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第一章

下僕1号&2号、誕生!

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    「――では、契約を。この魔法陣に一滴血を落とせ。んで、真名と宣誓をしろ」

    適当な紙に彼が自分の血で描いた魔法陣。

    「三崎 海里みさき かいり。契約に基づき血を提供する事を誓う」
    深呼吸の後、そう告げて指をナイフで切り、血を落とす。
    「ブラームス・レコム・アルスの名に於いてこの契約の成立を宣言する」

    その、契約の為の宣誓で、私は初めてこの男の名を知った。……思えば私もこの男に自分の名を名乗っていなかった事を思い出す。
    これまで「おい」とか「お前」で済まされてきたし、私も「あんた」とか「ちょっと」で済ませてきたから……ね。
    それで特に問題にもならないってのはどうかと思うけど。

    「んじゃ、とっとと血を寄越せ」
    ……相変わらず面倒臭そうなのが気に食わないけれど、こちらの都合で断れない契約を結んだばかりだ。一つ息を吐いて大人しく目を閉じる。

    血を吸われる事自体は流石にもう慣れたけど。
    その際に感じる快楽には未だ嫌悪感が抜けないと言うのに……
    (え、ちょっと何……、気のせいじゃなきゃこれ……パワーアップしてない!?)

    耐性の低い感覚に、図らずも身体から力が抜けていく。吸血が済み、壁ドン状態の拘束が解けると私の意思を無視してフラフラとその場に座り込む私の身体。

    「(全く面倒な……)」
    それは、恐らく私に聞かせるつもりではなかったのだろう、ごく小さな囁きだったが、運悪く私の耳が拾ってしまった。

    「……っ!」
    そう、元々“面倒臭い”がスタンダードな男だ。だから大したこと無い、そう思おうとする。でも、何故かその言葉は鋭利な刃物の様に深く突き刺さった。

    「……始めるぞ」
    庭に出て適当な地面にまた魔法陣を描き、何やら呪文を唱え始める男――もといブラームス。
    呪文が終わると同時に陣が光を放ち、青年と女性が一人ずつ現れた。

    「今は一度に二人が限界だな。次やるには少なくとも一月は力を貯めないと。あ、こいつら同士で繁殖させて増やすのは可能だぞ」
    「ちなみに彼らの教養は?」
    「最低限生活するのに困らない程度の素養はある。ああ、エリアはここに一番近い町一つが限界だな」

    ……取り敢えず、彼らには農業のお手伝いをお願いするとしよう。早いとこ種を入手しなくては。
 
   「で、彼らの名前は?」
   「お前が適当に決めろ」
   「なら、アダムとイブ……それともイザナギとイザナミ?    ……あ、ファミリーネームも要るか。ならアダム・イザナとイブ・イザナで良いか」
    私はそっと立ち上がり、彼らの手を引いた。
    「貴方達の家へ案内するわ」
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