唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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吸血鬼と一緒に。

彼を失うくらいなら

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    「おはよう、よく眠れたか?」
    そこは、あの客室よりも装飾はシンプルだけど、明らかに質の高い物が惜しげもなくふんだんに使用されていて。
    大人が三人は並んで寝れそうなベッドはマットレスは程よい弾力性に富み、シーツの肌触りは滑らかで気持ちいい。

    ホテルのベッドルームにあるような小さなテーブルと二脚の一人用ソファーの片方に腰掛けお茶を飲むシリカさんは、私の目覚めに気づいてカップをソーサーに戻した。

    はっと慌てて起き上がる私。
    「……待て。――レイフレッドの事だろう?」
    シリカさんは分かっているとばかりに頷いた。
    「頼む、私も彼の見舞いに付き合わせてくれないか?」
    「……中で見聞きした事は他言無用、これを守って貰えるなら良いですよ。ちゃんと吸血鬼の事を知ってる人に状態を確認してもらうのはどっちにせよ必要なことだし。――ただし、王様にも他言無用を通してくれるなら、が条件です」

    「了解した」
    一晩放置してしまった事になるから、私は急いで空間の入口を開いた。
    「……昨日、お前達がきえたと報告を受けたが――そうか、この中に逃げ込んでいたのか」
    「本当なら大人しく事情聴取に応じるべきだったんでしょうが、レイフレッドの減額差し迫ってのっぴきならない状態だったんでやむなく、ですね」
     「……分かっている。あれは、ちゃんと私自身の責任で手配しなかった私の落ち度でもある。私個人として責めることは出来ないさ」
    シリカさんには一時的な許可を与えて中へと招く。
    「……家?」
    何もない。あやふやな亜空間をイメージしていたシリカさんは唖然と口を開けて呆けている。
    「主、主~!」
     私の気配を察したフロスが駆けてくる。
     「フロス、お留守番ありがとう。レイフレッドの様子はどう?」
    「あのねあのね、さっき目を覚ましたよ!」
    どうやら起きているらしい。
   「シリカさん、こっちです」
    今、彼が居るはずの私の部屋へと彼女を案内する。
    ……ああ、一晩眠って体の疲れはとれたけど、貧血までは治まり切らない。僅かな目眩と重い頭。動くのが少し億劫になるだるさ。
    これは私もしばらくは無理できないな……。
    で、部屋の扉を開けるとそこには……
    何という事でしょう! 
    部屋の床に土下座したレイフレッドが……!    ――って!
    「レイフレッド、なにやってんの!    ……いや、まあ見れば何かは分かるし事情も察するけど。まだ休んでないとダメだって!」
    「で、でも俺……!」
    「謝る必要なんかないから!    レイフレッドに酷い事したヤツは捕まえたから!」
    1時、本当にレイフレッドを失いかけたんだ。私はいけないと思いながらも我慢できずにぎゅうとレイフレッドに抱きつき彼の胸に耳を寄せ、その心音を確かめる。
    「お、お嬢……」
    「よ、良かっ……」
    その存在感を確かめ、安堵した私の目からは意図せず涙がぼろぼろ溢れだし。
    このまま一緒に眠ってしまいたい衝動にかられたけど。
    子供をあやすように――ってかまあ今の私は正しく子供なんだけど――背中をぽんぽんされて宥められて。 
    「お嬢様、ありがとうございます。俺……いえ私は――この先どうすればこのご恩をお返しできるのか、もう分からないんです」
    私を宥めていたレイフレッドの声も震えていた。ぽんぽんする手の一方で、私の腰を支える手に力がこもる。
    「そんなの、どうだって良い。もう、こんな事絶対嫌だから。……こんな事でレイフレッドを失うくらいなら、契約でも何でもするから。……一緒に旅して冒険して行商して――ずっと一緒に居て欲しい」 
    レイフレッドが正気を失って、切実に血を欲している時に限って血を上げられないとか無いし。
    「……私もレイフレッドも、お互い体調が戻ったら。正式に契約しよう」
    この事件のと言うのは業腹だけど、私のパートナーとしての責任の重さを知れた事で、パートナーとなる覚悟は決まった。

    「お嬢様……。ありがとう、ございま……っ、」
    レイフレッドが不器用な泣き方で言葉を詰まらせる。
    ぽんぽんされていた手もいつの間にか私を強く抱き込むのに使われていて。
    私はその心地の良い安心感に、その場にシリカさんが同席していたことも、フロスの存在すら忘れてレイフレッドにされるがままに不意の口付けを受け入れていた。
    浅い、子供同士のキス。
    だけど……レイフレッドがあまりに必死すぎて。
    しかもこれまたその感覚が嫌でなく――というか――。

    「ええい、気持ちは分かるがいい加減にしろ!」
    とシリカさんにキレられるまでしばらく、二人の世界に入り込んでいた。
    
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