕縛せよ」
わめく男たちとは対照的に冷静に魔術を行使して男たちを縛り上げるレイフレッド。
「僕らが用事を済ますまでしばらくそこで反省して下さいね」
「……シリカ、吸血鬼の子供ってこんなに魔術に長けてたっけ?」
「いいや、パートナー契約するまではあえて色々な血を取り込むせいで魔力が安定しづらいから、魔術を不得手とする子供は多い。レイフレッドは契約こそまだだがパートナー確定は早かった。……この年頃にしちゃあ破格に魔術適正が伸びてる」
「……これ、この子達が上手くいっちゃったら最凶カップルになっちゃいませんか?」
「さあな。……少なくとも私ら外野が口出す問題じゃないしな」
「――お待たせしました、次の方どうぞ」
「あ、はい。ルクスドで借りた馬の返却と、新しく魔馬を借りたいのですが……」
にっこり微笑むエルフさんの笑顔が眩しい。
無事魔馬を借りた私たちは宿をとるためギルドを後にした。
街を出て、途中昼食を挟んでからももうだいぶ経ったけど。
行けども行けども代わり映えのしないピンクや紫に染まるヒースの低い丘が続くばかり。
初めは綺麗な景色と思っていたけれど、こうもこれしかない状況が続くとさすがに飽きてくる。
「だいぶ日も傾いてきてますし、そろそろ街が見えてくる頃かと」
「私、国境ってもっと塀が続いて砦や門があって物々しく検問をする兵士が居るようなイメージをしてたんだけど、ものの見事に何にもなかったわね……」
「その分、先の街を出るときが大変だったでしょう?」
「ええ。あそこまで馬車の中をまじまじ見られたのは初めてだったもの」
「多分、次の街に入る時も大変だと思いますよ」
うへぁ、昨日はちゃんと宿屋で休んだというのに何だかもう今から疲れてきた気がする。
「そりゃそうでしょう。どう考えてもお嬢様の空間の中の部屋の方がそこらの宿より余程環境が良いんですから。この馬車で移動する限りは、金持ち仕様の豪華宿でもなければ馬車で休む方が絶対に楽ですよ、これ」
宿では食事だけする方が経済的です、とレイフレッドは一人訳知り顔で頷く。
シリカさんとスコットさんを交代で乗せてはみたけど、やっぱりレイフレッドが隣に居るのが一番気楽で良い。
「中の部屋は私が勝手に作ったものだから、何か意見があったらいつでも言ってね? まだいじれる余地は十二分に残ってるから」
「お嬢様はそろそろ少しだけ自重というものを覚えた方がよろしいかと……」
「あら、自重したからこの通り馬車の外装はただの木製に見えるようにカモフラージュしてるし、本気で空間操作をすれば10畳――いえ、カーライル家の私の部屋のリビング位の広さに出来る物を誤差の範囲に収まる程度に留めたのよ?」
いつか、本格的に冒険に出かける時には馬車もグレードアップさせてリニューアルする予定だ。
旅の最中の今も空間のアトリエでコツコツ修行を重ねる中で気づいた事がある。
一つのアイテムに付与できる魔法はその素材のランクによって数が決まっていて、低ランクの素材なら1つきり、ランクが上がればその個数も増えていくが、数に限りがあるのに変わりはない。
――だから、例えば鎧に五つも六つも効果が付いていれば高級品として物凄い値段で取引される。
国宝級でも二桁の加護の在るものはないと。そう言われている。いや、いた。
けど。素材の段階で付与した効果は、それを使って作ったアイテムに引き継がれるけど、新たなアイテムには個数カウントされない。新たにそのアイテムランクに応じた加護を付与できると知ってしまったから。
例えば最初から効果がついている魔物素材――例えば「物理攻撃耐性」と「魔術攻撃耐性」付きのスパイダーの糸には錬金術でもう一つ効果を付与するのが精一杯。例えば「異常耐性」を付与して製糸、新たに糸素材「スパイダーシルク」にすると、元の効果を残したまま新たに二枠効果を付与出来る。ここで既にある効果を重ねがけすると効果が統合進化する場合もある。
また別に「湿度調整」や「温度調整」を付与した染料で染めれば例えば「スパイダーシルク糸〈薄青〉」として全ての効果を内包した新たな素材になる。
その糸を元に布を織れば……その布を使って仕立てれば……。
二桁の加護は難なく付けられる。ただし余程レベルの高い鑑定スキルを使わなければ、最終的に完成した物に直接付与された効果しか見えない。
……私のようにスキルツリーでのカンニングもなければ滅多にスキルの統合進化なんて起こらない。
こないだ作ったチート斧なんて目じゃないチート武器も作れる。
だから。
「あ、あれ。あそこに見えるのがヒースの街かしら?」
人間の国より強い魔物が多く、その分ランクの高い素材が出回りやすいと言う魔族の国にはそう言う意味でも期待していた。
相変わらず荒れ野が続いているから、新鮮な野菜は望めないけど、街の市場には是非行ってみたかったし、念願の他種族の国だ。
「お嬢様、はしゃぎすぎて迷子にならないで下さいね。絶対に僕からは離れないで」
ああ、門番として外に立つあの兵士さんは……うん、エルフやドワーフの様には何の種族か分からない。
何しろこの世界では人間も髪や目の色が多彩だから、彼らも外見だけでは人間にすら見える。
種族が分からなければどんな能力を持っているかも分からない。
「――人間の国より帰郷の旅の途中だ。後ろは私の連れで私が招待した客だ」
人間の子供の私と人間の国で発行された身分証明しか持たないレイフレッドをフォローに来てくれたシリカさんのおかげで検問も無事通過し。
「宿に行く前に冒険者ギルドに行って馬を交換しよう」
シリカさんの案内でまず冒険者ギルドに向かった。
……ルクスドで馬を借りた時にはレイフレッドだけが中に入って手続きをしたんだけど、人間の小娘が一人で居るのは危ないと、四人で受付に並んだ。
おお、さすが魔族の国。受付カウンターに居るのはエルフな美人だよ。
時間帯もあって依頼完了報告目的の冒険者が列をなしている。……これはもうしばらくかかりそうだね。
にしても、やっぱりまだ魔族の国に来たという実感が湧きにくい。
もし先にルクスドへ行かず、この国を一番に訪れていたなら、あの受付のお姉さんだけで満足してたかもしれないけど……。
見た目的にはやっぱりもふもふ天国な獣人の国の方が分かりやすくファンタジーを実感出来るんだよね。
「うへぁー、やっぱり混んでるッスよリーダー……」
「並ぶのかったりぃなぁ」
と。ギルドの扉が乱暴に押し開けられ、新たに入ってきたのは見るからにチンピラ感全開の男三人。
……あ。しまった目があった。
「おいおいおいおい、見ろよ、こいつこの小娘って人間じゃね?」
――あー、ついに来ました冒険者ギルドのお約束。絡まれイベント発生です。
にしても私には分からない違いがこんなバカっぽい奴には分かるのか……?
これは後でシリカさんにでも聞いて対策を練る必要がありそうだね。
「よう、お前さん来るとこ間違ってねぇか?」
「そうそう、ここは遊技場でも娼館でもないんだぞ?」
「ぎゃはは、俺達が案内してやるからそこどけや!」
うわはー、ホントにテンプレ……。
「――黙れ下衆共、それ以上喋るな。お嬢様の耳が腐る」
そしてレイフレッドが静かにキレてる。何かもう蛆虫見るような目でチンピラを睨んでる。
……守って貰ってる側だから格好良く見えるけど、こんなキレイな顔でこんな風に蔑まれたらと思うとオソロシイ……。
取り敢えずレイフレッドに失望されるような事はすまいと密かに決意した私と違って、頭だけでなく目の出来にも不具合があるらしい男三人はちっとも畏れ入らなかった。
「あん? 吸血鬼のガキか? ひゃははは、天狗族の俺達に敵うわけねぇだろ!」
「……わざわざあなた方と実力行使の喧嘩をする必要はありませんよ。――影よ縛れ、対象を捕縛せよ」
わめく男たちとは対照的に冷静に魔術を行使して男たちを縛り上げるレイフレッド。
「僕らが用事を済ますまでしばらくそこで反省して下さいね」
「……シリカ、吸血鬼の子供ってこんなに魔術に長けてたっけ?」
「いいや、パートナー契約するまではあえて色々な血を取り込むせいで魔力が安定しづらいから、魔術を不得手とする子供は多い。レイフレッドは契約こそまだだがパートナー確定は早かった。……この年頃にしちゃあ破格に魔術適正が伸びてる」
「……これ、この子達が上手くいっちゃったら最凶カップルになっちゃいませんか?」
「さあな。……少なくとも私ら外野が口出す問題じゃないしな」
「――お待たせしました、次の方どうぞ」
「あ、はい。ルクスドで借りた馬の返却と、新しく魔馬を借りたいのですが……」
にっこり微笑むエルフさんの笑顔が眩しい。
無事魔馬を借りた私たちは宿をとるためギルドを後にした。
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