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魔族の国

10-10 何事も、程々に。

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    「まず前提として、我ら魔族と人間の間で子を作る事が可能だという事実がある。……子供を産めない女、種の無い男は婚姻対象から外され、後で分かった場合は離縁もありうる。これは貴族も平民も、どんな種族でも変わらん。婚姻の第一目的がまず子供を作り跡取りを用意することであるからな。 ……唯一例外が認められるのが、以外のところに理由のある政略結婚の場合だが……まあこれは特殊な例で滅多に無いことだが」
    ……まあ、ね。うん、文明レベルからそれは何となく察してたよ。現代日本でだって建前上はともかく実際には「三年子無きは去れ」的な台詞を政治家のおっさんがぺろっと言っちゃうレベルなんだから、まあそうだろうなと。
   「でだ。子は生まれるが、親次第で生まれる子が変わる。同種同士からは当然同種の子が生まれるが、異種と交われば混ざりものの子が生まれる。……混ざり者は忌み嫌われやすく、生まれ故郷を捨ててレプレイトに移住を望む者も多いが、レプレイトとてその全ては受け入れきれん」
     だから、これもまた特殊な事情が無い限りは同種同士の婚姻が推奨されるのだと。
    「そして、魔族の中には人間を同種にする術を持つ種族もおる。……吸血鬼はその内の一種だ」
    その術を持たない種族はやむを得ず異種同士の婚姻を選ぶしかないけど、吸血鬼は相手を同種に変えてから婚姻する例が大半だそうだ。
   「特に嫁がこちらに来る場合はそのパターンが多い。が、婿が人間の国へ入る場合は異種のままの婚姻をする例が他と比べれば多い傾向はあるが……。それでもやはり殆ど聞かん」
    そもそも、人間が魔族領に来る方が多くて人間領に出て行く魔族は少ないらしい。
    「……人間は、強いものを恐れるからな。特に男は見栄やプライドがあって、自分より強い者の存在を認めたがらない傾向が強い。が、女はその点強かだ。頼れる男ならそれが魔族でも良いと割り切れる者が魔族領に来るんだ」
    かつて人間の男だったイマルが面白くなさそうな顔で捕捉説明を加えた。
   「……私は異世界の人間です。この世界の男性との間に子が出来るかは分かりませんよ?」
    事実、聖女が大事に扱われなくなった時代には子が出来ずに離縁どころか国外追放されてその後の消息が不明とされた者も少なくなかった。
    これが、事情も知らない男と結婚したいと思わない一番の理由だ。先の王の言葉を聞いてその気持ちはより強くなった。
    「何、これの爵位はこれを手元に置く為のものよ。煩い親戚も無いし、本来なら先代の処罰で失われた家よ。今代で潰えても問題はない。無論これの子が継いでくれるなら嬉しいがな」
    「……何だかむしろ私にとって都合良すぎて怖いんですけど」
    「――だろうな。何しろこれも全てこの男がかき集めてきた資料の情報を、ワシが噛み砕いて喋ったに過ぎんからな」
    最後にニヤリと笑った彼を、イマルが物凄い速度で睨み付け、すぐさまヴァルを召喚して窓から放ち。
   「あっ、待て何をする!」
     と慌てた王を涼しい顔で受け流しているうちに、窓をぶち破る勢いで何かが部屋へと突入して来た。
    「陛下!    お探し致しましたぞ!    さぁ今すぐ戻りましょう、仕事しましょう、そうしましょう!    陛下の机は仕事で一杯で御座いますぞ!」
    機関銃みたいな勢いで捲し立て、王に迫るロマンスグレー。
    そのまま王の首根っこ掴んだまま再び窓から飛び出して行こうとしたけど、「待て、王の支払いがまだ済んでない。王を食い逃げ犯として警ら隊に指名手配させる気か?」と止めたイマルがにこやかに伝票を王の手に握らせる。
    「む……」
    背に黒い翼を持つイケオジが渋い顔で窓の桟から足を下ろし、面倒臭そうに扉から部屋を出ていった。
    「さて、ここは王が奢ってくれるそうだ。次へ行くぞ」
    ……イマル。さっきやけにイイ笑顔を浮かべていたと思ったらちゃっかりウチの伝票まで王に握らせてたのか!
    ――やっぱりイマルは怒らせちゃいけないと、改めて学習したのだった。
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