上 下
19 / 31
第一章

ガチバトル!

しおりを挟む
    戦い始めてすぐに、狭い庭エリアではろくに立ち回れないと互いに気付く。
    奴も流石にあの屋敷をダメにされるのは嫌らしく、アイコンタクトでバトル場の変更を提案される。
    私としても、スピードと腕力を兼ね備えた奴の相手をするなら場が広い方が良いのですぐに頷いた。

    屋敷から離れた農場予定地にやって来た。
    足元にはふかふかの畑。……だけど種が手に入らないから、今は雑草さえ生えないただの茶色い地面でしかない。
    一応、植物の育成を早める魔法はあるんだけど、流石にゼロから種を作って……なんて事は出来ないから。

    北海道の牧場張りにだだっ広いこの場なら、いくら暴れても周囲に影響は無い。

    私は改めて剣に魔力をまとわせた。

    そして、剣のみならず自らも魔力をまとい、さらにファイヤーボール的な放出系の攻撃魔法で手数を補う。
    奴が放出系の魔法を使えないらしいのは私にとって救いだった。

    魔法で奴の牽制をして移動範囲を制限してなきゃ早すぎて追い付けない。……いや、素早さステータスの数字上は恐らく互角なんだろうけど。
    私のそれは身体強化でフルに底上げした数値。遊び的な余裕が皆無に近いのに比べ、あちらは少し余裕がある。

    普通の戦いならさほど影響はないその僅かな差が、今は大きく戦況に影響を及ぼしていた。

    だけど、私も魔王を始め幾多の魔物や悪漢共を相手に勝利し続けて来たからこそ今ここで生きてる訳で。
    戦い始めてすぐに、“本当の”実戦経験は圧倒的にこちらが上だと気付いた。

    恐らくこの男、訓練や実習レベルでしか戦ったことがない。
    ……流石にスポーツレベルの試合だけ、という訳では無さそうだけど、戦い方が少々お上品すぎる。
    それでも基礎ステータスが高くセンスも悪くないから、そこらの雑魚を倒すだけなら普通に無双が可能だろう。

    ……が。やっぱり甘い。

   そこ行くと、私は魔法や剣の修練はしたけど大半は実地訓練だったから、いわゆる騎士的な儀礼的な剣は習ってないんだよね。だから、有効打になるなら基本的に何でもあり。
    卑怯だろうが騎士道に反していようが勝てば良い。

    この力をカツアゲとか犯罪に使った事はないし、そのつもりもないけど。戦い方だけを見ればかなりチンピラ的な戦い方だと自分でも思うけど。

    「ゲームセット」
    ピタリと急所をついて寸止めしてやれば……
    「……まさか、負けるなんて思ってもなかったんだがな」
     降参、とばかりに両手を挙げた。
    「では、私の勝ちと言う事で。私の願いを聞き入れて下さいますね?」
    「……仕方あるまい」
しおりを挟む

処理中です...